第3話「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」 Aパート②
「久しぶりだね、ゲッシー。私だ」
宇宙のSNSの閲覧中、突如舞い降りた着信に応じたゲッシー。
そして、画面に映るのは、犬の顔をした男。ワンちゃん!?
と、思わず口に出してしまいそうなヨシノであったが、なんとか口を塞ぐ。
医者のような白衣を纏った姿。年季の入った穏やかなそうな表情。
優しい雰囲気ながらも、厳かな空気を画面越しに醸し出す。
ヨシノの直感が、可愛い犬扱いをするには到底相応しくないと訴える。
そして、犬の顔の老紳士の、体毛に覆われたその手に持つは、ルミナストーン。
魔法素粒子界からの通信、もとい通信という体のシーン作りだろうか。
このルミナストーンはレプリカだがと、液体の入ったフラスコや、
書物をバックにした老紳士は前置きしつつ、一つのメッセージを送る。
「遂にルミナストーンを収める宝石箱が完成したぞ」
ルミナストーンがスッポリ入る、特別な宝石箱であると言う。
そして、異世界同士の物品のやり取りには、数日間ほどのインターバル、
そして特殊な受け取り手順が必要。少しばかり時間がかかるが、
しっかり受け取って欲しい。ルミナストーンを集め、
納めていけば、奇跡の力が君たちの助けになるだろう。
そして、健闘を祈るぞ。ルミナキャスト。我が弟子、ゲッシー。
優しい声色で、ゲッシーに対する激励を送る老紳士。
ゲッシーの師匠か上司だろうか。ルミナスコープを作ったのもこの人かもしれない。
そんなことを考えながら、通信が切れたのち、ヨシノはこの博士について質問をする。
「誰、あの人…」
「知らないんかい!」
ここまで場当たり的な現場だったのか。
ヨシノも叫ばざるを得ない。ひとまず、犬の博士のことは一旦忘れて、
後日届くという、宝石箱の詳細だけを考えることとした。
そんなヨシノの日常を知る由もなく、
オペラ座の舞台が如き壇上に座る仮面の男。
バイオリンと共に、オーケストラの一員として弦を擦る。
その周囲に溶け込んだ華麗な調和に反して、
流れる音源は彼の背後のCDラジカセ。
この男が行っているのは、単なるジェスチャーかパントマイムの類だ。
「精が出ているわね、ムジカントム」
演奏ごっことでも言うべき彼の様子を見て、歌劇令嬢・エゴシックは軽く微笑む。
対して、幻影紳士・ムジカントムの方も、今日はえらく機嫌がいいな、
と言わんばかりに、いつもの薄ら笑いで返す。
「やっぱりアンタはこういうのが一番似合っているわよ」
この前のメタルサウンドとは何が違うのか。
そのような疑問を、ムジカントムは仮面越しに投げかけるが、
ただ一言、「美意識」とだけエゴシックは定義し、話題を終えた。
「くだらん美意識だ。ただのごっこ遊びだろう」
そして、その背後にはもう一人。ビジネススーツを着た男が腕を組み、
彼らの会話を聞きながらも嘲笑う。エゴシックは腰に手をあてた姿勢のまま、
冷ややかに睨んだ。
「フフフ…俺の演奏に見惚れたか?坊や」
「何が坊やだ、若造が」
その容姿は腹の出た老人そのもの。見た目だけで言えば最年長。
しかしながら、立場は対等のようだ。
そうでなければ、わざわざ自分より年季の入った男への煽りに、
「坊や」などといった言葉は使わない。
ムジカントムは変わらずフフフと笑いながらも、
一時停止をしていたCDラジカセを改めて再生し、ディスクを回す。
彼の笑い声は、クラシックの演奏と共に掻き消え、憑りつかれたかのように
無音のパフォーマンスに戻る。スーツの男の方も、
口角を上げたままそのBGMに聴覚を委ねた。
「ただいまー」
帰宅。誰に言うわけでもなく。自室に対して、挨拶を行うヨシノ。
ゲッシーのいない一人の部屋。昨日のタブレットの通話にあった、
魔法素粒子界の錬金術師であろう、犬の博士から預かった、
「宝石箱」を受け取りに、数日間不在にする。
そういえば、そんなことを言っていたな…。
朝方、ヨシノにそう述べていたことを思い出す。
「宿題かあ…」
留守番を行うヨシノに対して、ゲッシーはとある課題を残していた。
これから先、ペルソナクスは更なるパワーアップを図り、
ルミナキャストと戦おうとする。それ故に、今後必要なことは、
ルミナキャストとしての力を高める行為。すなわち、新たな技の究明である。
「おもちゃのステッキ、ねえ…」
ゲッシーから与えられた、高級感は数歩劣る、レプリカのルミナステッキ。
宇宙で販売されているおもちゃの一つである。正中線にステッキをかざし、
気合いを込める。狭い範囲ではあるが、周囲が光に包まれる。
「タキオンフィールドだ…」
突然の体験にヨシノは息を詰まらせる。
このおもちゃに攻撃的な機能は勿論備わっていない。
代わりに備わっているのは互換性。コマンドとしての所作、
それに伴う「機能」はタキオンの技と同様という設計。
つまり、ルミナタキオンの真似をすると、それに応じたエフェクトが、
ステッキから投影されるのである。
揺らし、回し、押し込み、擦り。
ヨシノはおもちゃのルミナステッキをひたすら弄り倒す。
ゲッシーが合間合間に説明していた情報によると、
ルミナタキオンとして使える技は、既に7割がた確定しているという。
残りの3割は、ヨシノの立ち回り次第で書き換え可能な領域。
オンラインでアップデートするので、子供たちがその日タキオンが放った新技を使えない、
といった事態は生じない。逆に言えば、ヨシノがおかしな技を見出したら、
子供たちはおかしな技を再現する羽目にもなる、と言う事でもある。
「だったらもっと教えてよね…」
タキオンとして戦う。経験を積む。新たな技を覚える。
この過程だけは番組サイドとしてもゆずれないらしい。
ヨシノがステッキをこねくり回しているのは遊んでいるわけではない。
ワルターはこれからどんどん強くなる。どうすればタキオンとして
戦いを有利に進められるか。だから、ヨシノにはそれを考えてほしい。
これで新技発見しときなよ。そんな風に丸投げされた、ゲッシーからの贈り物だ。
構え、外し、踊り、くたびれ。
ステッキばかりに苦労はさせないよ。そう言わんばかりに、
彼女自身もポージングを繰り返し、空回り。行き詰まったら机に向かって予習復習。
私はまだアルバイトも出来ない身分。勉強に仕事に忙しいのは大学生、
せめて高校生からでも遅くはないんじゃないの?
そんな困惑を改めて脳裏に浮かべながらも、彼女の試行錯誤は続く。




