表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/48

1話 芋餅 2

 ※※※


 それから暫くして、――

 ようやくサーラは家事を終えて、居間に戻ってきた。

 そのまま食卓に突っ伏して、短く息を吐く。

 洗濯、掃除、ゴミ出し。

 どれも慣れた手付きで、滞りなく片付いていた。

 しかし、気がつけば朝食の時間は過ぎている。

 既に太陽は、高く昇り始めていた。

 「お腹すいたの。…」

 サーラはぼやいていた。さらに立ち上がると、キッチンに向かった。

 鍋に残ったスープを皿によそい、少しだけ眺める。

 「…でも、これだけじゃ少ないの。」

 少し考えたあとに、再び火を起こして調理を始めた。

 まずはじゃがいもを皮付きのまま茹でる。

 柔らかくなったら、擂り鉢と擂り粉木で潰していく。

 そこへ小麦粉と塩を混ぜて、手早く練り上げる。

 平たく形成し、表面に油を塗って竈の火に近づけた。

 じっくり焼き上げると、香ばしい匂いが立ち上った。

 ――芋餅である。

 皿に盛りつけて、スープと一緒に並べた。

 「いただきます」

 食前の祈りを済ませると、口に運ぶ。

 外はカリッ、中はもっちり。

 噛むほどに、口にじゃがいもの甘味が広がる。

 さらにスープに浸せば、カブの旨味が絡み、味が一段と深くなる。

 「相変わらず、旨いの」

 思わず呟いた。

 だが同時に、小さな違和感が脳裏を過った。

 ――芋餅など今まで作った記憶はない。

 それなのに、作り方、火加減、味の仕上がりも、最初から知っていたように手が勝手に動いていた。

 (まぁ、えぇかの)

 深く考える前に、空腹が勝つ。

 サーラは黙々と、皿を空にした。


 やがて食べ終えて、椅子にもたれながら、腹をさすっていると、――

 コン、コン。

 玄関からノックがし、扉越しに呼び掛ける声がしてきた。

 「すいませ~ん」

 それに気がつき、サーラは席を立つ。

 すぐに扉を開けると、隣家の婦人のケリーが立っていた。

 恰幅の良い、よく世話をしてくれる女性だ。

 「おはよう、ケリーさん」

 「あ、あぁ。…おはよう、サーラ」

 互いに挨拶を交わした。

 しかし、ケリーだけはどこか落ち着きがない。

 サーラは首を傾げる。

 「どうしたの?」

 ケリーは一瞬だけ言い淀んだあとに、声を潜めた。

 「…サーラちゃんさ、……アンタの家の裏に物置小屋があるだろう。」

 「うん。」

 「そこで、昨日の夜から変な音がしてるんだよ」

 するとサーラの動きが止まる。

 「ほへ?」

 間の抜けた声がした瞬間、沈黙が落ちた。 

 サーラは慌てて、口を開く。

 「何それ!?あの扉の鍵が壊れてるやつ?…もう、ずっと使ってないけど。…」

 さらにケリーも表情を曇らせた。

 「…恐いだろう。…あたし、そういうの苦手なんだよ。…だから今、旦那にアンタの父ちゃん呼びに行って貰ってて」

 「じゃあ、…」

 その直後、サーラは駆け出し、真横を抜けていく。

 「あたし、見てくる。…なんかあったらヤダから」

 「あ、危ないよ!」

 すぐにケリーが制止し、追いかけた。

 だが、サーラは颯爽と離れていく。


 やがて家の裏手に回る。

 そこには古い物置小屋が立っていた。

 高さや幅は二メートルほどの簡素な建物で、板を打ち付けただけの粗末な造り。

 長い間使われてないのが一目でわかる。

 だが、――扉がわずかに開いていた。

 「……」

 中から、微かな音が漏れる。

 「エ、…エェ、…」

 「んん?…んんん?」

 サーラは目を細める。

 薄暗い内部で、何かが動いている。

 一歩ずつ、近づいていく。

 そっと扉の隙間から中を覗き込んだ。その瞬間、――

 「………え?……………えぇぇぇ!!?」

 サーラは絶叫を上げた。

 背後から追い付いたケリーも小屋の中を覗き込み――

 「え!?」

 と同じような声を上げる。

 その声は村中に響き渡り、やがて周囲の家々の扉が次々と開いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ