転生チートなどなくとも、わたしは身軽になりました(*´▽`*)
悪役令嬢に転生した。
流行りのライトノベルではおなじみの展開ですね。
前世、日本人だった時に読んだことのある小説の悪役に転生した……とか。
乙女ゲームで、ヒロインが攻略する対象である王太子の婚約者に転生した……とか。
まあ、そんな感じで、わたしもとある国の侯爵令嬢とやらに転生したらしいです。
この世界が何というタイトルのラノベなのか、どんな種類の乙女ゲームなのか。
まったく分かりませんが。
とにかく、日本人だった記憶を有し、なんちゃってヨーロッパ的な世界の、侯爵令嬢となった。
しかも赤くてうねりのある長い髪の毛。相手を睨みつけるような眼圧の高さ。婚約者は王太子殿下……ときたら、お約束~、悪役令嬢に転生でーす。
なんでそんなことが分かったのかと言えば、貴族の令息や令嬢が通っている学園で、いかにもヒロイン的なピンクの髪の男爵令嬢がぶつぶつと言っているのを聞いてしまったから。
「あー。ヘルベルトとの親密度をもうちょっとあげないと。でも、悪役令嬢エリザヴェータがあたしを虐めてこないし……。うーん、自作自演もねえ。バレた時のリスクが高い。苛めてもらって、親密度を上げるより、デートとか積み重ねて、地道にってカンジかなあ、まだ。そのうち悪役令嬢があたしを虐めるようになればいいんだけど。んー、ヘルベルトよりも、他の攻略対象との親密度を、先に上げたほうがいいかなあ。でも、ハーレムエンドはリスクが高いし。一人を選ぶならやっぱ王太子殿下でしょ!」
……セリフからして、ピンク髪の男爵令嬢はヒロインさんですね。
とするとヘルベルト王太子殿下の婚約者であるわたしが、悪役令嬢かあ……って。
男爵令嬢が攻略対象云々と言葉に出したってことは、この世界が何かのラノベか乙女ゲームの世界だとわかっている。
わたしには、分からない。
イニシアチブは、男爵令嬢にある……。
んー、困った。
悪役令嬢で、断罪されて、国外追放程度ならいいんだけど、死罪とか娼館落ちとかは嫌だなあ。家族にも迷惑をかけられるのは困る。
反撃したいところだけど……。
悪役令嬢につきものの、チートをわたしは有していない。
チートじゃなくても、元々ハイスペックな悪役令嬢でもないのだ。
頭脳……そこそこ。一度見聞きしたものは忘れないなんて、常軌を逸した記憶力はない。
魔法……この世界にはそもそも魔法はない。スキルもない。人間の持つごく普通の能力の身。
筋力……十五歳の女子としては当たり前の力しかない。寧ろ、令嬢なのでか弱いほうでは?
時の運……知らんわ、そんなもの。計測するご都合主義的不思議道具もないしねこの世界。
そんなフツーの女子……前世の記憶を持っていますなんて言うのはフツーじゃないけど……に、神様から愛されたようなチートなんてない!
勉強も努力した分だけしか身につかない!
魔法も筋力も何もない!
あ、美貌はねえ、侍女の皆さんが磨いてくれる上に、高い化粧品を使っているから、まあ、フツーにキレイよ! ちょっと目つきは悪いけど。
だったら、どうしたらいいかなーって思っていたら。
「おい、エリザヴェータ。俺様は忙しいのだ。学園の課題と生徒会の仕事をお前がやっておけ」
婚約者であるはずのヘルベルト王太子殿下がわたしに命じた。
んー、わたしにはわたしの課題がある。
それをある程度こなした上で、更に王太子殿下の課題や生徒会の業務を行うなんて無理。
お断りをしようと思ったのに、もう、ヘルベルト王太子殿下はピンク色の髪をした男爵令嬢ベーベル・フォン・ラスプと腕を組みながら、とっとと去って行ってしまった。
俺様は忙しい? 王太子としての教育が忙しいのではなく、男爵令嬢と遊ぶ時間が欲しいからわたしに仕事を押し付けているんですね?
とりあえず、わたしは職員室に行く。
わたしとヘルベルト王太子殿下のクラスは違う。課題をやれと言われても、その課題が何か分からない。
「申し訳ございません。ヘルベルト王太子殿下のクラスを担当されている先生はいらっしゃいますか? その先生の中で、本日課題の提出を求めた先生は? わたくし、ヘルベルト王太子殿下より、その課題を代わりに行えと言われたのですが、クラスが違うため、どの教科でどんな課題が出ているのか、まったく分からないので、教えていただきたいのですが」
誰に聞けばいいのかもわからないので。職員室の先生方、全員に聞こえるように大きな声で言った。
すると、三人ほど、顔を顰めた先生方が、わたしの近くまでやってきた。
「たとえ王太子殿下と言えども、課題は本人が行うべきであり、誰かが代わって行うものではないのですが」
先生の一人が溜息を吐きながら言った。
「ええ、そうですわね。わたくしもそれは理解していますが。王太子殿下からやれと命じられてしまったものですから」
困った顔でわたしは頷いて見せた。
「あなたが課題をこなしたとしても、王太子殿下の評価にはなりませんが」
「では、その旨、そのまま王太子殿下にお伝え願いたいのですが。無理なら国王陛下にご報告でも」
「……そうですね。我々教師が王太子殿下に正当性を説いたところで、王太子である自分に逆らうのかと言われそうです。ですから、王太子殿下が婚約者であるエリザヴェータ嬢にやれと命じたこと、それをそのまま陛下にご報告いたしましょう」
「お手数をおかけいたします。それからもう一つ、生徒会の先生にもお尋ねしたいのですが……」
別の先生が席から立ち上がって、わたしのほうを見た。
「嫌な予感しかしないのですが。何でしょう」
「王太子殿下から、忙しいので生徒会の仕事をわたしにやっておけと。ですが、生徒会の一員では無いわたしが、生徒会室に入る権限は……」
「ありませんね」
「でしたら、生徒会の仕事は……」
「たとえ、生徒会メンバーの婚約者であろうと手伝う義務はありません」
「では、わたくしはどうしたらよいでしょうか? 手伝えと命じられましたが、手伝うことは不可能ですが」
「……王太子殿下に生徒会の仕事は無理ということですね。では、王太子殿下には生徒会から外れていただき、新たに生徒会のメンバーを公募いたします」
「ありがとうございます。では後はよろしくお願いいたします」
わたしは制服のスカートを摘み、先生方に淑女の礼を執った。
先生方はみんな話が早かった。
というか、至極真っ当な先生ばかりだった。
……つまり、わたしに仕事を丸投げする王太子殿下に、先生方はこれまで既に手を焼いていた……ということだったのかな。
よしよし。
わたしは、侯爵家の自室に帰り、もちろん王太子殿下からの命令を行うことはせずに、自分の課題だけを済ました。
すました後、今日の出来事を国王陛下方にきちんと手紙を書き、委細すべて事細かに報告をした。
もちろんわたしの父であるサヴォイア侯爵、母であるサヴォイア侯爵夫人、二人いる兄たちにも、夕食の際に本日の出来事として報告をした。
「……阿呆殿下との婚約を考え直した方がよいか」
お父様は言った。
「そうね。王太子としての執務もできないような無能に嫁いで、国の業務をすべてエリザヴェータにさせられてはたまったものではないわ」
お母様も同意した。
兄たちもだ。
食事の後、お父様は、早速陛下に対して謁見願の申請をしたらしい。仕事が早いな。
わたしは安心して、自室のふかふかのベッドでぐっすりと休んだ。
そして、次の日。もちろん学園に登校はしなかった。
登校なんてしたら、きっと「キサマっ! どうして俺様の命じたとおりに俺様の課題をしないのだっ! それどころか教師や父王に何を言ったのだっ!」などと、責められるだろうから。
自室でのんびりと過ごしていたら、その日の午後になって、いきなりヘルベルト王太子殿下がサヴォイア侯爵にやってきた。
王太子殿下といえども約束もなしの訪問はマナー違反だ。
取次ぎをした家令は「いかがいたしますか?」と言ってくれたけれど、わたしには対応する気はない。
「お父様かお母様、もしくはお兄様がいらっしゃる?」
「旦那様は登城しております。奥様でしたら……」
「じゃあ、お母様にお願いするわ。今、お母様にお会いできる?」
高位貴族であるからして、たとえ娘であってもいきなり母には会えないのだ。
だから、家令に取り次いでもらう。
その間王太子殿下は放置だ。きっと応接室でイライラとわたしの到着を待っているだろう。
約一刻の後。
お母様はあっさりと王太子殿下を追い払った。
さすが、侯爵夫人。海千山千だわ。
「ほほほ。無礼な王太子など、追い払ってあげましたからね!」
「お母様……、ありがとうございます!」
素敵母だ。いや、無敵かな。ふっふっふ。
夜になって、父が帰って来て。
「喜べエリザヴェータ! 元王太子との婚約を白紙にしてきたぞ!」
仕事、早いですねお父様よ。
あっさりと元王太子と言ったけど、国王陛下に何をどう言って「元」にしたんだろうか?
「学園の授業にも付いて行けず、課題も行えない。生徒会の仕事もエリザヴェータに押し付ける。そんな無能が将来の国王になるくらいなら、我らサヴォイア侯爵が反旗を翻すと。今後一切ヘルベルトなどという無能の後見はしない。これまでエリザヴェータの婚約者として支援してきた分の費用を即刻返還しろと伝えただけだ。後は王妃と元王太子が住んでいる屋敷の使用人たちを、即刻引き上げさせた。我がサヴォイア侯爵家から派遣していた者たちばかりだからな」
あー……、そうだったんですねえ。シラナカッタヨ。
突然使用人がいなくなれば、今日のご飯にも困るだろうし、着替えすらできないかもしれないなあ……。ま、王城の陛下付きの使用人でも派遣すればいいだろーけど。
そんなこんなで、あっさりと、というか、父の権力で。
転生チートなどなくとも、わたしは身軽になりました(*´▽`*)




