第5話(2) ポテトオムレツ 1
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アニタが居候を始めてから、三日が過ぎた。
その日は太陽が明るく照りつけ、辺りはぽかぽかとした陽気に包まれていた。
昼を少し過ぎた頃――。
「よいしょっと」
サーラは庭で洗濯物を竿へ干していた。一枚一枚の皺を丁寧に伸ばしながら、手際よく干し終えると、一息ついて背後へ視線を向ける。
家の軒先では、赤子がハイハイで元気よく動き回っていた。
その傍らでは、アニタが横目で赤子を見守りつつ、芋の皮剥きの練習をしている。桶から芋を取り出し、小型のナイフを辿々しく動かしていた。
その表情は苦々しく、四苦八苦している様子がありありと伝わってくる。
「アニタさん……大丈夫?」
サーラは、ゆっくり歩み寄りながら声を掛けた。
「……なんとかね」
アニタは苦笑しながら答える。
「じゃあ、実と剥いた皮を見せて」
「はいよ」
サーラは芋を手に取り、じっと見つめた。
「うぅむ……」
「……どうだい? まだ見て呉れは悪いけど」
「そうね……もう少し薄く剥いた方がいいわ。前にも言ったけど、野菜は皮と実の間に栄養がたくさんあるの。まだ少し厚いわね」
「……そうかい。もう一度やってみるよ」
「まだ芋は、お隣さんから貰った分がたくさんあるから、どんどん練習していいからね」
「あぁ」
頷くと、アニタは再び皮剥きを始める。
先ほどまで浮かんでいた曇りは、表情から少し消えていた。
「さて……今日は芋料理ね」
その様子を見守りながら、サーラは首を傾げて献立を考える。
その時、不意に脳裏へ電流が走るような閃きが駆け抜けた。
「……オムレツ食べたい」
「はい!? ……オムレツがどうしたって?」
アニタが思わず手を止める。
だが、サーラの口から溢れた食欲は止まらなかった。
「オムレツ食べたい。角切りのお芋や細かく刻んだ野菜がゴロゴロ入ってて、玉子はふわふわ。そんなオムレツ……あぁ~、食べたい!作りたい!!」
熱弁を聞いているうちに、アニタの腹まで刺激されたらしい。ごくりと生唾を飲み込みながら苦笑する。
「そこまで食べたいなら、作ればいいじゃないか」
「でもねぇ……今、家には卵がないのよ。山まで取りに行かなきゃいけないし……お父ちゃんから、一人で山へ入るなって言われてるの。だから諦めるしかないわ」
サーラは肩を落とし、唇を尖らせる。けれど、一度高まった食欲までは抑えられず、不満そうに頬を膨らませた。
(ロンドの言い分も分からなくはない)
そう思いながらも、アニタは少し考え込む。
「……じゃあ、あたしが付いて行こうか?」
恐る恐る口にすると、サーラはぱっと目を輝かせ、大きく頷いた。
それからしばらくして。
二人は片付けと荷物の準備を済ませ、自宅の戸締まりをすると、隣家へ向かった。
サーラが扉を軽く叩くと、ほどなくしてケリーが顔を出す。
「あら、サーラちゃん。どうしたんだい?」
「ケリーさん、お願いがあるの。少しの間だけ、赤ちゃんを預かってくれない?」
「おや、どこかへ行くのかい?」
「あのね。卵を取りに山へ行くの」
「えぇっと、一人で?」
「あ、……私も一緒に行きますから」
少し遅れて、後ろのアニタがおずおずと口を開く。
ケリーは二人を見比べながら少し考え込み、やがて納得したように頷いた。
「……あんたなら凄腕のハンターみたいだし、大丈夫かね。わかったよ。ほら、赤ちゃん。おばちゃんのところへおいで」
「はい。よろしくね」
「あぶぅ……」
「任せときなね。おぉ、よしよし」
赤子を抱き上げると、優しくあやし始める。
「ありがとう。じゃあ、いってきます」
サーラは背中の革鞄と荷物を背負い直し、アニタも軽く会釈して後に続いた。
二人は広場を抜け、村の外へ出る。
真正面にそびえる山を目指し、その足を進めていくのだった。




