第5話(2) ポテトオムレツ 3
そうして料理が完成した。
サーラはフライパンを高々と掲げ、満面の笑みで叫ぶ。
「出来たのじゃ~!」
「おぉ……」
とアニタも思わず感嘆の声を漏らした。
見事な出来映えだった。
オムレツは眩しいほど鮮やかな黄色に焼き上がり、焦げ目もほとんどない。形もふっくらと山なりで、見るからに食欲をそそる。
二人は食前の祈りを済ませると、そのまま食事を始めた。
フライパンから直接、匙で一口ずつ掬う。
「おいしいぃ~!!」
サーラは頬を綻ばせながら歓声を上げた。
続いてアニタも一口運ぶ。
ふわりとした卵に、ほくほくのじゃがいも。玉ねぎの歯応えが心地よく、噛むほどに猪肉の旨味と野菜の甘み、ほどよい塩気が口いっぱいに広がっていく。
二人は夢中で食べ進め、気付けばフライパンはすっかり空になっていた。
「食べた~」
「そうね。……芋が入ってるから、食べ応えはあったわね」
「本当はバターを入れたら、もっと風味が良くなるのよ」
「確かに。それは美味しそうだね」
「でも、これはこれで充分OKなのよね。……食べたいものを食べられたら満足じゃ」
「……そうね。食べたいものを食べられたら、それだけで幸せよね」
「よね~」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
小川のせせらぎを聞きながら景色を眺め、穏やかな食休みの時間を過ごした。
しばらくして。
二人は揃って後片付けを始める。
サーラは調理道具を川で洗い、丁寧に鞄へしまう。
その間にアニタは焚き火の始末を済ませた。
「さぁ! 食べちゃった分と、ケリーさんへのお土産を取りにいこうっと」
「あぁ、そうだね」
二人は再び崖へ向かって歩き出す。
木の真下まで戻ると、今度は揃って岩場を登り始めた。
サーラは先頭をずんずん進み、慣れた足取りで岩を蹴って登っていく。
あっという間に、鳥の巣がある木の高さまで辿り着いた。
後を追いながら、アニタが声を掛ける。
「サーラ。……アンタ、意外と登るの上手いね」
「だって私、ハンターの娘だもん。木登りなんて日常茶飯事だよ。いつもはお父ちゃんと一緒に卵を取りに来てるからね」
「あぁ……それもそうか」
納得したように頷いた、その時だった。
鳥の巣のある枝へ辿り着いたサーラの頭上から、声が降ってくる。
「おぉい、サーラちゃん!」
呼ばれて顔を上げると、崖の上には村のハンターたちが集まっていた。
皆が身を乗り出すようにして、二人を見下ろしている。
人だかりを掻き分けるように、一人の男が前へ出た。
親方だった。
「あ、親方!」
「ど、どうも」
二人は揃って頭を下げる。
「おう、サーラじゃねぇか。それとアニタもか。……お前ら、何やってんだ?」
親方は首を傾げながら尋ねた。
サーラが代表して答える。
「卵を取りに来たの。食べたい料理があったから、アニタさんにお願いして一緒に来たんだ」
「なるほどな。そいつと一緒なら安心だ。…だが、用事が済んだらさっさと帰った方がいいぞ」
そう言った親方の表情は険しかった。
周囲のハンターたちも互いに顔を見合わせ、誰も笑っていない。
空気が、目に見えないほど静かに張り詰める。
「……何かあったのかい?」
アニタが鋭い眼差しで問い返す。
親方は小さく息を吐き、低い声で答えた。
「狼だ」
一瞬、場が静まり返る。
「どうも、この山のどこかに群れで入り込んだらしい。」
周囲に緊張感が漂いだす。
「本来なら縄張りから滅多に出ねぇ奴らなんだが、あちこち彷徨き回ってる。……弱った獲物でも追ってるのかもしれん」
「それは……まずいね」
アニタも険しい表情で静かに頷いた。




