7話(2) 思い出のアップルパイ 2
しかし領主達は、苦い表情を崩さない。
次にサーディンが口を開いた。
「赤ん坊か。……どうして、そこまで加担するのだ?」
「えっと、……?」
サーラは戸惑いを露わにする。
「……普通は、厄介事なんて嫌だろう。……ましてや、その赤ん坊は君達とは関係なかっただろう。……血の繋がりもないのに家族なんて、ハッキリと言えるんだ?」
「……?」
周囲の村人達も困惑した様子で顔を見合わせる。
それでもサーディンは話し続けた。
「そんな事を言えば、……本当の血縁の私達は、何なんだ?…私達だって、どうにかしてやりたい。
それは誰に向けるでもない、独白のようだった。
「……でも今回の事を知って、未だに心の何処かでは、鬱陶しいと思っているんだよ。」
やがて、ハッキリと大きな声で叫ぶ。
「……いったい、私達と君達と、何が違うんだ!?」
「サーディン兄さん。……」
エピカも兄の名を呼び、悔しげに俯く。
「……あぁ、成る程ね。」
「俺達も、前はそうだったな。」
「でも、さぁ。……」
「サーラが頑張っているのに、……知らん顔できないから。」
一部の村人達は、小声で囁き合っていた。
領主達の姿に、かつての自分達を重ねていた。
やがて辺りは静まり返る。
「あの!!」
不意に大きな声が響いた。
全員が振り返る。
ロンドだった。
他のハンター達を押し退けるように領主達の前まで進み出ると、
「領主様達、……どうか、娘の気が済む様にやらせてください!!」
そう叫び、両膝を地面につく。
額を土と砂利へ擦りつけるほど深く頭を下げ、懇願した。
村人達は息を呑み、表情を強張らせる。
「お父ちゃん!?!」
サーラも思わず大声を上げた。
領主達も慌てて駆け寄る。
「サーラちゃんのお父さんですか!? ……顔を上げてください。」
「そ、そうですよ!……」
「……そちらにも事情や考えがあるのは、わかっています。」
それでもロンドは顔を上げない。
「……しかし勝手な事を言いますけど、……何も言わずに、この場の成り行きを見守ってあげください。」
同じ姿勢のまま、「お願いします」と何度も繰り返す。
その姿に、領主達は互いに顔を見合わせ、改めて問いかけた。
「……な、何で。どうして、そこまで必死なのです?……たかが子供が料理するだけなのに。……そんなに重要な事なんですか?」
「私も、上手く説明できませんが。……多分、必要な事なんです。……そうすれば、領主様達が求めている答えも、解るかもしれません。」
「なんで、そう言いきれるのです?」
「……私の、……大事な娘の事だからです。……」
ロンドは言い切り、顔をあげながら真っ直ぐ領主達を見つめた。
領主達は何も返せなくなる。
まだ完全には納得していない表情だったが、やがて根負けしたようだった。
「仕方ないですね。……わかりました。」
サーディンが代表して答える。
ようやく村人達から安堵の溜め息が漏れる。
ハンター達も額の冷や汗を拭っていた。
すぐにケリーがどさくさ紛れに動き出す。
夫のジョーも駆け寄り、
二人はロンドの両脇を抱えて、そのまま後ろへ引きずるように下がっていった。
そうして二人はサーラの側へ戻る。
ロンドは真っ先に娘の顔を見ると、にへら、と力なく笑い、ゆっくり立ち上がろうとする。
「もう、お父ちゃんてば、恥ずかしいなぁ。」
サーラは呆れたように文句を言いながらも、その口元には笑みが浮かんでいた。
「なんだい、サーラちゃん。」
「でも、ありがとう。……」
そう小さく囁くと、父の頬へ軽くキスをした。
「ぐはっ!!?!!」
次の瞬間、ロンドは満面の笑みを浮かべたまま、だらしなく地面へ崩れ落ちる。
「ぼく、もう死んでもいい……♥️」
微かにそんな譫言まで漏らしていた。
「阿保か!……馬鹿者!!……」
突然、村長が人混みを掻き分けて現れる。
親子のもとへ歩み寄ると、ロンドの耳を引っ張り上げながら怒鳴りつけた。
「こんな、めんこい年端もいかない娘を残して、あの世に行ったら、村人総出で墓の下から引きずりだすからな!……」
「そうだ、そうだ!」
「本当にやるからね!」
周囲の村人達も口々に同調する。
「父親ならシャキッとせい!」
「は、はい!」
ロンドは気圧され、慌てて立ち上がると背筋を伸ばした。
その様子を見届けた村長は、領主達へ向き直る。
「領主様。……お待たせして申し訳ないです。……」
「いえ。……そんな。……」
「ばあ様に患者の容態を聞いていたら遅くなりまして、……それで実は今、こういう事になっています。」




