6話(2) 蒸し料理 プディング 1
空には夕陽が沈み始め、辺りは真っ赤に染まりつつあった。
サーラは村へ戻るなり、広場を駆け抜けて真っ先に村長の家へ向かう。玄関へ辿り着くと、勢いよく扉を叩いた。
扉が開き、村長が顔を出す。
「なんじゃい、……って、サーラか。……何の用じゃ?」
訝しげに首を傾げる村長へ、サーラは荒い息を整える間もなく口を開いた。
「あのね! ……」
息を切らしながらも、山で起きた出来事を必死に説明する。
「なんじゃと!? ……それは本当か?」
「はい!」
「わかった。……婆さん、急患じゃ!急いで来てくれ!!……ワシは皆に知らせてくる!」
村長も話を聞いて、即座に動き出した。
サーラも手分けして村中を駆け回り、大人たちへ招集をかける。
知らせは人から人へと瞬く間に広がり、やがて村中へ伝わった。
そうして村は、かつてないほど騒然となる。
いつもなら、それぞれが家路につく時間だった。
だが今日は違う。
村人たちは皆、足早に同じ場所を目指していた。
向かう先は、ハンター組合支部の平屋だ。
次々と婦人たちが建物へ入り、支部の女性職員とともに急患を迎える準備を始める。
施設の一番奥には空き部屋があった。
婦人たちは手際よく役割を分担する。
掃除と片付けをする者。
窓際へ簡易ベッドを据え付け、できるだけ清潔なシーツへ取り替える者。
ありったけの薬と治療道具を運び込む者。
準備がひと通り整った、その時だった。
「急患だ! ……退いてくれ!」
ハンターたちが戻ってくる。
続いてアニタと親方が、リリャーを抱えて部屋へ飛び込んできた。
二人はすぐにリリャーをベッドへ寝かせる。
「通らせてもらうわよ」
少し遅れて、背後から嗄れた声が響いた。
その場にいた全員が振り返る。
そこに立っていたのは、長い白髪と皺だらけの顔が印象的な老婆だった。
「ばあ様」
親方が声をかける。
老婆――ばあ様は、歳を感じさせない真っすぐな背筋のまま歩み寄ると、水桶で手を洗い、すぐにリリャーの身体を診察し始めた。
顔色を確かめ、脈を取り、身体に触れて状態を調べていく。
その様子を見つめながら、アニタが小声で尋ねた。
「……あの人、いったい何者なんだい?」
「村長の奥さんだ。皆は『ばあ様』って呼んでる。この村じゃ医者みたいなもんさ」
「昔、医学書を少しかじっただけさね。できるのは民間療法くらいだよ。……少し静かにしな」
ばあ様は前を向いたまま二人をたしなめ、診察を続ける。
やがて一通り診終えると、女性職員と婦人たちへ向き直った。
「とりあえず、この人に目立った外傷はないよ。切り傷や擦り傷ばかりさ。」
すぐに指折り数えながら、指示を飛ばす。
「まず身体を綺麗に洗って薬草を塗り、傷口には布を巻いておきなさい。……ただ、疲労と衰弱、それに脱水がひどい。次に塩を混ぜた水と、柔らかく消化のいい物を用意しておくれ」
「はい!」
女性たちは返事と同時に動き出す。
そのうちの一人が、部屋に残るハンターたちを追い立てた。
「ほら!男衆は立ち入り禁止!…治療の邪魔だから外へ出るんだよ!」
「わかった! わかったから押すなって!」
男たちは苦笑しながら、そそくさと部屋を後にする。
「ケリーさん! 早く早く!!」
「ま、待っておくれよ、サーラちゃん! これでも急いでるんだから!」
入れ替わるように、サーラが駆け込んできた。
その後ろから、赤ん坊を抱えたケリーが息を切らせて追いかけてくる。
二人は人混みを縫うように進み、空き部屋へ飛び込んだ。
まだ部屋に残っていたハンターたちも気づき、道を開ける。
その中から真っ先にロンドが声をかけた。
「あぁ、サーラちゃん!親方から聞いたよ! ごめんね、すぐ駆けつけられなくて、心細かった――」
「お父ちゃん!! 邪魔!! 退いて!!」
最後まで聞かず、サーラは一直線に駆け抜ける。
「ガーーーーン!?!!」
その場でロンドは膝から崩れ落ち、床に手をついて項垂れた。
そんな彼を、親方が呆れたように引きずって部屋の外へ連れ出していくのだった。




