外伝・サーラの食卓譚~出会う日までのレシピ~4、定番のマヨとタルタル
ハンター組合支部の従業員用控え室。
そこでは、サーラや村の御婦人たちが人だかりを作り、難しい表情で中央を見つめていた。
その中心には支部の女性職員が一人。
隣には小麦粉の袋が山のように積まれている。
高さはサーラの背丈ほどもあった。
「また大量発注をかけちゃったんですけど、倉庫の奥にまだこれだけ残ってまして……」
女性職員は何度も頭を下げる。
「どうか……この施設でも大量に消費できる料理を、皆様にも考えていただけないでしょうか?」
「またかい……」
誰かが呟くと、御婦人たちも口々に話し始めた。
「でも今回は小麦粉だから、色々できるだろうしね」
「パスタでも、ダンプリングでも、パイやクラッカーでもいいんじゃないかい」
「まぁ、いつもと代わり映えはしないけどね」
「それでも食べるものは必要でしょ」
「じゃあ、あたしはパスタを作るよ」
「なら、こっちはダンプリングでも茹でようかね」
その一言を合図に、御婦人たちは手分けして調理を始めた。
「皆さん……ありがとうございます」
女性職員は深々と頭を下げる。
「……」
そんな中、サーラだけは迷わず食料庫へ向かった。
「ここの食材、使うね」
棚を見回しながら声を掛ける。
「え? い、いいですけど」
返事をした女性職員は、不思議そうに尋ねた。
「あの、何を作るんですか?」
「うん……ソースいるかなって」
「ああ、ソースですか。何か良いものがあるんですか?」
「凄いのがある」
サーラは淡々と言って食料庫へ入り、玉葱、卵、レモン、油、塩、ビネガーを手早く取り出した。
そのまま竈へ戻り火を起こす。
鍋に一センチほど水を張り、数個の卵を入れて沸騰させる。火を止めて蓋をし、そのまま余熱で火を通す。
待つ間に玉葱の皮を剥き、微塵切りにする。
続いてボウルに残り卵を割り入れ、塩を振る。
油とビネガーも同量加え、ひたすら混ぜる。
やがて全体が白く変わり、とろりともったりした質感になる。
「よいしょ」
とサーラは、ボウルの中身の半分を別の器へ移す。
それから残った方へ、茹で卵の殻を剥き、微塵切りにした玉葱、レモン汁と一緒に残したソースへ加え、卵を崩しながら混ぜ合わせた。
「出来たのじゃ」
そうして、マヨネーズとタルタルソースが完成した。
「え、もう!?」
女性職員が目を丸くする。
「はい、少し舐めてみ」
差し出された匙を受け取り、おそるおそる口へ運ぶ。
「!?」
その瞬間、女性職員の目が大きく見開かれた。
「あれま……こんなソースがあるんかい」
「待って、これは使えるわ」
気づけば村の御婦人たちも手を止め、新しいソースをまじまじと見つめていた。
※※※
しばらく後。
ハンター組合支部の飲食スペースには、仕事を終えた村のハンターたちが続々と集まっていた。
席に着き、メニューを開く。
すると親方が真っ先に声を張る。
「おーい、酒だ。あと、つまみは……」
「はーい」
そこへサーラが料理を運び、皿を並べていく。
葉野菜のパスタサラダ。
ダンプリングと、マヨディップソース。
蒸し鳥のタルタルサンドイッチ。
「これは?」
ロンドが真っ先に気付き、声を上げた。
「新しいメニューの試作品ね。サービスです」
サーラは満面の笑みで答えると、フォークで巻いたパスタを、ロンドの口へ差し出す。
「はい、お父ちゃん。あーん」
「いただきます!」
勢いよく頬張った次の瞬間――
「うまい! 全品、一つずつ全席に追加で!」
「はい、よろこんで〜」
サーラはくるりと踵を返し、控え室へ駆けていった。
「おい、また勝手に注文したのか!」
「いい加減にしろ!」
「この親バカ!」
周囲のハンターたちが一斉に文句を飛ばす。
「最後のは褒め言葉だよ!」
「褒めてねぇわ!」
「サーラの奴、こいつの扱いに長けてやがる」
「さすが、僕の娘」
「それでも父親か!」
飲食スペースに、言い争いの声が響く。
やがてサーラと御婦人たちが料理を各テーブルへ配り終えた。
「頼んじまったなら仕方ない」
ハンターたちは渋々と皿へ手を伸ばす。
「まぁ、サーラの料理なら旨いだろう」
と親方が一口食べる。
パスタを巻く者。
ダンプリングをソースにつける者。
サンドイッチへ豪快にかぶりつく者。
誰の口にも、まろやかなコクと旨味が広がった。
「うまっ!?」
「このソース、うま!」
「やばっ! うまっ!!」
同じ歓声が次々と上がり、皿は瞬く間に空になる。
「おかわり!」
「こっちもだ!」
再び飛び交う注文。
その光景を見たサーラは控え室を振り返り、親指を立てて拳を突き出した。
女性職員も、村の御婦人たちも、同じように笑顔で拳を合わせるのだった。




