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第5話(2) ポテトオムレツ 1

 ※※※


 アニタが居候を始めてから、三日が過ぎた。

 その日は太陽が明るく照りつけ、辺りはぽかぽかとした陽気に包まれていた。

 昼を少し過ぎた頃――。

 「よいしょっと」

 サーラは庭で洗濯物を竿へ干していた。一枚一枚の皺を丁寧に伸ばしながら、手際よく干し終えると、一息ついて背後へ視線を向ける。

 家の軒先では、赤子がハイハイで元気よく動き回っていた。

 その傍らでは、アニタが横目で赤子を見守りつつ、芋の皮剥きの練習をしている。桶から芋を取り出し、小型のナイフを辿々しく動かしていた。

 その表情は苦々しく、四苦八苦している様子がありありと伝わってくる。

 「アニタさん……大丈夫?」

 サーラは、ゆっくり歩み寄りながら声を掛けた。

 「……なんとかね」

 アニタは苦笑しながら答える。

 「じゃあ、実と剥いた皮を見せて」

 「はいよ」

 サーラは芋を手に取り、じっと見つめた。

 「うぅむ……」

 「……どうだい? まだ見て呉れは悪いけど」

 「そうね……もう少し薄く剥いた方がいいわ。前にも言ったけど、野菜は皮と実の間に栄養がたくさんあるの。まだ少し厚いわね」

 「……そうかい。もう一度やってみるよ」

 「まだ芋は、お隣さんから貰った分がたくさんあるから、どんどん練習していいからね」

 「あぁ」

 頷くと、アニタは再び皮剥きを始める。

 先ほどまで浮かんでいた曇りは、表情から少し消えていた。

 「さて……今日は芋料理ね」

 その様子を見守りながら、サーラは首を傾げて献立を考える。

 その時、不意に脳裏へ電流が走るような閃きが駆け抜けた。

 「……オムレツ食べたい」

 「はい!? ……オムレツがどうしたって?」

 アニタが思わず手を止める。

 だが、サーラの口から溢れた食欲は止まらなかった。

 「オムレツ食べたい。角切りのお芋や細かく刻んだ野菜がゴロゴロ入ってて、玉子はふわふわ。そんなオムレツ……あぁ~、食べたい!作りたい!!」

 熱弁を聞いているうちに、アニタの腹まで刺激されたらしい。ごくりと生唾を飲み込みながら苦笑する。

 「そこまで食べたいなら、作ればいいじゃないか」

 「でもねぇ……今、家には卵がないのよ。山まで取りに行かなきゃいけないし……お父ちゃんから、一人で山へ入るなって言われてるの。だから諦めるしかないわ」

 サーラは肩を落とし、唇を尖らせる。けれど、一度高まった食欲までは抑えられず、不満そうに頬を膨らませた。

 (ロンドの言い分も分からなくはない)

 そう思いながらも、アニタは少し考え込む。

 「……じゃあ、あたしが付いて行こうか?」

 恐る恐る口にすると、サーラはぱっと目を輝かせ、大きく頷いた。

 それからしばらくして。

 二人は片付けと荷物の準備を済ませ、自宅の戸締まりをすると、隣家へ向かった。

 サーラが扉を軽く叩くと、ほどなくしてケリーが顔を出す。

 「あら、サーラちゃん。どうしたんだい?」

 「ケリーさん、お願いがあるの。少しの間だけ、赤ちゃんを預かってくれない?」

 「おや、どこかへ行くのかい?」

 「あのね。卵を取りに山へ行くの」

 「えぇっと、一人で?」

 「あ、……私も一緒に行きますから」

 少し遅れて、後ろのアニタがおずおずと口を開く。

 ケリーは二人を見比べながら少し考え込み、やがて納得したように頷いた。

 「……あんたなら凄腕のハンターみたいだし、大丈夫かね。わかったよ。ほら、赤ちゃん。おばちゃんのところへおいで」

 「はい。よろしくね」

 「あぶぅ……」

 「任せときなね。おぉ、よしよし」

 赤子を抱き上げると、優しくあやし始める。

 「ありがとう。じゃあ、いってきます」

 サーラは背中の革鞄と荷物を背負い直し、アニタも軽く会釈して後に続いた。

 二人は広場を抜け、村の外へ出る。

 真正面にそびえる山を目指し、その足を進めていくのだった。

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