表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
53/53

外伝・サーラの食卓譚~出会う日までのレシピ~5、ご馳走アヒージョ

 「ありがとうございやしたー」

 若い商人の声が、村の入り口に響き渡る。

 やがて行商の馬車はゆっくりと遠ざかり、村を抜け、そのまま街道の先へと消えていった。

 それを最後まで見送ったサーラは、ほくほくとした笑顔を浮かべながら踵を返す。

 両手には、買い込んだ大きな荷物。

 その重さなど気にも留めていない様子で、自宅へ向かう足取りは弾んでいた。

 「何を作ろっかな~」

 自然と独り言が漏れる。

 すでに頭の中は、次に作る料理のことでいっぱいだった。

 サーラにとって、それは何よりも楽しいひと時だった。

 やがて自宅の前へ辿り着く。

 「あぁ、サーラ」

 すると、扉の前に立っていたジョーが声を掛けてきた。

 「ジョーさん、どうしたの?」

 サーラが返事をすると、そのまま話を始める。

 「さっき親方から伝言でな。…大量の鳥を仕留めたらしい」

 「うわぁお!…本当に」

 「なんでも、各家庭にも行き渡るくらいの量はあるって」

 「凄いね」

 「あぁ。…だから、うちの家内や親方も交えて、皆で食事しようって話になったんだよ」

 「おけ」

 「メニューは、サーラに任せるそうだ」

 「じゃあ、準備しとくね」

 「ロンドさんや親方も、もうすぐ帰るからね」

 そう最後に告げると、ジョーは自分の家へ戻っていった。

 「はーい。…なら、あれにしようっと!」

 とサーラも玄関の扉を潜ると、迷うことなく釜戸へ向かう。

 そして、さっそく調理の準備を始めた。

 用意したのは、パン、油、ニンニク、唐辛子、ブロッコリー、葱、人参、パプリカ、じゃがいも。

 まずは釜戸へ向かい、火を点ける。

 フライパンには、底が浸る程度の油を張り、火に掛けてじっくり熱していく。

 その間も、サーラの手は止まらない。

 包丁を走らせ、人参とじゃがいもは皮を剥いてから一口大へ。

 ブロッコリー、葱、パプリカも大きさを揃え、火の通りと食べやすさを考えて切り分けていく。

 さらにニンニクは潰して皮を取り除き、薄くスライス。

 唐辛子も輪切りにして、香りと辛味を引き出す準備を整える。

 パンも小さく切り分け、皿へ並べておいた。

 やがて油の中から、小さな気泡が浮かび始める。

 その頃合いを見計らい、サーラはニンニクを投入した。

 じゅわり、と音を立てながら油の中で踊るニンニク。

 香ばしい匂いが広がり、色付き始めたところで取り出す。

 そして別の皿へ移しておく。

 「ただいま~」

 「邪魔するぜ」

 程なくして玄関が開く音が響き、居間へロンドと親方が姿を現した。

 二人の手には、絞めたばかりの鳥が握られている。

 その後ろから、ケリーとジョー夫妻も続いて入ってきた。

 「サーラ、何か手伝おうかい」

 真っ先にケリーが声を掛ける。

 「なら、鳥を捌くのを手伝って。…腿肉と砂肝を使いたいから」

 サーラは迷うことなく指示を飛ばした。

 「よろしくね。…それが終われば、後は煮るだけだから」

 「あいよ」

 ケリーはロンドから鳥を受け取ると、作業へ加わる。鮮やかな手際で、抜き手も見せぬ動きのまま、あっという間に鳥肉を解体していった。

 受け取った肉を、サーラは再びフライパンへ。

 芋、野菜、肉、唐辛子。

 順番を守って油の中へ投入し、火を弱めてじっくり煮込んでいく。

 次第に、食欲を刺激する香りが部屋いっぱいに広がっていった。

 「うまそうな匂いだな」

 ほぼ同時に親方が呟き、思わず喉を鳴らす。

 そして最後に、サーラは揚げておいたニンニクの欠片を鍋へ散りばめた。

 「出来たのじゃ」

 そうして、アヒージョが完成した。

 すぐさまサーラは食卓へ運び、鍋敷き代わりの布の上へ置く。

 やがて全員へフォークとパンを配り、食前の祈りを済ませる。

 そして大人達は、揃って料理へ手を伸ばした。

 「おや、油で煮た料理かい?」

 「どんな味だ?」

 恐る恐る口へ運んだ瞬間。

 食材ごとに異なる食感が、舌の上で弾けた。

 芋の表面は香ばしくカリリと、中はほくほくと崩れていく。

 野菜はとろりと柔らかく、肉は噛むほどに旨味が溢れる。

 そこへ、ニンニクの濃厚な香り。

 唐辛子のピリリとした刺激。

 全てを包み込んだ熱い油が、口いっぱいに広がった。

 「うまっ」

 「じゅわっとした味、…」

 大人達は思わず声を漏らし、それぞれの味わい方で料理を楽しみ始める。

 「パンに乗っけたり、油につけても美味しいよ」

 すかさずサーラは呟き、自ら実践する。

 パンを熱々の油へ浸し、そのまま口いっぱいに頬張った。

 その姿を見た大人達は、我先にと同じようにパンへ油を染み込ませ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ