表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/50

七章(1) 驚愕な話 4

「はぁ~い、ママでちゅよ。」

 「あ、あう。」

 母親の顔が間近に来ると、赤ん坊はぱっと笑顔になる。小さな手を伸ばして触れようとし、もっと近づこうと身をよじった。

 「あっ、あ、……」

 「私の、赤ちゃん!」

 対してリリャーも手を伸ばしかける。だが、その手は途中で止まり、顔を俯かせると引っ込めてしまった。

 「どうしたんだい?!……」

 アニタは慌てて声を上げる。

 サーラも訳が分からず、首を傾げていた。

 見かねたケリーが前へ出ると、リリャーの傍らへ盆を置き、載せていた器を手渡す。

 「お腹すいているから、力が出ないんじゃないかい?…食事にしようか、中身はパン粥だよ。」

 「は、はい。」

 リリャーは恐る恐る返事をすると、器の横に添えられた匙を手に取り、パン粥を掬って口へ運んだ。

 しかし、三口ほど飲み込んだところで吐き気を催し、ぴたりと手が止まる。

 それ以上は口をつけようとしなかった。

 「ほんと、どうしたんだよ!?……リリャー!!」

 その様子に、アニタは狼狽える。

 「ケリーさん!」

 サーラも不安そうな声を上げた。

 ケリーも一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに気を取り直す。

 「サーラ、見といてくれ!……ばあ様を呼び戻してくるから!」

 そう言い残し、部屋を飛び出していった。

 しばらくして、部屋の扉が再び開く。

 ケリーが戻り、すぐ後から、ばあ様も続いて入室してきた。

 サーラは駆け寄ろうとする。

 しかし、ばあ様は気にも留めず、軽く脇へ退かせると、リリャーの傍へ歩み寄る。

 「どうしたんだい?……ご飯、食べないのかい?……食べなきゃ、具合が良くならない一方だよ。」

 「……ごめんなさい。」

 リリャーは小さく謝る。

 ばあ様はすぐに首を横へ振った。

 「いや、怒っている訳じゃないんだよ。心配して言ってんだから。……少し顔を見せておくれ。」

 そう言ってリリャーの顔を覗き込み、様子を診ながら幾つか質問を重ねていく。

 「具合はどうだい?」

 「……そんなに、……良くはないです。」

 「顔色も悪いね。……食欲もないのかい?」

 「た、……食べたくない訳じゃないんです。……でも、……食べなきゃって考えれば考える程、気持ち悪くなってしまうんです。」

 リリャーは苦しそうに答えた。

 その様子をサーラは静かに見守り、傍らではケリーも落ち着かない様子で立ち尽くしている。

 一方、ばあ様は次第に表情を曇らせ、思案顔になった。

 やがて、少し言葉を選ぶように口を開く。

 「思ったよりも、症状が酷いのかもしれないね。……過剰なストレスが原因で、食欲が減退しているんだろう。」

 「……そんな?!……昨日は食事してたのに。」

 アニタが思わず口を挟む。

 「時と場合や、体調によるさね。……ただ、ハッキリ言えるのは、このままじゃいけない。……早急に手だてを考えないと。」

 「……方法は、何かないですか?」

 「……こういう場合は、無理に食べさせるのも良くないんだけど、……あるにはあるよ。」

 「どうするんですか?……」

 「……一番なのは、本人が食べたいと思える事だよ。……誰かと一緒に食事したり、好きな物を食べたりとか。」

 「好きな物?」

 「そうさね。……なぁ、リリャーさん?アンタ、何か食べたい料理はないのかい?」

 ばあ様はリリャーへ向き直り、穏やかに尋ねた。

 「食べたい料理、ですか?……」

 「あぁ。元気がない時とかにさ、……あぁ、あれが食べたいなぁって思う物があるだろう。」

 「えぇっと、……」

 リリャーは俯いたまま黙り込む。

 しばらく考え込んだ末――

 「……あ、……アップルパイ。」

 ふと、小さな声で呟いた。

 「アップルパイだって?!」

 ばあ様は思わず目を丸くする。

 「……は、はい。」

 「それって、あれだろう。甘く煮たリンゴを包んだパイだろう。……それが食べたいのかい?」

 今度はケリーが思わず聞き返した。

 「……えぇ。……あの人が作ってくれてた様な、アップルパイが食べたいです。」

 「あの人って誰だい?」

 「……働いていた時に、お世話になったお婆さんです。……料理屋をやっていた人で、私に料理を教えてくれました。

 とリリャーは弱々しくも、ゆっくりと答えだす。

 「それに、私が元気のない時には、自分の好きなアップルパイを振る舞ってくれた、優しい人なんです。」

 「うぅむ。……そうかい。……何か特徴とかないのかい?……味付けとか、形とか。……なんなら作り方でも知らないかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ