第5話「最強の敵、イーヴィルタキオン!」 Aパート①
魔法素粒子界。ゲッシー達が住む世界、という設定だ。
中世から派生した超文明。錬金術と舞台演劇が発展した、
科学と芸術の、ルネサンスのシンギュラリティが起こった、
草之根ヨシノ達から見た異世界…という設定である。
「すごい映像…本物みたい」
中近世の西洋建築の意匠に、サイバーチックな光のライン。
敷かれる道路を走る、宙に浮かぶ車輪の無い車。
非現実的なビジュアルに相反して、3DCGやAI生成のような、
作り物のような空気は、映像からは不思議と感じられない。
「ペルソナクスはこんな素晴らしい世界を拒絶するなんて…」
割れる窓、崩れる外装。砕け散る洋館――
その直後、ワルターの軍団が建造物の破壊を始める。
その様子を見て、絶望に震える小動物。ハムスターである。
画面から発せられる音声は、ヨシノにとって聞き慣れた声。
「ルミナキャストの力が必要だ…!」
ゲッシーが使命に燃えて、物質界――すなわちヨシノの世界に飛び込む。
これは、「魔法素粒子ルミナキャスト」第1話の冒頭の映像である。
そんな筋書きの映像を鑑賞しつつ、魔法素粒子界を観光したいと思うものの、
それは、ルミナキャストがペルソナクスを打倒するまで。
感心しながらも閲覧を終えて、モニターの電源を落として学校へ向かう。
「確かに…空き缶を黄金に出来たら大金持ちだよね」
昼休みの図書室。誰にも聞こえないような声量で、
ヨシノは手に取った本の感想を呟く。
卑金属を貴金属に変換する。それが錬金術の命題である。
そして、ヨシノにとって一番身近なもの。
ルミナスコープの動力、「ルミナストーン」。
いわゆる賢者の石である。
「やっぱり、それくらいの価値があるのかな、ゲッシーの説明からしたら…」
ゲッシーが語ったルミナストーンの機能。
それは自家発電可能な演算装置。電池そのものがパソコンや、
スマートフォンのCPUとして働くイメージのようだ。
過去の時代、錬金術師が追い求めた賢者の石。
実のところ「石」であるかも怪しい程に、
曖昧なものであったとされる。それはヨシノの世界、物質界の話。
魔法素粒子界ではそのように定義され、完成に至ったという。
「それで私が変身できるってわけね」
ルミナタキオンとして戦うヨシノ。
苦手な理科を勉強する目的も併せて、錬金術の歴史も
図書館で調べるようになった彼女。
聞き齧りの知識ではあるが、なんとなくその凄さを悟る。
彼女が腕に巻くアクセサリー。撫で回すように見つめながら、
その変身機構の仕組みに感心する。
「フェイクだろンなもん」
「いやマジだって!見ろこれ見ろ」
残りは放課後に読むこととして、一旦図書室を出たヨシノ。
そんな中、教室に戻る傍らですれ違う、クラスメイトの野球部員。
そんな彼が、別のクラスの派手な見た目のサッカー部員と、
騒がしく廊下で張り合う。元気だなあ…。
目の替わりにその耳で、二人の論争を暖かく見守り、
ヨシノは通り過ぎる。
「いやでもよ、これ動きがマジっぽくね?」
偽物と断定するサッカー部員に対し、野球部員は引き下がらない。
聞いている限りではスマートフォンの動画。
とりわけSNSにアップロードされたものについて論じているようだ。
物理法則的なありえなさ。過剰なエフェクト。
ハルシネーションを疑う意味不明な文字。
これはサッカー部員が示した根拠であるが、
確かにAIで捏造した動画にありがちな要素そのもの。
続けて、サッカー部員は動画コンセプトについて語る。
「それにこれアレだろ?魔法少女…こんな田舎にもいい趣味の奴がいたもんだな」
「フェイクだよ!絶対!!」
ヨシノの目玉と絶叫が、身体よりも先に二人の会話に割り込む。
レンタルショップの屋上で怪物と戦う魔法少女。確かに、
これだけ聞くと、マニアックな趣味の者が自身の空想を具現化した妄想動画、
と解釈しても何もおかしくはない。映っているのがルミナタキオン、
というのがヨシノにとっての大問題ではあるが。
「草之根もフェイク派かよ~」
ヨシノの叫びにガッカリする野球部員。そりゃそうだろ。
そんな表情で両手を後頭部に回すサッカー部員。
突然割り込んだヨシノをも受け入れる度量を見せた二人であるが、
自分自身が撮影された異常事態。彼女はそれどころではない。
もしかして、私の正体がバレるのも織り込み済み!?
痒いところに手が届かない。ゲッシー達が与える試練は、
何もペルソナクスとの戦いだけではない。
「それにしてもこのコ、モデルとかいんのかな?」
幸いにも、それくらいの痒みには手が届いてくれているようだが。
草之根ヨシノの容姿そのままのルミナタキオンを見ても、
二人の運動部員はこの反応。人々の認識に対して、
何らかのジャミングが働いているようだ。
「ききききっと完全なオリジナルだよ!ははは…」
ルミナタキオン本人がこう言うのだ。
きっと草之根ヨシノとは関係ないのだろう。
そんな願望を込めて、ヨシノはその場を去る。
「バレないように立ち回るのがヒロインの務めだよ、ヨシノ!」
放課後。図書室に堂々と乱入してきたゲッシーが自信満々に語る。
図書室で騒ぐんじゃない!そう叱るヨシノに対して、
一向に帰ってこないからこちらから来たんじゃないか、
と悪態をつくゲッシー。そして、昼間のヨシノの予想通り、
ルミナタキオンが被写体として撮影される行為や、
目撃される事に関しては、特別制限をかけていないようだ。
「最初の戦いの時のお婆さんは、ちょっとした催眠術をかけたけどね」
ルミナタキオンの初陣の際、ワルターに攻撃されそうになった老婆。
彼女に関しても、ムジカントムの強行姿勢が無ければ、
タキオンに助けてもらう予定だったと言う。
ヨシノならば、そうしていたから。すなわち、
絶対に助けていたはずだからと付け加えて。
「ある程度受難がある方が輝くってものさ」
ルミナタキオンとしての姿。そして正体。
それを上手く誤魔化して戦うのも、彼女の責務であるとゲッシーは言う。
いい画を撮るためだけに負荷をかけるな!
以前、通学カバンに入っていた時に見せていたような、
申し訳なささえ消え失せた、開き直ったゲッシー。
彼に対して、そう叫びたいヨシノだったが、
ゲッシーが衆目に晒される以上に重要な事と言えば、ここは図書室であること。
みだりに騒ぐわけにもいかずに、ひとまずゲッシーの口をその手で塞ぐ。
「ヨシノさんは図書室で読む派ですものね」
「えっ!?うんそうだね」
そんな中、賢界が会話に割り込む。
幸いにも、咄嗟にカバンに詰め、いないものとして、
その存在を誤魔化したゲッシーの姿は見られていないようだが、
今の会話は独り言にしてはあまりにも不自然。
「自分の家じゃ気が散るから、って言っていたけど借りてもいいと私は思うわ」
本を汚さない限りは、図書室と違って融通も利く。
そんな何の変哲もない提案を述べる賢界も、
ヨシノの異様な独り言は気にも留めていないようだが、
全てを受け止めるような、その笑顔がむしろ恐ろしい。
ヨシノも、そしてカバンの中のゲッシーもそう感じている。
「こうは言ったけど、僕としても姿を見られちゃまずいと言うか…」
なら騒ぐんじゃない!
ヨシノは小声で不安を漏らしたゲッシーに対して、
そんな悪態を心の中でつきつつ、
たまたま出くわした賢界と一緒に帰路につく。




