表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/46

4話 野菜のポトフ 5

 突然の出来事に、アニタは目を白黒させたまま固まっていた。

 そんな彼女を気にも留めず、サーラは顔を間近まで寄せて言葉を続ける。

 「……アニタさん。今、良くないことを考えてるじゃろ。駄目駄目スパイラルじゃろ」

 「え? いや……駄目駄目スパイラル?」

 「そんなことばかり考えてたら、ご飯が美味しく食べられないぞい。アニタさんまで元気がなくなってしまう」

 「……そうかもしれないけど! 私は本気で悩んで――」

 「それでも、まずは元気をつけるためにご飯を食べよう。ワシが簡単な料理と包丁の使い方を教えるから、一緒に作ろう」

 「……本当かい」

 弱々しい声で、アニタは思わず聞き返した。

 サーラは静かに頷くと、彼女の手を取って立ち上がらせ、そのまま釜戸の前へ並んで立つ。

「まずは私が野菜を切るから、見ててね」

「あ、あぁ」

 アニタは頷き、サーラの手元を食い入るように見つめた。

 サーラは包丁を握ると、並んだ野菜を一つずつ吟味する。

「初心者にはカボチャは難しいわね。これは私が切っちゃお」

 そう言ってカボチャを手に取る。

 まずヘタに切れ込みを入れた。隙間へ刃先を差し込むと、力を込めて真っ二つに割り、さらに半分に切り分け、種とワタを手際よく取り除いた。

 一口大に切り揃え、最後に角を落としていく。

 「……すごい。綺麗に切れてるわね」

 アニタは思わず、言葉を漏らした

 サーラは横目で小さく笑う。

 そして手を止めることなく、今度はにんじんとじゃがいもの皮をむき、ヘタや芽を取り除きながら、一口大へと揃えていく。

 「はい。じゃあ次は、アニタさんが切ってみようか」

 包丁を持ち替え、柄のほうを差し出す。

 アニタは頷いて受け取ると、まな板の前へ立った。

 すぐにサーラの手元を思い返しながら、見よう見まねで包丁を動かしていく。

 「包丁はね、ただ握るんじゃないの。利き手の人差し指を背に添えて持つの。反対の手は親指を隠すように丸めて、食材にそっと添えるのよ」

 「こんな風かい?」

 「そうそう。反対の手は、人差し指の第一関節を包丁の腹に軽く当てる感じ。…包丁は前後に滑らせるように動かして切るの。力任せに押し下ろすと怪我しちゃうからね」

 「……わかった」

 「そうそう。その調子。ゆっくり……もう少し肩の力を抜いて」

 やがて部屋には、トン、トン、トン――と心地よい音が響き始めた。

 しかしアニタは、小さくぼやく。

 「……でも、なかなか上手くいかない」

 「アニタさん。ひょっとして昔、刃物で手や指を怪我したことある?」

 サーラは何気なく問いかけた。

 二人は話を続ける。

 「……幼い頃に一度。今でも覚えてる。父さんもハンターだったんだけど、その仕事道具の刀で遊んでしまって……」

 「だったら怖いのは当たり前よ。これは何度も練習して、少しずつ慣れていくしかないの」

 「……そうなのね」

 「うん。だったら、ここにいる間はいくらでも練習していいから。きっと上手になるよ」

「……ありがとう」

アニタは礼を言うと、ぎこちないながらも包丁を動かし続ける。

 残っていた野菜の下拵えを無事に終える頃には、大きく息を吐き、口元には安堵の笑みが浮かんでいた。

 サーラは切り終えた野菜へ視線を向ける。

 自分の見本と比べれば形は不揃いだ。

 それでも、最初に包丁を握った時よりもずっと綺麗に切れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ