第2話「Eclipse Drive, GO! 変身ベルトで大変身!」 Bパート①
ゲッシーが片手に持ったルビーのような色味の宝石。
それに対するヨシノのどこか煮え切らない返答も無理はない。
ルミナスコープが腕時計の顕微鏡、ルミナステッキが杖…
固有名詞ばかりで彼女の頭が追いつかないのは確か。
とはいえ、ゲッシーはこれでも、番組と商売に対して極めて真剣。
これは重要事項だからよく聞いてよ。そんな言葉を、
ゲッシーがヨシノの耳元に囁いたと思ったら、
すかさず前方へ。大袈裟に虚空に語りかける。
これは私に向けたものではない。「視聴者」に向けた、
ゲッシーによる解説ショーであるとヨシノは察する。
「ルミナストーンは、魔法素粒子界で出来た賢者の石なんだ!」
賢者の石。ヨシノの世界における錬金術の叡智である。
要点をピックアップすると、以下の通り。
ルミナストーンには、超常現象を引き起こす力がある。
例えば、ルミナスコープにとって、最重要の材料がルミナストーンである。
ルミナキャストに変身するには、この宝石が欠けていては成立しないのだ。
そして、ルミナストーンはヨシノの地元に偏在している。
「この賢者の石を集めることが、僕たちの目的の一つなんだ」
「いきなりそう言われても、よく分からないけどね…」
せめて、私に対して色々教えてよね…。自分に対して、
全く視線が向かっていないことに空笑いをしつつ、
何とか調子を合わせ、相槌をうつヨシノ。
そんなヨシノを置いてけぼりにして、さらにトークは弾む。
「ルミナストーンは悪者でも使えてしまうんだ」
ルミナストーンに善男善女しか使えない、と言ったルールはない。
ゆえに、破滅劇団ペルソナクスもルミナストーンを集めている。
強いワルターを作る。ルミナキャスト対策を行う。
その他にも、想像もつかないような行為にルミナストーンを使うかもしれない。
それ故に、ゲッシー達が先に回収を行う必要があるのだという。
「これをムジカントム達に渡しちゃいけない!僕たちが先に手に入れよう、ヨシノ!」
「もちろんだよ、ゲッシー!」
置いてけぼりにされそうな、ゲッシーの一人芝居。
なんとか追いつき、ルミナタキオン・草之根ヨシノとして、
彼女は意気込む。実際問題、目の前に立ちはだかる戦いは、
嘘偽りでもなんでもない。あの時、タキオンとして感じた痛み。
先日のワルターとの戦いが証明している。ところでゲッシー…
「ルミナストーンもおもちゃとして売るんでしょ?」
「うん…」
やっぱり気付いちゃう?そりゃベルトのことがあればね…。
そんな言葉を交わし合う二人の、どこか虚無的なやり取り。
流石のゲッシーも、ヨシノに申し訳なさを覚えつつ、
目を逸らしながら微笑むヨシノと一緒に、笑ったフリをする。
「ルミナスとストーン」
この流れのまま、ヨシノは一言呟く。
その直後に見せた、何かに気付いたような表情。
先程まで逸らしていた目を方向転換。
ヨシノは視線と疑問をそのままゲッシーに向ける。
「ルミナストーンって英語の組み合わせだよね…?本当に私の言葉って宇宙で通じるの?」
ヨシノがそう聞くのも不思議ではない。
宇宙の魔法少女・変身ヒロイン番組、「魔法素粒子ルミナキャスト」。
たったいま飛び交った単語、「ルミナストーン」は勿論、
前回の戦いでも彼女自身が感じた事だが、
作品周りのフレーズは全て、地球の言葉で構成されていると言ってもいい。
まずはタキオン。この星においては実在が証明されていない。
故にあくまで「架空」ではあるが、光よりも速いとされる素粒子。
少なくとも地球ではそう呼ばれている概念である。
「地球では」と言うのも、この星の外で同様の名前で呼ばれているか
定かではないから。それに彼女の必殺バリア・タキオンフィールド。
これはヨシノが咄嗟に叫んだネーミングであるが、そのまま「英語」である。
「むしろその方が助かるんだよ。ヘンに宇宙を意識されるよりもいい画になるからさ」
宇宙では適切な文脈にローカライズされる。
下手に放送される言語に準拠するよりは、そのままの言葉で
話したり、技を放ったりした方が、翻訳装置に通すには都合がいい。
それに、ゲッシーが語るところによると、
地球の文化を拡散するのにも意義があると言う。
つまり、言葉も感情も正確に変換されて、
ヨシノの活躍は伝えられるということ。ウケのいいように、
脚色も差しこまれるけどね、と最後に付け加えながら。
地球の文化、悪用しないでしょうね…。そう心で呟きつつも、
それなら問題ないと、少し眉と口角を上げる。
「信じていいんだね?ゲッシー」
先程の疑念のこもった心の呟きを、その一言で上書き、掻き消す。
このように問うヨシノも、彼を信じるわけではない。
仮にも自分を騙して戦わせようとした男…ハムスター。
今だって大事な宝石の話を、自分に向けて話してはいない。
知らない間に、恥ずかしい目にもあうかもしれない。
地球の文化にどんな手を加えられるかも未知数。
話半分とした方がいいと確信している。もっとも、
そんな彼と共に戦う決意をしたのも草之根ヨシノ──ルミナタキオンだ。
もう半分は信じる程度に覚悟を決めている。
「地球のヒロインの底力、宇宙のみんなに存分に見せてあげる」
たかが情報の伝わり方ひとつの話題に過ぎないものの、
彼女にとってはこれも戦いに興じるために大事な情報なのには変わりない。
「ヨシノ!そこの裏っ側!」
裏っ側?ゲッシーの突然の叫びに釣られ、
疑問を抱く間もなく、ヨシノは曲がり角の向こうへ飛び込む。
悪趣味なほど煌びやかな燕尾服。
微笑みを模った仮面。
幻影紳士・ムジカントムがそこにいた。
「ちょうど誰もいねえことだ…飾り気がねえ場所だが狂宴が始まるぜえええええ!!」
恐るべきテンション。
ムジカントムの有り余る叫びに圧倒されつつ、
ヨシノは出方を窺う。そのまま飛び込んでいいものなのか。
そんな疑問を抱く間もない。
ムジカントムの背後に、夕日を遮る黒い影が現れる。
「ペルソナクスの怪人、ワルターだ!」
打算なく脅威に警戒する演技を、打算的にゲッシーが行う。
不定形の肉体に、うすら笑いの仮面。ワルゥゥゥ…と唸るその呻き声。
最初に戦った時と同じ、ペルソナクスが作った怪人だ。
しかし、最初に見た怪人と比べ、そのフォルムは妙に刺々しい。
両腕と言うよりは前足を地に付けた様は、
オオカミやキツネといった獣のそれだ。
「行くよ!ゲッシー!」
叫び声とともに、ヨシノの腰に変身ベルトが浮かび出る。
足腰に負荷をかける、確かな質量がそこにある。
本当にこれ大丈夫なのかな…。
いざ自分の姿を顧みると、凄まじい違和感は否めない。
それでもなお、ヨシノは飛び込む。
自分の好きだったヒロインもそうしていたはずだから。




