6話(2) 蒸し料理 プディング 5
そうして二人は作業を進め、最後に全ての椀へ紙の蓋を被せると、慎重に持ち運び、湯を張った鍋の中へ並べていった。
椀の底が浸かる程度の湯を張り、上から木蓋を乗せて蒸気の逃げ道を塞ぐ。
最初は強火。
鍋の中では、ぐつぐつと湯が煮立ち始める。
「あっちち……!」
しばらくして、サーラは釜戸の薪を取り除き、火を弱めた。
頃合いを見計らうと、ゆっくりと木蓋を開ける。
鍋の中から立ち上る湯気に顔を背けながら、濡らした布巾で椀を一つずつ包み、中から取り出していく。
その作業には、すぐさまアニタも加わった。
二人は紙の蓋を外し、器を少し傾けて中身を確認する。
しかし、卵液が流れ出ることはない。
器の中の料理は、しっかりと固まっていた。
「おぉ……」
アニタは思わず感嘆の声を漏らす。
その表情には、完成した料理の美しさと仕上がりの良さに見入っている様子が浮かんでいた。
「アニタさん! ぼーっとしてないで、リリャーさんに持っていくの!…一番乗り、一番乗りじゃ!」
そんな様子をサーラは横目に、すぐさま動き出す。
プディングの入った椀をいくつも乗せた盆を抱え、足早に歩き始めた。
アニタも慌てて後を追う。
そして二人は、奥の部屋の前まで戻ると、扉を叩いた。
すぐに室内から返事が返り、扉が開く。
顔を覗かせたのは、ばあ様だった。
「あんた達かい……」
「ばあ様!消化のいい料理を持ってきました!」
サーラは代表して元気よく告げる。
対して、ばあ様は呆れたように小さく息を吐いた。
もはや小言を言うことすら諦めたような様子だった。
「全く……仕方ない子だね。いいよ、三人とも入りなさい」
「は~い!」
「お、お邪魔します」
サーラとアニタは返事をすると、促されるまま部屋の中へ入っていく。
室内の様子は、先程と変わっていなかった。
奥の壁際に置かれたベッドでは、リリャーが静かに横たわっている。
額には汗が浮かび、時折かすかに身体が動いていた。
もうすぐ意識が戻りそうだった。
その傍らにはケリーが座り、濡れ布巾でリリャーの額の汗を拭っている。
二人の姿に気付くと、小さく手招きしながら場所を譲った。
アニタは恐る恐るベッドへ近づく。
その場に跪くと、震える声で呼び掛けた。
「リリャー……リリャー?」
「うぅん……」
「リリャー、リリャー!」
「………………アニタ?」
やがてリリャーは、ゆっくりと目を開いた。
微かに唇を動かし、か細い声を漏らす。
「……ここは?」
「北の山の麓にある、小さな村だよ。……あんた、近くの森で獣に襲われていたんだ」
アニタが状況を説明する。
リリャーは、しばらく呆然とした様子で周囲を見回していた。
しかし、次の瞬間。
何かを思い出したように、ハッと目を見開く。
そして無理に上半身を起こそうとした。
「……っ!」
だが、身体にはまだ力が戻っていない。
そのままベッドから滑り落ちそうになる。
すぐにアニタが支え、ケリーも慌てて手を伸ばした。
二人は協力しながら、ゆっくりとリリャーの身体を抱え上げ、再びベッドへ戻していく。
「どうしたんだい? 少し落ち着きなさいな」
ケリーは宥めるように声を掛けた。
「あ、赤ちゃん……!私の……赤ちゃん……!」
しかし、リリャーは何度も同じ行動を繰り返す。
「待ってるの……! 行かないと……!」
寝かされるたびに起き上がろうとするが、身体に力が入らず、すぐに体勢を崩してしまう。
「リリャー! 落ち着いて!」
アニタも堪らず制止しながら、彼女の背中を支える。
さらに、ばあ様も前へ出てベッドの傍らへ近づいた。
その後ろへサーラも続き、静かに様子を見守っている。
そして、ばあ様は真剣な声で問い掛けた。
「あんたの子供っていうのは……そこにいる娘が背負っている赤子かい?」
「……は、はい……!」
リリャーは答えながら、サーラの背中にいる赤ん坊へ視線を向けた。
何度も確かめるように頷く。
その様子を見て、ばあ様は深く息を吐いた。
そして、諭すように語り掛ける。
「……この娘に感謝しなさいな」
「村で一番に、その赤子の世話をしてくれていたんだよ。…病気も怪我もなく、五体満足で健康なままなんだわさ」
一拍の後。
「むしろ今は、あんたの方が弱っている。何か食べられるなら、少しでも胃に入れないといかんさね」
ハッキリと告げる。
「だから、大人しくしていなさい」
「……わ、分かりました」
ようやくリリャーは、力を抜いた。
その様子を確認すると、サーラが傍らへ歩み寄る。
「どうぞ」
そう言って、お盆に乗せた椀と匙を差し出した。




