エピローグ 2
「あっ。」
ふとサーラは何かを思い出し、すぐさまリリャーへ問いかける。
「ねぇ。…そういえば、この子の名前ってなんなの?」
「え?…名前…。」
「うん。…ずっと気になっていたの。…」
「えぇと、それは。…」
リリャーは困ったように顔を曇らせ、言葉を濁す。それでも意を決したように、小さく口を開いた。
「実は、この子の名前は決まってないの。…夫になる予定だった人と、一緒に名付けるつもりだったから。…その後も沢山の事があったし、…ずっと有耶無耶になってたの。」
その言葉を二人は聞き、なんとなく事情を察する。
真っ先にアニタが提案した。
「なら、これから考えようよ。」
「はいは~い、賛成!!…賛成!!」
サーラも嬉しそうに跳ねるように身体を上下へ揺らしながら、大きく賛同した。
「…ん?…なんだ、いったい?」
「…どうかしたのかい?」
騒ぎに気づいた村人達も、次々と集まってくる。
まず老人達が輪の中心に加わり、少し遅れてご婦人達も事情を聞きつけてやって来た。
リリャーはその勢いに圧倒され、思わず腰が引けながらも、先程と同じ事情を皆へ説明する。
すると次の瞬間、村人達は嬉々として一斉に話し始めた。
思い思いに候補を挙げ、たちまち名前の大討論会になる。
「それなら、…キャサリンなんて、どうかい?」
「いや、…アマンダだろう。」
「アニシアちゃん、はどうじゃ?」
「ケリー、」
「それは、あたしの名前だろう。」
「いいじゃないか、被ったって。」
「アメルダ」
「メアリー」
「ルカ」
「アリス」
「アイリス」
だが、意見が増えるばかりで、一向に決まりそうにない。
リリャーは次々と飛び交う名前に頭が追いつかず、今にも目を回しそうになっていた。
サーラとアニタも腕を組み、それぞれ真剣な表情で考え込んでいる。
そんなやり取りがしばらく続いた末、とうとう村人の一人が痺れを切らした。
「もう、村長夫婦に託そうぜ。」
その一言で、一人の村人が勢いよく駆け出す。
向かった先は、村長の家だった。
しばらくして、その村人は村長を連れて戻ってくる。
「村長、早く早く。」
「わかっとるわい。…全部わかっとるから、そう急かすな!」
文句を言いながらも、村長は輪へ加わった。
事情は道中で聞いてきたらしい。
やがて村人達は期待の眼差しを向ける。
村長は気にも留めず、腕を組んで少し考え込む。
そして何かを思いついたようにサーラ達へ向き直った。
「…ならば、…お主らの名前から頭一文字ずつ頂戴して、【アリサ】と名付けよう。…」
その宣言に、アニタとサーラは声を揃えた。
「「おぉ!」」
「アリサですか。…いいですね。」
リリャーも優しく呟く。
「そうだね。」
「可愛い名前じゃ。」
「この三人の名前とは、にくいね。」
村人達も次々と頷き、口々に賛同した。
やがて惜しみない拍手と歓声が広場を包み込み、その場は一気に祝福の空気へ染まっていく。
ふとサーラはアリサを抱き上げ、たかいたかいをする。
愛おしそうに見つめながら、囁くように語りかけた。
「…良かったね。…これから皆と沢山、楽しい事をしましょう。…美味しい料理で、お腹一杯になるまで、一緒に食べようね。」
その直後、アリサは満面の笑みを浮かべた。
太陽を背にしてなお眩しく見えるほどの笑顔だった。
頬を赤く染め、小さな顔いっぱいに笑みを咲かせる。
言葉の意味を理解していたかは分からない。
それでも、この場の誰よりも幸せそうだった。
そうして村に、新たな家族が増えたのだった。
※※※
それから数日後。
領主達が馬車でリリャーを迎えに来ると、一行は【ネオマルフィア】へ向けて出立した。
アニタも一緒に馬車へ乗り込む。
朝早くから村人達は総出で門に集まり、馬車を見送っていた。
「また、来いよ!」
「…アリサちゃんも、此処で待ってるからね。」
誰もが大きく手を振り、別れを惜しみながら再会を約束する。
その光景に、アニタとリリャーも口元を綻ばせ、胸いっぱいの嬉しさを噛み締めていたのだった。




