外伝・サーラの食卓譚~出会う日までのレシピ~5、ご馳走アヒージョ
「ありがとうございやしたー」
若い商人の声が、村の入り口に響き渡る。
やがて行商の馬車はゆっくりと遠ざかり、村を抜け、そのまま街道の先へと消えていった。
それを最後まで見送ったサーラは、ほくほくとした笑顔を浮かべながら踵を返す。
両手には、買い込んだ大きな荷物。
その重さなど気にも留めていない様子で、自宅へ向かう足取りは弾んでいた。
「何を作ろっかな~」
自然と独り言が漏れる。
すでに頭の中は、次に作る料理のことでいっぱいだった。
サーラにとって、それは何よりも楽しいひと時だった。
やがて自宅の前へ辿り着く。
「あぁ、サーラ」
すると、扉の前に立っていたジョーが声を掛けてきた。
「ジョーさん、どうしたの?」
サーラが返事をすると、そのまま話を始める。
「さっき親方から伝言でな。…大量の鳥を仕留めたらしい」
「うわぁお!…本当に」
「なんでも、各家庭にも行き渡るくらいの量はあるって」
「凄いね」
「あぁ。…だから、うちの家内や親方も交えて、皆で食事しようって話になったんだよ」
「おけ」
「メニューは、サーラに任せるそうだ」
「じゃあ、準備しとくね」
「ロンドさんや親方も、もうすぐ帰るからね」
そう最後に告げると、ジョーは自分の家へ戻っていった。
「はーい。…なら、あれにしようっと!」
とサーラも玄関の扉を潜ると、迷うことなく釜戸へ向かう。
そして、さっそく調理の準備を始めた。
用意したのは、パン、油、ニンニク、唐辛子、ブロッコリー、葱、人参、パプリカ、じゃがいも。
まずは釜戸へ向かい、火を点ける。
フライパンには、底が浸る程度の油を張り、火に掛けてじっくり熱していく。
その間も、サーラの手は止まらない。
包丁を走らせ、人参とじゃがいもは皮を剥いてから一口大へ。
ブロッコリー、葱、パプリカも大きさを揃え、火の通りと食べやすさを考えて切り分けていく。
さらにニンニクは潰して皮を取り除き、薄くスライス。
唐辛子も輪切りにして、香りと辛味を引き出す準備を整える。
パンも小さく切り分け、皿へ並べておいた。
やがて油の中から、小さな気泡が浮かび始める。
その頃合いを見計らい、サーラはニンニクを投入した。
じゅわり、と音を立てながら油の中で踊るニンニク。
香ばしい匂いが広がり、色付き始めたところで取り出す。
そして別の皿へ移しておく。
「ただいま~」
「邪魔するぜ」
程なくして玄関が開く音が響き、居間へロンドと親方が姿を現した。
二人の手には、絞めたばかりの鳥が握られている。
その後ろから、ケリーとジョー夫妻も続いて入ってきた。
「サーラ、何か手伝おうかい」
真っ先にケリーが声を掛ける。
「なら、鳥を捌くのを手伝って。…腿肉と砂肝を使いたいから」
サーラは迷うことなく指示を飛ばした。
「よろしくね。…それが終われば、後は煮るだけだから」
「あいよ」
ケリーはロンドから鳥を受け取ると、作業へ加わる。鮮やかな手際で、抜き手も見せぬ動きのまま、あっという間に鳥肉を解体していった。
受け取った肉を、サーラは再びフライパンへ。
芋、野菜、肉、唐辛子。
順番を守って油の中へ投入し、火を弱めてじっくり煮込んでいく。
次第に、食欲を刺激する香りが部屋いっぱいに広がっていった。
「うまそうな匂いだな」
ほぼ同時に親方が呟き、思わず喉を鳴らす。
そして最後に、サーラは揚げておいたニンニクの欠片を鍋へ散りばめた。
「出来たのじゃ」
そうして、アヒージョが完成した。
すぐさまサーラは食卓へ運び、鍋敷き代わりの布の上へ置く。
やがて全員へフォークとパンを配り、食前の祈りを済ませる。
そして大人達は、揃って料理へ手を伸ばした。
「おや、油で煮た料理かい?」
「どんな味だ?」
恐る恐る口へ運んだ瞬間。
食材ごとに異なる食感が、舌の上で弾けた。
芋の表面は香ばしくカリリと、中はほくほくと崩れていく。
野菜はとろりと柔らかく、肉は噛むほどに旨味が溢れる。
そこへ、ニンニクの濃厚な香り。
唐辛子のピリリとした刺激。
全てを包み込んだ熱い油が、口いっぱいに広がった。
「うまっ」
「じゅわっとした味、…」
大人達は思わず声を漏らし、それぞれの味わい方で料理を楽しみ始める。
「パンに乗っけたり、油につけても美味しいよ」
すかさずサーラは呟き、自ら実践する。
パンを熱々の油へ浸し、そのまま口いっぱいに頬張った。
その姿を見た大人達は、我先にと同じようにパンへ油を染み込ませ始めた。




