外伝・サーラの食卓譚~出会う日までのレシピ~3、うりゃりゃのオニオンスープ
空が夕闇に染まり、村の家々にぽつぽつと灯りがともり始める。
その日もロンドは、普段と変わらない時間に帰宅した。
「ただいま~」
「おかえり~」
「サーラちゃ~ん、会いたかったよ!」
「お父ちゃん。……お仕事、ご苦労様」
サーラも満面の笑みを浮かべ、玄関まで出迎える。その瞬間。
「で? ……頼んだ山菜、山から摘んできてくれた?」
間髪入れずに問いかけた。
「あ、……」
ロンドは呟き、固まったように動かなくなる。
「はぁ、……」
サーラはため息をつくと、急いで踵を返し、床下の氷室を確認した。
取り出せたのは、数個の玉葱だけ。
あとは塩と油しか残っていない。
(……商人さん達が来るのは二日後の朝。……残りの食材は、これだけしかない)
サーラは手にした玉葱をじっと見つめながら、
「明日の昼まで持たすなら、あれしかない」
低く呟き、そのまま調理を始めた。
まずは竈に火を点ける。
「うりゃりゃりゃ!」
その間に包丁を走らせ、玉葱をすべてくし切りにしてから、さらに薄くスライスしていく。
サーラの目には涙が滲んでいた。
続けて竈に鍋をかけ、底に油を広げる。
そこへ玉葱を一気に投入し、炒め始めた。
少し焦げつくくらいまで動かさず、底から返す。
それを何度も繰り返した。
やがて玉葱は、ゆっくりと飴色へ変わっていった。
「……よいっしょ」
サーラは鍋へ水を注ぎ、そのまま具材を煮込む。
しばらくして鍋が沸騰し、湯気が立ち上った。
その頃合いを見計らって塩を加え、味を整える。
「出来たのじゃ」
出来上がったのは、オニオンスープだった。
「あのサーラちゃん、……ごめんね」
ほぼ同時に、ようやくロンドが恐る恐る声をかけてきた。
「……持ってって」
サーラは短く指示する。
ロンドは素直に頷き、料理を運ぶ手伝いへ向かった。
※※※
翌日。――
空が夕闇に染まり、村の家々に灯りがともり始める。
その日もロンドは、普段と変わらない時間に帰宅した。
「ただいま~」
「おかえり~」
「サーラちゃ~ん、会いたかったよ!」
「お父ちゃん。……お仕事、ご苦労様」
サーラも満面の笑みを浮かべ、玄関まで出迎える。そして、――
「で? ……今日は山菜は?」
すぐに問いかけた。
「あ、……」
しかしロンドは、またしても固まったように動かなくなる。
「うそ、……」
とサーラは膝から崩れ落ちた。
「ごめーん!!」
ロンドは泣きながら、あわてふためく。
その時だった。
玄関がノックされ、扉が開く。
姿を現したのはケリーだった。
「サーラ。……ん?」
目の前の光景を見て、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「うぅん、……なんでも」
サーラは顔を上げ、逆に首を傾げた。
「どうしたの?」
「あぁ。……よければ貰ってくれるかい?」
そう言ってケリーは、皮袋を差し出す。
隙間からは、大量の玉葱が見えていた。
「……前に買いすぎたんだけど処理しきれなくてね。もうすぐ傷みそうだし、このまま氷室に入れっぱなしにもできないから。良ければだけど」
「いいの?」
「明日には商人が来るからね。……開けときたいんだよ」
「もらう!……ありがとう」
サーラはすぐに受け取ると、ロンドのほうを振り向く。
「ん?」
今度はロンドが首を傾げた。
※※※
そして、しばらくして。――
「うりゃりゃりゃ!」
ロンドは大量の玉葱をひたすら薄くスライスしていく。
目には涙が滲んでいた。
「次は忘れないでね」
サーラは短く注意しながら、その姿を見守っていた。




