第3話「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」 Aパート①
「給料は?」
白黒の丸い物質を指先で板上に添えるという、
見たこともない作業を行う彼女を眺めていた最中、
ヨシノの突然の一言に目を丸くするゲッシー。
彼は夢のために戦う奴が何を言ってるんだ!
と言わんばかりに、その瞳で彼女に訴え返す。
「よく考えたら、私って"世界がピンチだから戦う"って体だったよね」
今度は、目を見開くゲッシー。
そうだった!僕はヨシノを騙したんだった、と、
何も雇用形態を考えてなかった事を思い出す。
確かに、無償のヒーローとして戦わせるのと、
事情を知ってしまって戦うのでは、何もかもが違う。
だが、ヨシノもヨシノで別に圧をかけている雰囲気はない。
「何その遊び?」
この唐突な質問に対しても「囲碁だけど」と、
詰め碁をしていたヨシノは返す。
そんなもの知らんと言わんばかりに、
ゲッシーは彼女が当たり前のように話す事に食ってかかる。
それに対して怒るわけでも呆れるわけでもなく、
そりゃそうかと、囲碁は地球の娯楽の一つだよとヨシノは語る。
「あ〜…ヨシノはイゴの部活に入っているって情報、確かにあった」
ヨシノはオーディションのもと、
本人の意思に関わらず、戦わされる羽目になった身である。
そんな彼女が選ばれた選定基準。その中には、「忙しすぎない」
…というのも加点要素として存在していた。
部活動が絡まない、と言うのはゲッシー達にとっても都合が良かったのである。
「でも、部活動は知ってるんだ」
今は宙ぶらりんになっているが、部員が卒業や転校で、
自分以外にいなくなっただけで元々は囲碁部だったヨシノ。
そして、ゲッシーの地球の知識への偏りを悟る。色々教えてあげないとな、
と思ったところで彼女は改めて質問した。
「何も考えてなかったの!?」
痛みが伴う行為をさせられた上でタダ働きはどうなんだ。
これは当然の疑問だし文句の一つも言うだろう。
一方でゲッシーも、彼女に対する雇用契約の類を何も考えていない。
その頭と契約書の原稿は共に真っ白だ。
「よ、ヨシノのお父さんの仕事を良くしてあげるよ!」
予想外の回答に、今度はヨシノの思考が止まる。
その真っ白な頭に、ゲッシーが即興で契約条件を書き殴ったような感覚を覚え、
それ給料?でもパパに何かいい事があればいいのか…と、
釈然としないが納得はする。腕時計のように左腕に巻いた、
開閉式の水晶体・ルミナスコープを眺めて、
ヨシノは次の戦いに思いを馳せるのであった。
「ベルトは!?」
魔法少女にあんなベルトは似合わないと不評だったために、
急遽最初のアイテムに戻したと言う。
「あの苦労を返せ!」
大丈夫か、そんな場当たり的な現場で。
そうヨシノが頭で考えるのは、自分の必死の練習を台無しにした、
ゲッシーに怒り散らした後だ。でも、それだけじゃないよと言うのはゲッシー。
どこからともなく取り出した、自前のタブレットをヨシノに見せる。
ちょうどヨシノが付けていたベルトを巻いた、小さな女の子だ。
地球人と同じ体躯と容姿だが、ファッションは鉄鎧と地球の常識にいない事はわかる。
「買ってくれたんだ!」
そう、ヨシノの活躍が届いたんだよとゲッシーは美談を語る。
いや、あんた無かったことにしただろ!とその騙りに対し呆れつつも、
自分の行為が無駄ではない事に思わず破顔する。
「このおじさんも買ってくれたんだ」
ヨシノはゲッシーが画面をスライドさせていく中、
一際目立つ投稿者の画像を見つけて、フリックを止めさせる。
服装は所謂、海パンに近い。筋骨隆々の姿に、体毛がない姿に青い肌。
白目と黒目と歯がネガポジ反転したような、地球人とかけ離れた姿をしている。
その個性的ながらもシンプルな格好。その腰には、
先日のタキオンのベルトが巻かれているので、相当目立つ。
「これ女の子だよ」
「女の子!?」
この種族は年齢や性別が曖昧であり、一律に同じ姿をしている。その代わりに、
ジェンダーやパーソナリティなどが個々人に属性として振り分けられるといった、
地球では見られない在り方をしているとゲッシーは語る。
宇宙は広い。ヨシノは彼の解説で強烈に痛感する。
もっとも、自分に喜んでくれたのが一番で、容姿は些細な事。
画面越しに「遠く」まで伝わった事に感謝する。
「ファンアートもそこそこ描かれてるね」
SNSにはイラストを描くのが得意なユーザーも数多く。
それは地球に留まらない話のようである。
ゲッシーがタブレットの画面をタップしながら、
様々な感想を一言一言述べていく。ちょっとゲッシー、私にも見せて!
そう言って、ヨシノも画面のスクロールに途中参戦。様々な画風で描かれた、
ルミナタキオンのイラスト。油絵風、抽象画風、漫画風、美少女風。
意外にも、地球のアニメイラストや絵画と大差ない。
「後々話すけど、地球って結構すごい星なんだよ」
「すごいって何が?」
ヨシノにとっては勿論のこと、ルミナタキオンに変身させるような、
超技術を持った宇宙人の方が遥かに凄い。
しかし、ゲッシーの観点は少し違うようだ。
そんな中、画面から飛び込んだのは、タキオンの新たな画像。
…確かにルミナタキオンのイラストではあるが。
「うわっ服着てないぞ!」
「言わんでいい!」
突然の情報とその実況。あまりの情報に両者ともに驚く。
少なくともヨシノのような少女にはSNSは刺激が強い。
たまに教えるくらいで十分だとヨシノは釘を刺した。
「うわっ着信!」
その直後、ゲッシーのタブレットから振動と音楽が発せられる。
何者かまでは知らないものの、着信が来たことはヨシノでも分かる。




