第5話(2) ポテトオムレツ 5
その途中、逃げ遅れた彼女の姿が目に入った。
こちら側の岸辺へと、川を渡ろうへ踏み入っていたが、激しい水流に足を取られてしまう。
「あ!?」
次の瞬間、大きな水しぶきを上げながら、俯せに倒れ込んだ。
その隙を逃さず、一匹の狼が素早く距離を詰める。
狙いは首元――牙を剥き、噛みつこうと飛びかかった。
「おらぁぁぁー!!」
だが、寸前でアニタが二人の間へと割り込んだ。
メイスを盾代わりに構え、狼の突進を受け流す。その勢いを利用し、横薙ぎに振り抜いた一撃で弾き返した。
狼の巨体はあらぬ方向へと吹き飛び、川辺に転がる大岩へ激突する。
そのまま動くことはなかった。
アニタは見届けると、すぐさま地面に倒れたリリャーへ駆け寄る。
彼女を抱き起こし、そのまま抱えて手前の森へと離脱していった。
「野郎共!……もういいぞ! 森へ下がれ、下がれ!!」
やや遅れて、親方の指示が飛ぶ。
その声を合図に、他のハンター達も間髪入れず後退を開始した。
親方は殿を務め、武器を乱雑に振り回しながら狼達を威嚇する。荒々しい動きで、追撃しようとする群れを牽制していた。
それでも何匹かの狼は抵抗するように吠え、唸り声を上げる。
しかし、親方の放つ迫力に押されたのか、やがて次々と後退していった。
そして瞬く間に、狼の群れは川辺の対岸に広がる森の奥へと姿を消した。
――そうして、森に静寂が戻った。
サーラは機を見計らうと、急いで木を降りる。
再び川を目指し、全速力で走り出した。
しばらくして、真向かいの藪を抜けた先に、アニタ達や親方を含むハンター達の姿を見つける。
「皆、大丈夫!!?」
サーラは彼らを確認するなり、一目散に駆け寄った。
「おぉ!……サーラ、来たか!」
親方も気づき、すぐに声を掛けてくる。
「悪いが急いで村まで走ってくれ! ばあ様達に、病人がいるって知らせてくれ!!」
その言葉を聞き、サーラは視線を動かした。
すると、アニタに背負われた女性の姿が目に入る。
リリャーは、青白い顔色で憔悴しきっていた。
まるで今にも力尽きてしまいそうなほど、弱々しい。
そしてアニタもまた、平静を失いかけていた。 普段の豪快な姿は鳴りを潜め、狼狽している。
「リリャー、しっかり!…えぇっと、どうしよう」
サーラは状況を理解すると、すぐさま踵を返す。
村への道へ向かい、そのまま全速力で走り出した。
もはや無我夢中だった。
必死に獣道を駆け抜け、山を下り続ける。
足がもつれそうになっても、止まることだけはしなかった。
やがて、村の門が見えてくる。
その頃には、サーラの足取りは疲労で重くなっていた。
それでも決して立ち止まらない。
残った力を振り絞り、彼女はさらに先へと進み続けたのだった。




