七章(1) 驚愕な話 3
翌日――。
村は、普段と変わらない様相だった。村人達は、それぞれ仕事や家事に励んでいる。
だが、ハンター支部の施設内だけは物々しい空気に包まれていた。
場所は、従業員の控え室を抜けた先にある空き部屋。
部屋の中では、領主達とリリャーが話を始めようとしていた。
その傍らには、立ち会いとして村長夫妻もいる。
その様子を、微かに開いた扉の隙間から、サーラ(赤ん坊を背負っている)が覗き込み、聞き耳を立てていた。
隣ではアニタも耳を傾けている。
まだ誰も、二人の存在には気づいていない。
やがてサーディンが口火を切った。深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
「リリャーさん。……この度は我が愚弟が貴女に迷惑をかけて、大変に申し訳ありませんでした。」
「いいえ。……」
「今更ながらですけど、……我々なりの償いをさせて頂きたいのです。どうか受けていただけますか?」
「そうですか、……。」
「はい。……今後の貴女の生活を保証し、不自由なく暮らせる様な支援も致しますし、……。」
「はい。……」
「…………あの?」
「はい。……」
リリャーは返事こそするものの、呆けたような表情で相手を見つめている。
彼女の瞳には焦点が合っておらず、心ここにあらずといった様子だった。
その様子に、サーディンは首を傾げる。
エピカも目をぱちくりとさせ、互いに視線を交わした。だが、すぐにリリャーへ向き直る。
「リリャーさん?」
「えっと、……。」
「待ちなさいなね。」
途中で、ばあ様が二人の間へ割って入り、制止した。
「え?……でも。」
「いいから。……皆、……此方に来なさい。」
そう言って、大人達を部屋の外へ促していく。
扉越しに様子を窺っていたサーラとアニタは、慌ててその場を離れ、控え室の棚の陰へ身を隠した。
次の瞬間、扉が開き、大人達が退室してくる。
同時に、ばあ様がケリーへ声をかけた。
「ケリーさん、リリャーさんに、ご飯を持って来て。」
するとエピカが、すぐに尋ねる。
「どうしたんですか?……彼女、様子が変ですけど、……。」
ばあ様は、苦々しい表情を浮かべながら説明した。
「どうも精神的にも弱っているみたいだ。…返事も上の空だし、あれだと難しい話も頭に入らないよ。」
「……しかし、このままにしては、おけませんし。……」
「村長婦人、……なんとか治療してもらう事は?」
「あたしゃ、本業の医者じゃない。……こればっかりは専門医に診察してもらうしかない。……それに治療しても、少なくとも何ヵ月と続けないと治らない。」
「なら、街に連れていくしかないか。」
「それしかないですか、村長さん。」
「馬鹿だね。……今は体力も落ちているんだ。……此処から街までの長旅で無理はさせられないよ。」
「そう、ですか。」
その説明に、サーディンとエピカは腕を組み、唸るように考え込んでしまう。
やがて大人達は歩きながら話を続けた。
「……とりあえず今は、少しでも体力や元気を戻す様に、栄養を付けてもらうしかないよ。」
「確かに、……他に手立てがなさそうですな。」
そう話しながら、その場を去っていく。
入れ代わるように、料理を載せた盆を持ったケリーがやって来た。
すかさずサーラは部屋の前まで戻り、扉を開けてあげる。
そのまま二人は言葉を交わした。
「おや、サーラ。……何で、家具の裏から出てきたの?」
「えへへ。……ねぇ、一緒に入ってもいい?」
「別に構わないよ。……」
「ありがとう。」
「んじゃ、先に入るね。」
そう言うと、ケリーはさっさと部屋へ入っていく。
サーラも後に続き、さらに少し遅れてアニタも入室した。
三人はまっすぐベッドへ向かう。
そこではリリャーがまだ起きており、窓の外をぼんやり眺めていた。やがてサーラ達に気づくと、ゆっくり振り返る。
真っ先にアニタが声をかけた。
「やぁ、リリャー。……」
「あら、アニタ……来てくれたのね。」
「どうだい?……昨日から具合は、?」
「………どうなのかしら?……自分でも解らないわ。」
リリャーは答える。しかし、その声には覇気がなく、弱々しい印象は先ほどと変わらなかった。
サーラは徐におんぶ紐を緩めると、赤ん坊を胸の前へ抱き直す。そして、その子をリリャーの目の前へそっと近づけた。




