2話 野菜のパン粥 4
しかし、それよりも早くサーラが駆けつけた。深皿によそったパン粥を手に、男たちの間を押し退けるように割って入る。
赤ん坊も気づき、ぱっと顔を向けた。
サーラは赤ん坊を抱き起こすと、空いた手で匙を取り、パン粥をひと掬いして口元へ運ぶ。
「は~い、ごはんでちゅよ~」
「あっ、あっ」
赤ん坊は勢いよく食らいついた。
小さな口を懸命に動かし、ごくりと飲み込む。すると全身を左右に揺らしながら、両手を前へ前へと突き出した。
もっと。
そうねだるような仕草だった。
サーラは思わず頬を緩める。
「はいはい、まだあるよ」
二口目、三口目と匙を運ぶたび、赤ん坊は夢中になって食べ続けた。
「はぁ……」
「よかった……」
張りつめていた空気がほどける。
大人たちは一斉に安堵の息をつく。
ロンドとジョーは、その場へ座り込み、力が抜けたようだった。
ケリーも胸を撫で下ろしながら、赤ん坊を見つめる。
「……なんて美味しそうな顔で食べるんだい」
思わず見入っているうちに、今度は赤ん坊ではなく、深皿のパン粥そのものへ視線が向いた。
その様子はサーラは、くすりと笑う。
「あら、ケリーさんも食べてみる?」
と、匙を差し出した。
「いいのかい?」
ケリーは少し戸惑いながらも口に含んだ。
パン粥は驚くほど柔らかい。
とろりと舌の上でほどけ、歯を使わなくても自然に崩れていく。
けれど、芋のまろやかなとろみに、野菜本来の素朴な甘みとうま味が重なり、じんわりと口いっぱいへ広がった。
「どうじゃ?」
「……美味しいね」
ケリーはゆっくり味わいながら頷く。
「優しい味だよ。温かくはないのに、不思議と心まで温まる気がする」
「うふふ、よかった」
サーラは満足そうに笑うと、
「今度はケリーさんがあげてみて」
そう言って、忍ばせていたもう一本の匙を手渡した。
「うぅむ……わかったよ」
ケリーは少し照れくさそうに頷き、サーラの真似をしながらパン粥を掬う。
ゆっくりと、赤ん坊の口元へ運んだ。
すると赤ん坊は、勢いよく食らいつく。
もぐもぐと口を動かしながら、にこりと笑った。
その笑顔に、ケリーの頬も自然と緩む。
「お、美味しいかい? なら、もっとお食べ」
匙を掬っては口元へ。
また掬っては口元へ。
そのたび赤ん坊は嬉しそうに頬張り、ついには深皿の中身をきれいに平らげてしまった。
やがて瞼がとろんと重くなり、満腹になったのか、今にも眠ってしまいそうだ。
「あ、一応ゲップさせないと……」
サーラは赤ん坊の背中を優しく叩く。
――ぶっ!!
赤ん坊は、大きな放屁をした。
同時に、部屋が静まり返る。
「は?」
「え?」
「ん、ふふっ」
一瞬だけ顔を見合わせた大人たちは、次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。
大きな笑い声が家中へ響き渡る。
それまでの緊張が嘘のようだった。
笑い合いながら、自然と他愛ない話が始まる。
「あはは、可笑しいねぇ」
「そうだな、ケリー。それに今日は疲れたせいか、腹が減ったよ」
「あたしも」
「なら食事の支度をするかね。二人も食べていきなよ」
「いいの?」
「ああ、遠慮しないで。自慢のスープをご馳走するよ」
「……ありがたく、いただきます」
「ケリーさん、ありがとう!」
「ほら、二人ともテーブルで待ってな」
ジョーに促され、親子は食卓へ並んで腰を下ろした。
ケリーはゆったりとした手つきで鍋に向かう。
夜が更けるにつれ、部屋には食欲を誘うスープの香りが満ちていく。
サーラは待ちきれない様子で何度も鍋を覗き込み、そのたび皆の笑いを誘った。
ロンドとジョーはそんな光景を眺めながら雑談を交わし、互いの苦労をねぎらい合う。
穏やかな夜は、静かに更けていった。




