4話 野菜のポトフ 4
すぐにアニタも後を追いかけ、「あ、あたしも何か手伝うよ」と恐る恐る申し出ながら、隣へ並んだ。
「……あたしは、お湯を沸かす間に野菜を切っといて。」
「あ、あぁ。」
「そこの水場に、今日使うやつ置いてあるから。」
サーラは釜戸へ薪をくべながら、指で水場を示す。
アニタが目を向けると、まな板と包丁、さらに脇には、にんじんやじゃがいも、大きなカボチャが並べられていた。
「固いのから切ってね!!」
再び飛んできたサーラの声に、アニタの表情がわずかに強張る。
だが、すぐに意を決したようにカボチャを掴み、包丁を縦に構えてゆっくりと刃を突き立てた。
ガン!!
ガッシャーン!!
しかし手元が狂い、刃はうまく食い込まない。
弾かれたカボチャは、勢いよく明後日の方向へ飛び、周囲の野菜や調理器具を巻き込みながら、盛大な音を立てて床へ転がった。
「……なんじゃ!? ……どうしたんじゃい!!?」
「…………。」
「……え?」
「…………。」
ほぼ同時に二人の視線が床へ落ちる。
転がるカボチャを見つめたまま、揃って沈黙した。
やがてアニタが、小さく呟く。
「……ごめん。」
辺りに何とも言えない空気が漂う。
サーラは目を泳がせ、状況を飲み込みきれない様子で戸惑っていた。
その目の前では、アニタが肩を落としたまま立ち尽くし、顔色も見る見る青ざめていく。
「えぇっと、……」
サーラは気付けば、身振り手振りを交えながら、何とか言葉を探そうとしていた。
「……ごめん。もう一回、今度はちゃんとやるよ。」
しかし、その声を遮るようにアニタが動き出す。
すぐに散らばった野菜と調理器具を慌てて拾い集め、まな板へ並べ直すと、包丁を強く握り締め、今度こそ慎重に力を込めて切ろうとした。
ガン!!
ガッシャーン!!
――結果は同じだった。
カボチャこそ歪に真っ二つになったものの、砕けた欠片は四方へ飛び散り、床へ転がっていく。
「えぇぇ……。」
サーラは呆然とその様子を見守るしかなかった。額には冷や汗が滲み、表情はわずかに引きつっている。
「うぅぅ……。」
とうとうアニタは視線に耐えきれず、苦悶の表情を浮かべたまま膝から崩れ落ちた。
同時に包丁も、乾いた音を立てて床へ転がる。
ほぼ同時に、サーラは慌てて駆け寄った。
「……大丈夫?」
「……ごめん。とんでもなく、自分が情けなく思えてしまって。」
「……はい?」
「……笑わないで聞いてくれるかい?」
「う、うん。……」
「あたし……ハンターをやってるけど、刃物が上手く使えないの。」
アニタは座り込んだまま俯き、ぽつりぽつりと語り始めた。
顔は見えない。
「……いつも刃物を持つと、力の入れ方がおかしくなって、大惨事を起こすの。自分でも故意にやってる訳じゃないのに。」
だが鼻をすする音だけが聞こえ、涙を流しているのが伝わってくる。
「……実を言うと、何度かリリャーの代わりに料理をしようとしたこともあったんだ。でも、危なっかしいからやめてって言われて……喧嘩になったこともある。」
「……あぁ~、成る程。」
サーラは頭の中で光景を思い浮かべ、ようやく腑に落ちた。
「……それに、リリャーが出ていく前も、私が仕事へ向かう日に同じことで喧嘩しちゃって……」
なおも話を続けようとした、その時だった。
「ねぇ、アニタさん。」
「なんだい?」
サーラはそっと両手を伸ばし、アニタの頬へ添える。
そのままゆっくりと顔を正面へ向けさせると、
「むぎゅ~~、じゃ!!」
と、言って両頬をむにっと押し込み、変な顔にしてみせた。




