7話(2) 思い出のアップルパイ 1
村の空き家の一室。
サーディンとエピカはそこで待機し、何をするでもなく静かに時間を過ごしていた。
エピカは椅子に腰掛け、机に頬杖をついたまま溜め息を吐く。
サーディンは窓辺に立ち、外の景色を眺めていた。
あれから話し合いは中断されたまま、しばらく時間が過ぎている。
太陽は高く昇り、もうすぐ昼食時だった。
「いったい、どうなるのかしらね。」
「知らんよ。」
淡々と言葉を交わしても、すぐに沈黙が戻る。
同じやり取りを何度も繰り返すうちに、二人の表情には次第に不安の色が濃くなっていた。
「……ん?」
「……どうしたの?」
「……なんだ?」
ふとサーディンが呟き、何かに目を奪われる。そのまま建物の外へ出ていった。
エピカも慌てて後を追う。
外へ出た二人は思わず足を止める。
その視線の先――ハンター支部の前には人だかりができていた。
ハンターたちに御婦人方、老人まで、ほとんどの村人が集まり、輪を作るように囲んで中心を見つめている。
その中心にいたのはサーラだった。
赤ん坊を背負い、片手に木べらを掲げながら、周囲へ呼びかけている。
「……皆にもリリャーさんを元気にするために、アップルパイを作るのを手伝ってほしいの!」
村人たちも真剣に耳を傾け、次々と声を返す。
「……俺等もか? ……男所帯は、いつも待っている側だろう?」
「いや、別に構わないけどよぉ。……何をすればいいんだか?」
「親方達は、大きな釜戸を用意してほしいの。」
「釜戸って、たまに夜営の時に使うやつか?」
「あぁ、あれなら。俺等が適任か。……おう、任せとけ!」
サーラは嬉しそうに頷き、さらに声を上げる。
「でね、アニタさんやケリーさんに、お婆ちゃん達は、いつも通りに料理の手伝いをして欲しいの。」
「こんなババアの、あたしらもかい?……」
「うん。……今回のは、材料が沢山あるから用意するのを手伝って!」
「……そうかい、わかったよ。……お婆ちゃん達も手伝うわ。」
「お願いします。」
サーラは深く頭を下げた。
「よっしゃ。」
「いっちょ、やりますか。」
村人たちも互いに声を掛け合い、やる気を高めていく。
「皆さん、待ってください!」
その時、エピカが人混みを縫うように最前列へ飛び出した。
少し遅れてサーディンもやって来る。
二人は輪の中へ割って入り、そのまま話を強引に止めてしまった。
何事かと、村人たちの視線が一斉に集まる。
「何さ?」
アニタが代表するように問いかける。やや無愛想な口調だった。
隣ではサーラが不安そうに二人を見つめる。
対してサーディンは気にも留めず、集まった村人たちをゆっくり見回した。その眼差しにはどこか悲観の色が宿っている。
その様子が村人たちには不思議でならず、誰もが一瞬だけ互いに顔を見合わせた。
やがてエピカは意を決したように頷き、静かに口を開く。
「皆さん。……リリャーさんの為に、御協力して頂くのは嬉しいです。……しかし、これ以上は、……お気持ちばかりで大丈夫ですから。」
「は?……」
誰かが思わず呟く。
意味が理解できず、周囲にも戸惑いが広がっていった。
「どうして?」
サーラもすぐにエピカへ問い返す。
「サーラちゃん。……これはね、私達側の家族が起こした問題なのよ。……部外者である村の皆さんには、迷惑はかけられないわ。」
「……め、迷惑なんかじゃないし。……」
「無理してるんじゃない?」
「無理じゃないもん!」
「そうさ。……それに、家族の問題なら、……この赤ちゃんの家族みたいなもんさね。」
途中でケリーも一歩前へ出て口を開く。
「……私達だって、なんとか、お母さんに元気になってもらわないと思っているんだよ。」
「あぁ、そうだよ。……あたしだって、リリャーの家族みたいなもんさ。……だから、手を尽くすんだ。」
アニタも続けるように、はっきりと言い切った。
村人たちもその言葉に同意するように、大きく頷いていた。




