第5話(2) ポテトオムレツ 2
やがて場所は移り変わり――
山の麓に広がる雑木林。鬱蒼と茂る木々は見上げるほど高く、枝葉の隙間から木漏れ日が降り注いでいる。
小鳥のさえずりが辺りに響き、苔むした樹皮と若芽の青々しい香りが鼻をくすぐった。
すぐ近くには小川が流れ、水面は磨き上げたようにきらめいている。
その中を、アニタは周囲を窺いながら獣道をゆっくり進んでいた。時折立ち止まって耳を澄まし、鳥の鳴き声が聞こえる方角を確かめては、また歩き出す。
その一歩後ろを、サーラが付かず離れずの距離でついていく。
「ん?」
やがて獣道を抜けた二人の前に、切り立った崖が姿を現した。
「あった?」
「……あったよ」
アニタは答えると、崖の上を指差す。
そこだけ岩肌が、剥き出しになった一角があり、その縁から一本の木が大きくうねるように伸びていた。
若葉を茂らせた枝の股には、細い枝を丹念に編み込んだ鳥の巣がある。
それも一つではない。
枝という枝に点々と並び、両手で数えても足りないほどの数があった。
「おぉ~!」
サーラが感嘆の声を漏らす。
「どれ、待ってな」
アニタは軽く笑うと、一人で崖を登り始めた。
岩肌をものともせず軽やかに駆け上がり、あっという間に目的の枝へ辿り着く。巣の中を探ると、すぐさま身を翻して同じ勢いで降りてきた。
「ねぇ、あった!? ……卵あった!!?」
サーラが駆け寄る。
アニタは得意げに両手を差し出した。
その掌には、大ぶりな卵がいくつも収まっている。
「わぉ!…立派、立派!!いい卵」
「見た感じ、新鮮そうだね。まだまだ沢山あったよ」
「あぁ、美味しそう。なんか我慢出来ない」
卵を見つめるサーラの頬が緩む。いつの間にか口元には涎まで浮かんでいた。
「少し食べてみるかい?」
「うん! なら、すぐそこに川があったはずだから、そこで料理しよう!そうしよう!!」
勢いよく前方を指差すと、サーラは嬉しさを隠しきれない様子でアニタの袖を引っ張り、そのまま急かすように歩き出した。
二人は再び小川のほとりへ移動する。
「アニタさん。先に焚き火を起こしておいて貰える?」
「あぁ、任せときな」
「私は調理道具を準備するね」
そう言って、それぞれ作業に取り掛かった。
やがて準備が整い、調理が始まる。
まずサーラは、鞄から食材の入った袋を取り出した。
中には皮を剥いたじゃがいも、にんじん、玉ねぎ、猪肉。
二人で手分けして下拵えを進める。
野菜はまな板の上で皮を剥き、じゃがいもとともに角切りにする。
猪肉も細かく刻み、包丁の背で丁寧に叩いて挽き肉にした。
少し遅れて、焚き火を終えたアニタが声を掛ける。
「こんなもんかな。サーラ、どうだい?」
「うん、そうね。よっしゃ、それなら焼いていくのじゃ」
サーラはフライパンを焚き火に掛け、挽き肉と塩を入れる。
肉から脂が弾け始めると、刻んだ野菜も加え、ヘラで混ぜながら炒めていく。
全体に火が通ったところで一度火から下ろし、新しいフライパンを取り出した。
「アニタさん!!ここに卵を三個、割って頂戴!!」
「おう」
アニタは不器用な手つきで卵を割る。
黄身は少し崩れてしまったものの、幸い殻は混ざらなかった。
サーラは手際よく黄身を溶き、フライパンいっぱいに薄く広げる。
表面が固まり始めたところで、先ほど炒めた肉と野菜を中央へ戻し入れた。
ヘラを滑らせながら卵で具材を包み込み、鮮やかな手つきでひっくり返した。




