第3話「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」 Bパート①
「どうしたの、ヨシノさん」
その日の朝のヨシノは、クラスに入って来る際も威風堂々とした笑顔。
どこか自信に満ち足りた様子のヨシノを見て、賢界が質問を投げかける。
最近やっているスマホゲームで、新スキルを獲得したんだ。
そんな卑近な理由を述べつつ、席に座って背伸びをするヨシノ。
「三鳥さんのおかげだよ、ありがとう」
突然のお礼。ヨシノが語るところによると、賢界が読んでいた本。
抽象画の美術書と、彼女の解説が、最近ヨシノがハマっている、
ゲームの攻略のヒントになったと言う。どういたしまして、
と微笑を浮かべ、少し嬉しそうな賢界。ところで、
ノリカちゃんって呼んでもいいのよ?ヨシノさん。
そう言って、唐突にウインクをする賢界に少し困惑。
「あはは…別に苦手とかじゃないんだよ」
穏やかで控えめな賢界にしては、強烈なアプローチに驚くヨシノだが、
賢界から出ている品格に対して、うっかり畏ってしまうとその理由を述べる。
そこまで大したものじゃない、そのように賢界は謙遜しつつ、ふふっと笑う。
「フフフじゃないわよ?」
賢界が最後に付け加えた一言で、思い出すのはムジカントム。
ヨシノは少し凍りつくものの、気を取り直してカバンを開ける。
そのカバンの中。教科書のかわりに詰まっているのは、茶色い巨大な毛糸。
数日ぶりに顔を見せた、ゲッシーである。
「ゲ、ゲッシー!?なんで学校に」
隣の賢界に見せないように、聞こえないように。
カバンに体を被せ、小声で驚くヨシノ。
こんなにも怪しいハムスター。もし衆目に晒されたら、
何があるか分かったものではない。秘匿に悩みつつある中、
無策で学校に来たゲッシー。ヨシノが困惑するのも当然だろう。
しかし、当のゲッシー本人も相当気まずそうな表情。
お前からやって来たんだろう。言葉がなくとも、
そのように語るヨシノの眉間に圧倒されるゲッシー。
威圧感の鍔迫り合いは彼女の圧勝である。
「そ、そういう流れにしたいって言われたからさ…」
無言で視線を送るヨシノ。それに対して、ゲッシー側の回答はこう。
エピソードのフックとして、何も知らずに学校にやってきて、
振り回される主人公を描きたい。文字通り、制作の「ご都合」である。
確かにマスコットってそういう事するけどさ…。
自身が視聴してきた作品を引き合いに回想するものの、
強引極まりない動機に困惑せざるを得ないヨシノ。
「あっ待ってゲッシー!」
気まずそうな表情で飛び出すゲッシー。
幸いにも、ゲッシーの存在は捕捉されていないようだ。
小声で叫びつつ、歩いて追いかけるヨシノ。
あくまで視線は彼女に向けられている。
「忘れ物か?」
クラスメイトの反応もこの通り。
賢界も同じように、不思議そうに首を傾げる。
たまたま開いていた空き教室。
本題に入るよと、ゲッシーが取り出したのは「ルミナボックス」。
集めたルミナストーンを収納する、宝石箱である。
そんなもの家に帰ってから見せなさいよ…。
言わずともヨシノの顔はそう訴え、呆れる。
彼女としても、学校生活を邪魔されてはたまったものではない。
ゲッシーは目に涙を浮かべ、若干怯えつつもルミナボックスの解説を続ける。
「ほら、中を見てごらんよ」
「何も入ってないよ」
ヨシノの率直な指摘。
「やべっ!」そんな、締まりのない声をあげながら、
中身に相当する物体を、そそくさと入れ込むゲッシー。
ちょうど、ルミナストーンが収まるサイズ感。
電源を入れたかのように、宝石箱の中の賢者の石は、煌びやかに輝く。
「うおー、このジュエルボックス充電器みたいだね」
スマートフォンの付属品に喩えるとは、あまりにも卑俗な。
そう思い直して訂正しようとしたものの、
ヨシノの予想に反し、ゲッシーはとても満足げ。
「スマホってバカに出来ないと僕は思ってるよ?」
ゲッシーは真面目に、嬉しそうに述べる。ルミナボックス。
そしてその源たるルミナストーンこそ、魔法素粒子界の叡智の結晶。
ヨシノの住む物質界の叡智の結晶を引き合いに出されるのは、
むしろ本望なのだと言う。
「…という性格設定なんだ」
「やかましいわ!もっとちゃんと没入しなさいよ」
あくまでゲッシーは、魔法素粒子界の使者…を演じるハムスター。
自分を巻き込んで、本気の戦いを強要する以上はゲッシーの側も本気で演じろ。
ヨシノはそんな怒りを帯びつつも、今度は自分のターンと言わんばかりに、
成果報告を行う。
「見つけたよ、ルミナタキオンの新技」
スマホゲームと言うのは、当然の如く大嘘。
賢界の解説から見出した、新たな技。自信満々のヨシノに対し、
口を縦に開き、おおっと驚き、笑みを見せるゲッシー。
ルミナステッキの機能を見事引き出したことに感嘆する。
その次の言葉として、戦うような技じゃないかもしれないけど…
と述べたのもヨシノだが。だが、ゲッシーは先程とどうよ、満足げ。
「ルミナステッキの最初の7割に、無駄な技は入れていないよ」
その瞬間、ゲッシーの体が震え、サウンドが鳴り響く。
どこからともなく、その体からタブレットを取り出し、画面を睨む。
着信?とヨシノが聞くが、そうではない。ワルターの反応であると言う。
「ワルターの存在が位置情報と一緒に感知できるんだ」
不在にしていた数日間。
その間、ゲッシーがタブレットに導入したアプリである。
今すぐ行こう。そう空き教室を飛び出そうとするヨシノに、
ゲッシーはひとつ、質問を行う。どんな技を身につけたのか?と。
ヨシノが軽く説明したら、少し納得したようにこう返す。
「ワルターの戦いでは、特に役立つこともあるかもしれない」
そんな能力であると。




