7章(1) 驚愕な話 1
サーラとアニタは急いで走り、ハンター支部の扉を勢いよく開けて外へ飛び出した。
そして村の広場へ視線を向けた瞬間、二人は驚愕の表情を浮かべる。
広場は騒然としていた。
ほとんどの村人達が集まり、何かを取り囲むようにして一方向を見つめている。
その視線の中心にあったのは、一台の豪華な馬車だった。
ちょうど執事服を纏った男性が、馬車の扉を開く。
ワゴンの中から姿を現したのは、中年の男女だった。
二人は驚くほどよく似ていた。まるで鏡写しのような瓜二つの容姿をしている。
長く伸びた黒髪に、茶褐色の瞳。白く整った肌と、中性的で端正な顔立ち。さらに背は高く、細身ながらも優雅な雰囲気を漂わせている。
身に纏う衣服もまた上質なものだった。青を基調とし、金糸をあしらった豪華な装いは、二人の気品をより際立たせている。
「あんれまぁ……偉い方だか?」
「凄いね……。」
村人達は誰もが見惚れながら、囁くように言葉を交わしていた。
すると、中年の男性が一歩前へ出る。
そして、よく通る声で広場全体へ語りかけた。
「……お集まりの皆さん、初めまして。私の名は、サーディン・L・アウグスト。……アウグスト侯爵家の現当主です」
静まり返る村人達を前に、彼は続ける。
「……ここから南へ向かった港町、【ネオマルフィア】の自治を任されている領主でもあります。そして隣にいるのは、双子の妹であり、領主補佐を務める――」
「……エピカ・L・アウグストです」
女性が引き継ぐように一礼した。
「この度は、お騒がせして申し訳ありません。突然の訪問となりましたこと、どうかお許しください」
「いえいえ」
「そんな遠いところから、わざわざご足労いただきまして」
「すんませんなぁ……」
「私ら、大した歓迎も出来ませんで」
村人達も恐縮しながら、二人へ返事を返していく。
やがて村長夫妻が前へ進み出ると、代表して口を開いた。
「……して、領主様方。先程のお話の続きを伺ってもよろしいでしょうか」
「あぁ……」
サーディンは頷く。
「私達は、この村にリリャーという名の女性がいると聞いて訪ねてきました。本人を知っている者、あるいは会ったことがある者がいるなら、名乗り出てほしい」
「はい……村におります」
村長は答えた。
「うちのハンター連中が森で狼に襲われているところを、その娘に助けられましてな」
「なんと……そうだったのか」
「えぇ……今はうちの婆さんが容態を診ています」
そこで村長夫人が口を挟む。
「私の見た限りでは、幸いにも大きな怪我はないね。今は食事を取って、ハンター支部の空き部屋で眠っているよ」
しかし、その表情は晴れない。
「ただ……」
「ただ?」
「……あの娘、思った以上に衰弱が酷いようだった」
ばあ様は静かに続ける。
「血色も悪いし、体力もほとんど残っていない。……ここしばらく、まともに食事を取れていなかったのかもしれないね」
「…………」
「…………」
その言葉を聞いた瞬間、サーディンとエピカは黙り込んだ。
二人は苦々しい表情を浮かべたまま、動きを止めている。
広場には、重苦しい沈黙が落ちた。
だが、その空気を意に介さず、 アニタが人集りの隙間を縫うようにして前へ進んでいく。
少し遅れて、サーラもその後を追った。
二人が前へ出ると、領主達もすぐに気づく。
サーディンが振り返り、問いかけた。
「……君は、誰だい?」
「あたしはアニタ。……リリャーの関係者だよ」
「……そうなのか。では、こちらの子は?」
サーディンはサーラへ視線を向ける。
「……あたしの……」
一瞬だけ言葉に詰まり、
「……師匠みたいなもんだ」
「ど、どうも」
サーラは小さく頭を下げた。
だが、アニタは挨拶もそこそこに問いかける。
「……それよりも、あんた達はリリャーに何をしに来たんだい?」
「いや、私達は……」
「ハッキリ答えなよ」
アニタの声には、明確な怒気が混じっていた。
臆する様子は一切なく、まっすぐに敵意を向けている。
その剣幕に、サーラを含めた周囲の村人達は冷や汗を浮かべながら成り行きを見守った。
サーディンとエピカは、一瞬だけ互いの顔を見合わせる。
そして、何かを決意したように小さく頷いた。
やがてサーディンが、ゆっくりと口を開く。
「……何と申し上げればよいのか」
彼は一度言葉を選び、
「その前に、一つ確認してもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「リリャーさんには……子供がいますか?」
「……いるよ」
アニタは答える。
「女の子の赤ん坊がね」
「そうですか……」
サーディンは静かに目を伏せた。
「……やはり、生まれていたのですね」
そして、重い声で続ける。
「実を言うと、私達は彼女に謝罪するために来たのです」
「謝罪……?」
アニタの眉が動く。
「どういう意味だい?」
「……リリャーさんが今、このような苦境にある原因は――」
サーディンは苦しげに告げた。
「私達の家族にあります」
その言葉を聞いた瞬間、
「……はぁ?」
アニタは呆然と声を漏らした。
同時に、エピカが代わるように前へ出る。
そして静かに、事情の説明を始めた。




