7話(2) 思い出のアップルパイ3
それから領主達は村長の説明を聞き、ようやく事情を理解した。
「成る程、……そうでしたか。」
「確かに、それはいけませんわ。」
「しかし、実際に何とかなるのですか?」
「そう言われると、ワシも半分は信じられないんですがね。」
「うぅむ。……しかし今の我々にも、出来る手立てがある訳ではないですし、……やれる事を試してみるしかないですかな。」
「サーラちゃん、宜しくお願いするわね。」
エピカが目線を合わせながら言う。
「のじゃ!」
「あう?……」
サーラは元気よく頷き、お玉を高く掲げるような仕草をした。
赤ん坊も真似をするように、小さな手を上げている。
「よし、皆の衆。……それぞれの作業にかかってくれ!」
続けて村長が声を張り上げる。
村人達は一斉に動き出し、それぞれ持ち場へ散って準備を始めた。
※※※
程なくして、村の広場に見慣れた馬車が停まった。
御者台に乗っているのは、いつも村を訪れる商人達だった。
「よいしょっと、……」
若い商人が真っ先に軽やかに飛び降り、辺りを見回して呼び込みをしようとする。
しかし次の瞬間、馬車の向こうを見て大声を上げた。
「お頭!」
「あ?……なんだよ、どうした?……あの嬢ちゃんでも来たのか?」
馬車の裏手から店主が姿を現す。
「あっちを見てくださいよ!……村の連中が殆ど集まっていて、何かしてます!」
「なに?」
店主は訝しげに首を傾げながら、若い商人が指差す先へ目を向けた。
ハンター支部の前では、村人達が忙しそうに作業している。
ハンター達は大小の石を積み、土と泥を練って塗り重ねながら、釜戸を築いていた。
三基並ぶ釜戸は、一つがドーム状、残る二つは円柱状だ。
婦人達も施設から長机を運び出し、その上へ食材や調理器具を次々と並べていく。
その光景を見つめながら、商人達は小声で話し始めた。
「何をしているんでしょうか?」
「さっぱり、わからない。」
「おや?」
「商人のおじさん達ーー!」
人混みの中からサーラが飛び出し、馬車へ向かって駆け寄ってくる。
商人達も気付くと、すぐ仕事用の笑顔へ切り替えた。
「はい、いらっしゃい!」
「お、おう。……嬢ちゃん、……どうした?……今日は何をお求めで?」
「りんご!!……頂戴!!」
サーラは勢いよく注文する。
「りんご、か?……あぁ、あるにはあるよ。ただ……、……。」
「どうします?……あれ、ほぼ売れ残りですよ。……」
商人達は渋い表情で顔を見合わせる。
「し、仕方ない。……大事な御得意さんの、お求めだ!……すぐに用意しろ!」
「は、はい!!……ただいま。」
「急げよ!」
店主が腹を括って指示を飛ばす。
若い商人は返事をすると慌てて馬車の裏へ向かい、大きな木箱を抱えて戻ってきた。
そのまま箱を地面へ下ろす。
中には二十数個ほどのりんごが入っていた。
どれも真っ赤に熟れていたが、大きさはまちまちで、中には熟れすぎて皮に皺が寄ったものも混じっている。
サーラは箱を覗き込み、一つ一つじっくり吟味し始めた。
赤くて小ぶりなもの。
果肉がしっかりしていそうなもの。
皺が寄ったものまで含め、丁寧に選り分けていく。
「お~い、サーラ。……釜戸の用意は、終わったぜ。」
「サーラ、こっちもいいよ。……って、何をしているんだい?」
親方が作業の進捗を伝えにやって来る。
少し遅れてアニタも近寄り、サーラの様子を見て首を傾げた。
それでもサーラは手を止めず、やがて両腕いっぱいにりんごを抱える。
しかし姿勢を正した拍子に、一つだけ腕から零れ落ちた。




