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第3話「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」 Aパート③

「ヨシノ、寝不足?」


 凪(なぎ)と一緒に歩く通学路。疲れた顔つきで、彼女の質問にヨシノは応じる。

面白い動画を探そうと思ったけど、結局見つからずに終わった。

そんな内容の伴わない会話で誤魔化し、そのまま流される。


「あたしはゲーム実況観てたわ」


 凪は自身の弟に付き合って、ゲームなども時折行う。

その流れもあり、弟との共通の話題であるゲームのプレイを眺めていたらしい。

ヨシノは上手く話題を逸せて安心しつつ、凪の話に耳を傾ける。

もっとも、誤魔化すも何も。ではある。いい動画がなかったと言うのも、

魔法少女として新技を模索していた、などと言う、

横から聞いたら正気を疑う発言よりは余程現実的。

そうして見ると、ルミナキャストの事も、意外とバレないかもしれない。


「昨日映画観たわ。オペラ座の怪人」

「うへっ!?」


 オペラ座の怪人と言えば勿論、狂気を帯びた、芝居がかった仮面の男。

ムジカントムを真っ先に思い出し、思わず目を見開くヨシノ。

通学路でのやり取りと同じように、教室に着いたのち、

流れで賢界(のりか)に動画の話題を自ら振ったところ、思わぬ地雷を踏んでしまう。

不自然なほど焦るヨシノに、どうしたの?と微笑む賢界。

昔観た時、すごく怖かったからとありもしないトラウマを語り、

なんとかその場をやり過ごす。高を括っていたものの、

何かの拍子にルミナタキオンの存在、その正体が衆目に晒されてもおかしくない。

ヨシノは考えを改める。



「何それ落書き?」

「違うわ」


 昼休み。ちょっとした用事でヨシノのクラスへやってきた凪。

そんな彼女の素直な感想に、笑って一言釘さす賢界。

賢界はそのまま、図書室から借りてきた美術図解をめくる。

確かに…と内心納得するのは、この二人の仲介役。凪と賢界の共通の話題のヨシノ。

ヨシノの目にも、賢界の開いているページは漠然とした点にしか見えない。

怪訝な顔をする二人に、現代アートよ、

と微笑みながら一貫した声色で返す。


「アートって言ってもさあ、手抜きじゃないのこれ?」


 凪も悪気があって言っているわけではない。こんなものを

美術の時間に提出したら、間違いなく通信簿は最低値。

疑問に思うのも不思議ではないが、そこでも賢界はトーンを崩さない。


「心の形ってそういうものなの」


 このアーティストは心と空間を描いている、という。

心にも空間にも具体的な形はない。

実体のないものの実体を描いたところで、それは嘘になる。

そんな彼女の解説を聞くも、凪もヨシノもいまいちピンと来ない。

心を理解しきれたら誰も苦労しないでしょ?そんな表情をしながら、

賢界はまた読書に戻る。私には多分分かんない。凪は自身の審美眼を肯定せず、

それでいてそのアートを肯定しきれず。小さく唸って上を向く。

それにしても、図書館か…。ヨシノは何かを思いつく。


「抱擁がエンブレイス…」


放課後、和英辞典を引くヨシノ。

勉強をしているのではない。ネーミングの探求である。

新たな技のインスピレーションを得るのは勿論、

名前ひとつが今後を左右するのも確かなのだ。

宇宙基準に翻訳されるものの、ニュアンスは据え置き。

それ故に、格好のつかない技名を叫ぶと、継続した恥を晒してしまうのだ。


「これがタキオン抱擁ならダサいけど…」


英語のタキオンエンブレイスならばイケる。そんな噛み合いを考察する。

演技臭さを排したいが故に、ゲッシーの説明は常に中途半端。

実際、タキオンフィールドですら、正しく「タキオンフィールド」

と伝わっているかも分からない。「タキオン力場」といった、

どこか奇妙な名前になっているかもしれない。現地の「いい感じの響き」に、

翻案されていることを祈るヨシノである。


「凪はまだまだ部活だろうな〜」


そう呟きながら、ヨシノは呑気に帰路を歩く。

運動部員の苦労は分からない。しかしながら、痛みに耐えて闘う様に関しては、

私だって負けてはいない。そう彼女は自負しながら、

バスケットボールを弾ませる仕草。ドリブルのジェスチャーを行いつつ歩く。


「いや…私はあんな軽快には動けないか」


ルミナタキオンならまだしも、草之根ヨシノでは…。思い出すのは、小学校時代の体育で見せた、凪の華麗な動き。

もしかしたら、タキオンになってもまだ勝てないかもな…。ヨシノは思う。

結局、敗北感を覚えつつ。ヨシノにしか出来ないことに再び向き合う。

視聴者のために、その日の夜も、次の技を模索し続けるのであった。



人工の蜘蛛の巣を結ぶ電柱。

コンクリート製の林の上の、電線に立つ男と、空に浮く少女。

地上を歩く、うつむいた男を彼らは見下ろす。


「フフフ…今日はお前も出撃か、エゴシック」

「ええ。ワルターの使い方を教えてあげるわ」


連日の失敗を見かねたのか、今回はエゴシックも現場に出る。

ムジカントムでは力不足、とでも言いたげだ。

ワルターの使い方はかくあるべきと講釈する。


「見なさい、あの今にも干からびそうな、老いぼれた男を」


エゴシックは掌を地に向ける仕草で、うつむいた男を指し示す。

しかしながら、容貌自体は彼女の言葉とは真反対。

若々しい印象で、ジャケットを片手に持ったYシャツ姿。

もっとも、生気のなさに関しては、エゴシックにも一理ある。

曲がった腰。弱々しい歩幅。営業活動の失敗か、

就職活動の難航か。いずれにせよ、芳しくない何かがあったことは伝わる。


「ワルターを構成するのは、人の心の影」


ペルソナクスとゲッシーだけが知る、

ワルターの材料と制作過程を再確認する。

特製の仮面を用いて、人の心を吸い取る。

仮面がその心を縛り付け、ワルターの血肉とする。

心の闇が深い者を素体にすれば、より強力な個体が誕生するといった具合だ。


「もっとどうしようもない人間の方が、旨味もありそうなものだが…この地に根を下ろす以上はこんなものか…フフフ」

「そういうアンタが大して吟味もせずに素体を選んでいたんでしょ」


 ムジカントムは皮肉を言いつつも、同様にエゴシックに皮肉られる。

そして、そんな二人のやり取りに応じるように。

Yシャツの男は意識を失い、その場でバタリと倒れ込む。

その肉体から、ネクタイを付けた黒い不定形を噴水のように押し出しながら。

これにて一件勃発。リクルートスーツ・ワルターが完成する。

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