第5話(2) ポテトオムレツ 4
「そういう時の狼は気が立ってるから。……もし村まで来たら大変だわ」
「あぁ。だから今、ロンドたちの班と二手に分かれて捜してるんだ」
大人たちの話が続く中、サーラはふと胸騒ぎを覚えた。
反射的に辺りを見渡す。
周囲には深い山林が広がり、正面には一本の川が真っ直ぐ下流へと伸びている。その先には、遥か彼方の村があった。
その時だった。
下流の川沿い――対岸の、山と村の中間辺りにある林の奥から、人影が飛び出してきた。
若い女の人だ。
遠目にも、その姿ははっきり見えた。
見覚えのない人物だった。
長い茶色の髪を揺らし、小柄な身体を大きめの外套で包んでいる。
足取りはふらつき、今にも倒れそうだ。
それでも何かに追われるように、必死で走り続けていた。
次の瞬間。
対岸の林から、幾重もの遠吠えが響き渡る。
大人たちも異変に気付き、一斉に崖下へ目を向けた。
「あれは……リリャー!?」
アニタが悲鳴にも似た声を上げる。
そのまま迷うことなく木を駆け下り、あっという間に崖下へ飛び降りていった。
姿は瞬く間に山林へ消える。
サーラが気付いた時には、もう止められなかった。
「あっ!?…待ってよ、アニタさん!」
「サーラ!…お前はそこにいろ、ありゃ狼に襲われてるから、追って来たら危ないぞ!」
親方が鋭く命じる。
続けて大声を張り上げた。
「野郎ども!…続けぇ!」
ハンターたちも一斉に崖を駆け下り、森を一直線に突っ切っていく。
残されたサーラは、不安げに唇を噛んだ。
落ち着かない様子で何度も川の方へ目を向ける。
すると、先ほどよりもはるかに近く、狼の遠吠えが響いた。
サーラは慌てて鞄からフライパンとお玉を取り出す。
力いっぱい打ち鳴らした。
カン!カン!カン!カン!カン!!
カン!カン!カン!カン!カン!!
「お父ちゃぁぁーーん!!こっちに狼がいるよぉぉ!!」
必死な叫びが山中へ響く。
だが、返事はない。
「お父ちゃぁぁーーん!!」
サーラは何度も何度も叫び続けた。
カン!カン!カン!カン!カン!!
カン!カン!カン!カン!カン!!
「お父ちゃぁぁーーん!! ここだよぉぉーーー!!」
カン!カン!カン!カン!カン!!
カン!カン!カン!カン!カン!!
やがて川辺が騒然とし始めた。
狼たちの咆哮が激しさを増し、対岸の林のあちこちから響いてくる。
それに混じって、親方たちの怒号も聞こえた。
「おい、いたぞ!…こっちだ、こっち!!」
「遅れるな、続けぇ!!」
「囲め! 囲め!!」
サーラが、その方角へ目を凝らす。
遠目ながら、川辺の様子が見えた。
ハンターたちと狼の群れが、ついに激突していた。
先に仕掛けたのは狼だった。
浅瀬を一気に駆け抜け、勢いよく飛びかかる。
大きく開いた口から鋭い牙が閃いた。
しかしハンターたちも怯まない。
それぞれ得物を振るい、迫る狼を次々となぎ払っていく。
アニタもメイスを振り抜き、一頭を力任せに叩き伏せた。
親方も武器を振るい、群れを押し返している。
彼らは目の前の狼を確実に仕留めながら、リリャーのいる方角へ少しずつ前進していった。




