1話 芋餅 1
ピー、チチチ。
外からは小鳥の囀りが聞こえている。
窓の隙間から差し込む朝日が、古びたカーテンを柔らかく照らしていた。
ここは北の山の麓にある、小さな村の外れ。
その中でも一番古い民家の二階、小さな寝室。
窓際の簡素なベッドの上では、ボロい掛け布団がわずかに盛り上がり、もぞりと動いた。
やがて布団がめくれ――
「ふわぁぁ……」
少女が眠そうな顔を覗かせた。
サーラ、十歳。
癖の強い銀髪に緑の瞳。白い肌は陶器のように淡く、小柄な体は少し触れれば壊れてしまいそうだった。
彼女は大きく伸びをすると、まだ眠気の残る目をこすった。
「支度しないと。…」
欠伸混じりにそう呟くと、日の出と同時に、ベッドから立ち上がる。
彼女の朝は、いつも早かった。
麻のワンピースに着替え、手早く髪を整える。
そして終わるや否や、階下へ向かった。
一階に降りると、廊下の先に居間がある。
「ぐがが。…」
その扉の向こうからは、盛大ないびきが聞こえていた。
「んしょ。」
サーラが扉を開けると、父親のロンドが食卓に突っ伏して眠っている。
酒瓶が一本、転がっていた。
「……またかの」
とサーラは呟くと、そのまま通り過ぎる。
「よし、今日も家事を始めるわい」
小さく呟くと、手際よく動き出した。
まずは朝食の準備だ。
食料庫と床下の氷室を確認する。
「こんなもんか……残りも少ないのう」
取り出したのは、丸パン、小麦粉、じゃがいも、カブ、チーズ、油、塩。
「ほい、ほい、…」
サーラはすぐに火を起こし、釜戸に鍋をかけた。
湯が沸くのを待ちながら、じゃがいもとカブを手早く切る。
塩と具材を鍋に放り込み、煮込み始める。
その間にパンへチーズを乗せ、釜戸の熱で軽く炙る。
香ばしい匂いが部屋に広がった。
「よし、できたの」
出来上がったのは、チーズトーストと野菜スープ。
一人前を盆に乗せて居間へ運ぶ。
そしてテーブルに置くと――
「お父ちゃん!! 起きるのじゃ!!」
サーラは一気に声を張り上げた。
「ぐえっ……」
とロンドは、椅子ごと転げ落ちるように目を覚ました。
「お、おはよう……サーラちゃん……」
「おはよう。昨日また飲み過ぎて、そのまま寝たじゃろ」
「……えっと、今は何時だ?」
「もう、朝じゃから。…朝御飯食べたら、ハンターの仕事に行かないと遅れるよ。」
「そうだ。…今日からまた、山の害獣討伐だったな……」
ロンドは頭をかきながら椅子に座り直す。
「私、洗濯してくるからの」
サーラは淡々と答え、自分は立ち去ろうとした。
「……いつもありがとう。…ご飯、美味しいよ」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「ねぇ、サーラちゃん」
だがロンドが、ふと声をかける。
「…前から思ってたけど、たまに言葉使いが爺むさいよ」
「そうかの?」
足を止めて、サーラは首を傾げる。
「なんか、しっくりくるんじゃがの」
「いや、もっと年相応の方がいいと思うよ」
「年相応……?」
ふと考え込んだサーラは、いたずらっぽく笑った。
そしてくるりと振り返る。
「きゃはっ♡」
両手を口元に添え、小首をかしげる。
あざとい仕草で、わざとらしく可愛らしくポーズを決めた。
「……っ」
その直後、ロンドは一瞬固まり――
「うちの娘が、可愛いいぃぃ!!」
と家中に響く雄叫びを上げた。
「遅れるぞい。」
とサーラは満足げに笑うと、そのまま洗濯へ向かう。
それから少しして、ロンドは慌てて家から飛び出して行ったのだった。




