2話 野菜のパン粥 3
「やる!」
とサーラは即座に返事をすると、すぐに行動へ移った。
抱いていた赤子をロンドの腕へ預けながら、 「赤ちゃん、お腹すいたじゃろ。……少しだけ待ってておるのじゃよ~」
と穏やかな口調で話しかけ、そのままキッチンへ向かう。
――だが、次の瞬間。
赤子は堪えきれず、大きな声で泣き出した。
「お、おわっ!? ……ジョー、どうしよ?」
「ど、どうしようって!? ……君の方が慣れてるんじゃないのかい!?」
「もう昔すぎて覚えてないよ!!」
ロンドはたちまち慌てふためき、腰まで引けてしまう。
隣のジョーも、まるで同じ情けない姿だった。
「あぁ、泣かないで!!」
「どうしよう!?」
二人は必死になってあやし続けるが、赤子の泣き声は一向に収まらない。
その様子に、ケリーは呆れたようにため息をつき、ぴしゃりと言い放つ。
「はぁ……何やってんだい。大人が二人して、みっともないね。突っ立ってる暇があるなら、あれを持っておいでよ」
「えっと……なんだっけ?」
と、ジョーは間の抜けた声で返事する。
「揺りかごだよ。他の家から使わなくなったのを貰ってきたんだろ?
「あぁ……そうだ!」
「だったら早く持ってきて、そこへ寝かせなさい!…ロンドさんが困ってるだろう!!」
「あぁ!?…貰ってきたまま家の裏に置きっぱなしだった!」
「は、早く! 取りに行こう!」
そう言われるや否や、ロンドとジョーは部屋の中を慌ただしく右往左往し、そのまま玄関を飛び出していった。
「まったく、もう」
ケリーのぼやきが聞こえる。
サーラも苦笑を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替えてキッチンへ向き直る。手際よく持ってきた荷物を食卓へ広げていく。
やがて机の上には、数切れのパン、カブ、じゃがいも、残っていた野菜、それに鍋や包丁などの調理道具が並んだ。
それらを眺めながら、ケリーが尋ねる。
「何を作るんだい?」
「この材料なら、パン粥かな。……あ、ケリーさん、お湯を少し頂戴」
そう答えると、サーラは迷いなく調理を始めた。
ケリーは興味深そうに、その手元をじっと見つめる。
まず自前の鍋へ湯を移し替え、釜戸の別口へ掛けて火にかける。
続いてパンを小さくちぎり、カブや野菜をやや大きめに切り分けると、沸騰した湯の中へ次々と放り込んでいく。
最後に皮を剥いたじゃがいもを包丁で細かく削ぎ入れ、そのままとろみが付くまでじっくり煮込んだ。
「こんなもんかな」
「何にも味つけしないのかい?」
「赤ちゃんにはね、素材そのままの味がいいの。あとは食べやすいように、野菜を裏ごしすれば大丈夫」
「手慣れてるわね」
感心したようにケリーが呟く。
サーラは照れくさそうに頬をかいたあと、鍋から具材をお玉ですくい上げる。それを深い鉢へ移し、擂り粉木で丁寧に擦り潰していった。
その時だった。
玄関の扉が開く音が響く。
揺りかごを抱えたロンドとジョーが戻ってきたのだ。
二人はそのままキッチンへ近づくと、さっそく揺りかごを床へ据える。
木箱に揺らすための脚が付いた、素朴な木製の揺りかごだった。
続いてロンドが赤子をそっと寝かせる。
「ほら~。……あばばば、ば~!!」
「ゆらゆらしてるよ~。泣かないで~!!」
二人は揃って揺りかごの横へしゃがみ込み、籠を優しく揺らしながら変顔をしたり声を掛けたりと、思いつく限りの手を尽くしてあやし始めた。
揺りかごの中では、赤子が寝転んだまま周囲へ視線を向ける。
さっきよりは少し落ち着いたようにも見える。
だが、顔はまだくしゃくしゃに歪み、今にも泣き出しそうだった。
やがて小さな手を懸命に伸ばし、誰かを掴もうとするように宙をかき――次の瞬間、再び大きな泣き声を上げる。
まるで誰かへ助けを求めるようだった。
「ご、ごめん、ごめんね!!」
「な、泣き止んでくれ……!」
赤子が泣けば泣くほど、ロンドとジョーは余計に慌ててしまう。
室内はあっという間に小さな混乱へ包まれた。
その様子を見かねて、ケリーがすぐさま一歩踏み出した。




