6話(2) 蒸し料理 プディング 4
その様子をサーラは最後まで見届けると、背中の赤ん坊を背負い直しながら、小さく呟いた。
「待っててね。……お母さんが元気になるご飯、作るからね」
そう囁くと、自らも調理へと加わっていく。
「サーラ!……持ってきたよ!他のハンターの人達にも協力してもらって、さっき捕まえたばかりよ。」
すると再びエントランス側の扉が開き、アニタが呼び掛けながら姿を現した。
「……ただ、間に合わせだから、こんなのしかなかったけど」
彼女はすぐさまテーブルまで駆け寄ると、抱えていた物を置く。
それは一羽の野鳥だった。
既に生き絞めにされ、羽もむしられた状態で、新鮮な肉となっている。やや小ぶりではあるものの、丸々とした良い体格をしていた。
「わぁお!…結構いいやつ。これなら十分じゃ!」
サーラは振り返ると、驚きながらも満足そうに頷く。
「さぁ、アニタさんも手伝って!」
「おうよ!」
アニタは力強く返事をすると、決意を滲ませた表情で作業へ加わった。
こうして二人は、調理の準備へ取り掛かる。
まず荷物を広げ、包丁やヘラ、大きめの鍋を二つ。さらにザル、底の深い大きなボウル、小ぶりの椀や深皿を次々と並べていく。
それと同時に、鳥肉と一緒に用意していた野菜類、生姜、大量の卵も取り出した。
「アニタさんは、野菜の下拵えをお願い。皮を剥いて、小さく切っておいてね。……あたしは、お肉の方をやるから」
続けてサーラが指示を飛ばす。
それをアニタは聞くと、すぐさま包丁を手に取った。
真剣な眼差しで野菜へ向き合い、皮を剥いていく。
その手つきは以前と比べ、迷いや滞りがなくなっており、随分と慣れた動きになっていた。
同じ頃、サーラも一つの釜戸を借りて調理を始める。
鍋へ大量の水を汲み入れて火に掛け、沸騰を待つ間に鳥を手早く解体した。
肉は食べやすい一口大に切り分け、塩を振る。そして骨や髄の部分は別に取り分けた。
やがて鍋から白い湯気が立ち始める。
サーラは急いで湯を汲むと、骨や髄の表面へ流し掛け、さらに水で丁寧に洗い流していった。
「何をしているんだい?」
アニタが首を傾げながら尋ねる。
サーラは手を止めずに答えた。
「湯引きと水洗い。これをすると、骨の間に残った血合いや汚れが落ちて、ある程度は鳥の臭みが取れるの」
そして続けざまに指示を出す。
「あと、お野菜くずを布に入れて紐で縛ったら、こっちに頂戴」
「分かった」
すぐにアニタは作業へ戻り、言われた通りの物を用意して差し出した。
「ありがとう」
サーラは受け取ると、鳥の骨や髄、生姜と一緒に鍋へ放り込む。
さらに薪を釜戸へくべて火を強め、じっくりと煮出していく。
しばらくすると鍋の中に、灰汁が浮かび始めた。
サーラはお玉を使い、それを丁寧に取り除いていく。
次第に、周囲には濃厚な出汁の香りが漂い始めた。
「いい匂いねぇ」
近くにいた御婦人の一人が、思わず呟く。
「……これで良し」
サーラは鍋の中を確認し、満足そうに頷いた。
濁りのあった出汁は、澄んだ黄金色へと変化している。
すぐさま別の鍋へ移し替えると、空いた鍋へ少量の水を入れて再び湯を沸かし始めた。
そこへアニタが近寄ってくる。
「サーラ、終わったよ。……次は何をすればいい?」
「じゃあ、底の深いお椀に切った具材のお肉と野菜を入れていってほしいの。ただし、残り半分のお椀には何も入れないでね」
サーラは丁寧に伝えると、次の工程へ移った。
大きなボウルへ大量の卵を割り入れ、溶きほぐす。
さらにザルで濾して卵液のきめを細かくすると、粗熱を取った鳥と野菜の出汁を加えていく。
鍋から少しずつ、何度も分けて注ぎながら混ぜ合わせる。
そうして完成したのは、滑らかな卵液だった。
その頃には、アニタも椀へ具材を均等に入れる作業を終えていた。
「アニタさん、前を失礼」
サーラは具材の入った椀を並べると、卵液を八分目ほどまで注いでいく。
そして、ふと思い出したように声を掛けた。
「あ、おばちゃん! 木の串を二本だけ頂戴!」
「いいよ」
「ありがとう」
近くの御婦人から串を受け取ると、サーラは尖端で卵液の表面に浮かんだ細かな泡を一つずつ潰していった。
「アニタさんも、同じようにお願い」
「こう?」
アニタも見様見真似で作業を始める。
しかし、その表情には疑問が浮かんでいた。
それを察したのか、サーラが説明を続ける。
「泡を消しておくと、出来上がりが滑らかになって、もっと美味しくなるの」
「そうなんだ……」
アニタは感心したように呟きながら、真剣な眼差しで作業を続けた。




