6話(2) 蒸し料理 プディング 2
そのままサーラとケリーは、ベッドまで辿り着く。
「サーラ。……あんたも邪魔だから、部屋の外へ出てなさい」
同時に、ばあ様が制止した。
二人の前へ身体を滑り込ませ、行く手を塞ぐ。
「でも、でも!この人、赤ちゃんのお母さんかもしれないんだよ。会わせてあげないと」
「……まだ確証はないじゃないか」
「でも……!」
「仮にそうだとしても、弱った母親の姿を子供に見せるもんじゃないよ。」
「それは、…」
「……いいから、その子を連れて外へ出な」
「うぅ……」
サーラは尚も食い下がろうとしたが、やがて観念したように小さく頷く。
「あぁ、ケリーさん。あんたは手伝っておくれな」
「あぁ、はい。わかりました」
「良い子だよ。…ほら、サーラ行きな」
「……お願いね、サーラちゃん」
「はぁい……」
最後は素直に返事をすると、赤ん坊を抱いたまま踵を返し、部屋を後にした。
バタン、と扉が閉まる。
サーラは俯いたまま歩く、やがてエントランスへ戻ってきた。
飲食スペースのテーブルには、アニタが一人で座っている。
四人掛けの席で俯き、じっと動かない。
サーラは静かに近づいた。
アニタが気配に気がつき、顔を上げながら力なく振り返る。
「あぁ、サーラか……」
青白い顔色。
今までで一番疲れ切った様子で、どんよりとした空気をまとっていた。
「大丈夫?」
サーラは恐る恐る尋ねる。
「あぁ……」
アニタも返事はしたものの、それ以上は何も続かなかった。
重苦しい沈黙だけが流れる。
そんな空気を裂くように、赤ん坊がぐずり始めた。
「はわぁ!? な、何!? おしめ? お腹すいたの?」
サーラは慌ててあやし始める。
けれど、いつものようにはいかなかった。
いくら抱き方を変えても泣き止まず、焦りと戸惑いばかりが募っていく。
アニタも慌てて立ち上がる。
しかし頭が回らない。
サーラの周りを右往左往するだけで、どうすればいいのかわからず立ち尽くしていた。
「狼狽えるではないわ!!」
「ほえ!?」
突然、村長の大きな声が響く。
二人が振り向くと、ハンターたちの人だかりをかき分けるように村長が歩いてきた。
「……村長さん?」
「サーラ、その赤ん坊をこっちへ」
「え?」
「いいから」
「は、はい……」
「よっこいせ」
村長は赤ん坊を受け取ると、大事そうに抱き直した。
そして――
「ほ~ら、赤ちゃん。どうちたんでちゅか~? 泣かないでねぇ~。ばぶばぶ~」
猫なで声で話しかけながら、これでもかと百面相を見せてあやし始める。
「「「ぶふっ!!?」」」
あまりにも予想外の光景だった。
サーラとアニタは思わず吹き出し、周囲の村人たちも次々に笑い出す。
目を丸くする者。
腹を抱えて笑う者。
笑いを堪えきれず肩を震わせる者。
普段の厳格な村長とは、あまりにもかけ離れた姿だったからだ。
対して村長は、顔を真っ赤にしながら怒鳴り返す。
「なんじゃい! ワシだってあやせるぞ!…こんな喋り方して悪いんか!!」
「ううん、別に!」
サーラが代表するように即座に答える。
それでも村長は、照れ隠しのようにぶつぶつと文句をこぼした。
「ふん……。ワシだってな、泣いてる子をあやそうとはするわい。柄に合わんと思うじゃろうがな」
「……そ、そんなことないですよ。赤ちゃんのこと、気にかけてくれてありがとうございます」
「別に大したことじゃないわい。例え他所から来た者でも、この村で暮らしたなら村人の一員じゃ。泣いておるなら、村長として助けるのは当たり前じゃろう」
「……そう、ですよね」
「今のワシにできることなんぞ、たかが知れとる。……それでも今の自分にできることを全うするしかないんじゃ」




