エピローグ 1
あれから、二週間が経過していた。
ちょうど季節が移り変わり始めた頃である。
空は晴れ渡り、柔らかな陽射しが降り注ぐ。
空気もほのかにひんやりとし、心地よい風が村を吹き抜けていた。
だが村は、今日も普段と変わらない様相である。
のんびりと穏やかな空気が流れ、まるでこの村だけは、ゆっくりと時間が流れているかのような錯覚さえ覚えてしまう。
村人達も、それぞれ日々の日課に励んでいた。
ハンター達は親方を先頭に、山へ狩りへ向かう。
ご婦人達は広場に集まり、他愛ない話に花を咲かせていた。午前中の家事は、すでに一段落しているようだ。
老人達は複数人で集まり、体操をしたり、辺りを散歩したりと身体を動かしていた。
そんな広場を、サーラが横切っていく。
脇目も振らず、真っ直ぐ目的地を目指し、やがてハンター支部の施設へ辿り着いた。
ほぼ同時に施設の玄関が開き、扉をくぐってアニタが姿を現す。
少し遅れて、赤ん坊を抱いたリリャーも後を追ってきた。そしてサーラの姿に気づき、声をかける。
「…サーラちゃん。」
「リリャーさん。…こんにちわ。…御加減はいいの?」
サーラも返事をしながら近寄り、様子を尋ねる。
それにアニタが代わりに答えた。
「本調子ではないよ。…でも今は、食欲も戻ってきたし、前よりも体力も付いて動ける様になったよ。…それもこれも、サーラが料理を用意してくれたからだよ。」
「…貴女の料理って、マリーさんの味とそっくりだから、つい懐かしくて食べてしまっていたわ。」
リリャーも小さく呟き、同意する。
「…もう感謝してもしきれない。」
「ふふ、…そうね。」
二人は顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。
「いやぁ、そんな。そんな。」
サーラは照れくさそうに頬を掻き、手を横に振って謙遜する。
そんな様子をアニタは微笑ましそうに眺め、リリャーも口元に手を添えてクスクスと笑った。
やがて二人は互いに視線を交わし、何かを確かめ合うように頷く。
今度はリリャーが一歩前へ出た。
サーラの目の前で跪き、その目線に合わせて静かに話し始める。
「サーラちゃん。…貴女にしか頼めない事があって、…また少しの間だけ、この子を預かってくれない?」
「え、何で?」
サーラは首を傾げ、続きを促した。
「…あの後ね、…領主様達と話をして、今後の事が決まったの。…数日したら、私は街に移って、お医者様の治療を受けるの。」
「そうなんだ」
「…でも、しっかり治療には専念しなくちゃならないから、…この子を預かってくれる人が必要なの。」
「それで、私に?」
「…最初はエピカ様も、自分達の家で預かろうと申し出てくれたの。…でも勝手が分からないと大変だろうって事になってね。…貴女になら安心して任せても良いと思って。」
そう言うとリリャーは、
「お願いできないかしら?」
と最後に頭を下げた。
「そうね。…いいよ。…はい。」
サーラは快く了承すると、迷いなく両手を差し出し、リリャーから赤ん坊を受け取る。
その動きには、一切の躊躇がなかった。
「え、…ありがとうございます。」
あまりにあっさりとした承諾に、リリャーは目を丸くする。
少し戸惑ったようにアニタへ視線を向けた。
「アニタ。…皆も受けてくれるだろうって言っていたけど、…この子、本当に聞き分けいいし、凄く物分りもいいのね。…まるで凄く年上の人みたい。…」
すると隣でアニタは、誇らしげに胸を張った。
「そうね。…たまにジジむさい口調でも、…年相応に可愛らしい仕草もするし、食べ物に夢中な場面とかもあるよ。…でも頼りになるだろう?…あたしの師匠は。」
その言葉に、リリャーはなんとなく納得しかけていた。
「…リリャーさん、大丈夫よ。…あたし、こういうの得意だから。」
サーラも安心させるように笑い、親指を立てながら拳を前へ突き出してみせる。
口調はまるで大人そのものだが、その仕草だけは年相応に幼い。
そのちぐはぐさが、どこか可愛らしかった。
「不思議な子ね。…」
リリャーはますます混乱したものの、考えても仕方がないと諦めることにした。
「じゃあ、宜しくお願いします。…」
「あたしからも、お願いするよ。…」
「OK~。」
言葉を交わした三人は、自然と微笑み合う。
その傍らで、赤ん坊だけが不思議そうに小さく首を傾げていた。




