第3話「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」 Bパート②
「ムジカントム!その倒れてる人はなに!?」
「フフフ…来たか、ルミナタキオン」
現場に到着し、構えるタキオン。
ムジカントムの傍らには、ネクタイが特徴的なワルター。
そしてその近くには、倒れているスーツの若者。
この男性に対して、何らかの加害を行った事を想像するのは容易である。
「そのワルターで何をしたの!?ムジカントム」
「こいつにか?違うな、そいつがワルターだ」
ワルターが傷つけたと予想したタキオンに対して、
ムジカントムは改まってワルターの成り立ちを説明する。
ワルターとは、心の闇を抽出した怪物。すなわち人間が素体であると。
ともにネクタイ姿。確かに、ワルターと男性の漠然とした特徴は一致する。
ワルターの存在。その意味を察し、タキオンは驚愕しつつも、ムジカントムを睨む。
「ワルターを倒したら、元の体に心は戻る!その人を助けよう、タキオン!」
マッチポンプのようなもの。
街の人を巻き込んでよくもそう言えたものだ。
ワルターとの決着を促すゲッシーに内心で悪態をつくも、
タキオンは目下の敵・ムジカントムとワルターに対し、構える。
「ワルターが街の人なら、やっぱりあなたを先に倒さないと!」
「フフ…研修開始だ、ワルター。先輩の仕事っぷりをよく見るんだな」
ルミナタキオンとの戦いを現場に喩え、懐から短刀を取り出す。
ムジカントムのその殺気。最初の戦いで感じた仮面の通り、自分では戦えない、
ワルターに任せっきりの存在では決してない。タキオンが確信するもつかの間、
既にムジカントムはタキオンの眼前。なんとかその両手で、
携えた短刀を持った手を抑えつつ、ムジカントムの突進を受け止める。
「タキオンの名を返上したらどうだ?俺の方が速いかもしれないぞ」
皮肉を込めた挑発に違わず。ムジカントムの速度、それに伴う質量は確かなもの。
その勢いを殺すものの、その速度の余波で地面を削る、タキオンの足元。
その隙を見逃すムジカントムではない。仮面の奥の瞳は見えず、暗闇。
しかし、タキオンはその闇から妖しい光を幻視した時はもう遅い。
タキオンの腹部に、強烈な膝が鈍器のように打ち込まれる。
「フフフ…少しやりすぎたかな?どうしよう」
最後の一言は余計だと思いつつも、この痛みは強烈。
ムジカントムに反撃しようにも、添えた掌を離すにはタイムラグがある。
若干俯き、気まずそうなムジカントム。間違いなく敵なのは分かるが、
もっと敵らしくしろと言う、その内心を漏らさず。
ヨシノの心持ちは、再びタキオンに戻る。
「これくらい!」
安心したかのように心臓に向かって飛び込むが、
ムジカントムが握った短刀は、即時展開したタキオンの杖、
ルミナステッキに受け流される。
瞬きほどの時間の鍔迫り合いで再び距離が開くが、
次の瞬きで後方に吹き飛ぶのはムジカントムだ。
お返しだよ、と言わんばかりにタキオンの鳩尾蹴りが叩き込まれる。
「そろそろお前の出番だぞ?行くんだ、ワルター」
吹き飛ばされる中、スムーズに後転の動作に移行し、
受け身がわりに勢いを殺しつつ、立ち上がるムジカントム。
このワルターを作ったのも俺の後輩のようなもの。
そう一言付け加え、何処か余裕を残したまま、
ワルターへバトンタッチを行う。
「私だけが巻き込まれたわけじゃないんだね…」
ルミナキャストの主体たる、草之根ヨシノ。
自分だけがこの逃げ場のない状況に放り込まれたわけではない。
そう確信しつつ、共にこの狂った状況に戦う仲間に対し、
想いを馳せる。
「何が後輩よ、ムジカントム」
戦いの死角。物陰に引っ込んだムジカントムに対して、
睨みを利かせるのはエゴシック。
立場上、ペルソナクスの幹部として彼女らは対等である。
それ故、勝手に後輩扱いしたムジカントムに不満を隠せない。
ルミナキャストと2回戦った先輩という事でどうだ?
とおどけるも、役に立たない先輩ねと、二連敗を引き合いに切り捨てる。
「…戦わない?」
観戦を行いに来たはずのエゴシック。
しかし、予想外にも、タキオンは戦う姿勢すら見せない。
ワルターも微動だにしない。あの男の心の闇は、
そう弱いはずがないだろう。この奇妙な状況に、
ムジカントムも不思議がる。
「(教えて)」
タキオンは、その心で語り掛ける。
名付けるなら、ルミナテレパス。「心の音」を聞ける能力。
対象が何を考えているか、何を感じているのか。
心の声ほどハッキリとした言葉ではないが、その輪郭を読み取れる力である。
ルミナタキオンは目を閉じ、ルミナステッキに神経を集中させる。
ノイズのような意味の通らない音声。彼女は、それに語りかける。
「(もしかして、就活に失敗した?)」
ルミナタキオンの心の声に対して、ワルターはクリアな、高い音を出す。
世知辛いなあ…と思いつつも、何で失敗したの?と少し聞く。
今度は激しいノイズになる。ルミナタキオン──ヨシノは、
まだ中学二年生。就職活動など知る由もない。だが、そんな彼女も、
失敗を誤魔化したい気持ちはよく分かる。彼女の持てる精一杯で、
ワルターを、その素体になった若き青年を励ます。
「(理由から目を背けないで。それを乗り越えたら、絶対に理解してもらえるから)」
膠着状態になるタキオンとワルターを観戦する、ムジカントムとエゴシック。
何をやっているんだ、と思わず前に出ようとするムジカントムに対し、
エゴシックはそれを抑え、静止させる。
「小手先の技でどうにかなるものではないわ」
漠然とではあるが、彼女もタキオンが何をしているのか理解したのだろう。
年若い少女の説得に、自らも若いとはいえ、人生経験で勝る人間、
就職という岐路に立った者が、それよりも前のステップ。
学校生活と言う枠に留まる程度の、齢十四の小娘の言葉に、
そう簡単に乗るわけがないだろう、と。
「やっとワルターの性能を見られるようね。楽しみだわ」
エゴシックの読みは当たった。ワルターの右腕が、
ルミナタキオンを潰そうと振り落とされると同時に、
タキオンは高く飛んで躱す。そこからカウンターの如く、
彼女の身長大ほどの頭部を勢いよく蹴り飛ばす。戦闘再開。
「硬い!」
凄まじい運動エネルギーの伴ったタキオンの必殺シュート。
クリーンヒットによる衝撃に反して、ワルターは微動だにしない。
その顔面で見事、タキオンの脚を受け止めた。
むしろ、自分の蹴りの勢いをそのまま受けたタキオンが表情を歪める。
「やっぱりちょうどいい素体だったわね、あの男」
自らが選定したワルターの力に感心し、
エゴシックが不敵に笑った直後、すぐに表情を曇らせる。
ワルターが動かない。それどころか、
何処か申し訳なさそうに首を垂れる。
追撃ができる状況で何もしない。自身の予想と結論に反して、
励ましの言葉に絆された可能性に焦燥する。
「フフフ…喉が渇いた時の水のようなものさ」
深く落ち込んだ者に、シンプルなエールがかえって響いたのだろうと、
ムジカントムは所感を述べる。ワルターは剥き出しの心の具現体。
それに対してかけて欲しい言葉がかけられたら効果覿面であろう、と。
もっとも、今回は偶然。素直に絆されてくれる男に出会した。
常に上手くいくはずもないと補足をし、エゴシックを否定もしない。
「一体どんな言葉をかけたの、あの小娘」
おいおい、お前と同世代だろ?ムジカントムは、
そうやってエゴシックの放った怒りの言葉を笑って流す。
それと同時に、見た目だけならな、と付け加えながら。
今は余計と言いつつ、エゴシックの神経はワルターに向けられる。
激しい殴打に、時折ルミナライトアップでの光線を織り交ぜるタキオン。
その攻撃の連打に対して、ワルターが動じている気配はない。
「そう…今のルミナタキオンのレベルではこの程度…通用しないはずなのに」
エゴシックは唇を噛む。タキオンの攻撃は確かに通じていない。
それでいて、ワルターはその不定形の肉体を霧散させようとするように、
糸を解くように形が崩れ始めている。そして、その隙を見逃すタキオンではない。
彼女の心の速度は、何人たりとも逃がさない。光のドームが、ワルターを包み込む。
「タキオンフィールド…!!」
畏怖か、武者震いか。自身の宿敵たり得る少女。
エゴシックは、ルミナタキオンの技の名を、絞り出すように呟く。
直撃した際、ムジカントムをも撤退させたその力。
当然、ワルター一体程度は容易に掻き消してしまう。




