表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/51

7話(2) 思い出のアップルパイ 7

 ※※※


 ようやくリリャーは我に返った。

 ふと気付けば、両目から溢れた涙が頬を伝い、止まることなく流れ続けている。

 もう我慢の限界だった。

 次第に嗚咽を漏らしながら、まるで独り言のように、自分の身の上を語り始める。

 「私、……幼い頃から身寄りがなくて、ずっと自分の家族を持ちたいと夢見てました。……失敗や迷惑かけるのも多かったけど、必死に働きました。」

 それは誰に向けるでもない、独白のようだった。

 「……職場の店主のマリーさんに支えて貰って、なんとか慎ましくも日々を過ごしていました。……そしたら、ある日、生まれて初めて男性の方を好きになったんです。」

 「うん。うん。……そうなのかい。……」

 ばあ様は静かに相槌を打つ。

 領主達も口を挟まず、ただ話に耳を傾けていた。

 その表情には、複雑な感情が浮かんでいる。

 「私達はすぐに付き合い、愛しあいました。……あの人は最初は凄く情熱的で優しい人だったのです。……でも私との間に子供が生れた途端に、別の女性と一緒に姿を消しました。」

 話を聞くたびに、場の空気が重くなっていく。

 「……その事が私は信じられなくて不安になり、マリーお婆さんに助けを求めました。……そうしたら、同じ時期にお婆さんも急に亡くなってしまって。」

 リリャーの声が、微かに震える。

 「……もう私は何がなんだか分からなくて、……気がついた時には、赤子を連れて馬車の荷台に乗ってました。」

 少しして、村のご婦人の一人が喋り出す。

 「それで、この辺りを転々としてたのか。……」

 「しかし、なんだって、またそんな事を?」

 「男連中は黙ってな。……子供生んだばかりで精神的に落ち着かないなか、そんな事になったらパニックにもなるさね。」

 「そ、そうか」

 やがて村人達も、少しずつ事情を理解していく。

 そして誰も口を挟まず、続きを待った。

 リリャーは再び口を開く。

 「今にして思えば。……私は遠くに逃げたかったんだと思います。……それから、一人で赤ちゃんを育てなきゃって考えて、住める場所や仕事を探していました。……でも、……」

 「でも、何?」

 「……ある日から、何を食べても美味しく感じなくなって、胃が食べ物を受け付けずに戻してしまうんです。……でも、食べないと赤ちゃんにミルクもあげられないから、なんとか食べられそうな物を先に探す事にしたんです。」

 次第に視線を落としたまま、小さく息を吐く。

 「それで、この村に来た時に手頃な小屋を見つけました。……少しの間だけ赤ちゃんに中で待ってて貰って、山の中に入って食料を見つけにいったんです。」

 「成る程、そういう経緯だったか。」

 「なら、この子を捨てた訳じゃなかったんだな。」

 「で、その後に山を歩き回るうちに、獣に襲われていたと。」

 最後に親方が呟いた。

 「はい、……その通りです。……皆さんに、ご迷惑をお掛けしました。」

 そう答えると、リリャーは話を終えた。

 再び俯き、押し黙る。

 しかし、その時。

 誰かが近付いてくる気配がした。

 ゆっくりと顔を上げる。

 そこにいたのは、アニタだった。

 すぐ側まで来て、静かに立っている。

 「……あの?……アニタ?」

 リリャーが首を傾げる。

 するとアニタは、その場で跪いた。

 真剣な表情で、静かに口を開く。

 「ねぇ、リリャー。……あたしの話を聞いてほしい。」

 「う、うん。……何?」

 「……どうしていいか解らなかったとはいえ、……あたしを真っ先に頼ってくれなかったのは、悲しかったわ。」

 「……そう、ね。……ごめんなさい。」

 「ううん。……別に怒ってないよ。……あたしも喧嘩別れしたみたいなままの状態で、仕事に出ちゃったし、……元はと言えば此方が原因なんだから。……」

 「わ、私も。……あの時は言いすぎたわ。」

 「それでもさ、……季節が過ぎるよりも短い日々しか一緒に暮らしてないけどさ。……同じ食事をしたりして、あたし、……あんたを親友と思っているんだよ。……」

 「っ!!」

 「あんたは、違うのかい?」

 「……ううん。……そうよ。……私もそう。」

 「だからさ、……また一緒に住まないかい?……」

 「アニタ、……いいの?。」

 「もう、……あたしも料理は、ある程度は手伝えるしさ。前よりも、あんたを楽させてあげるから。……あたしの方から、お願いします。」

 リリャーは彼女の言葉を聞き、

 「うん。……」

 と、小さく頷いた。

 その顔には、晴れ晴れとした優しい笑顔が浮かんでいる。

 目頭が熱くなるのを、必死に堪えていた。

 そして――

 ぐぅ。

 静かな場に、腹の虫の音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ