4話 野菜のポトフ 3
続けざまに、ロンドが代表して断りを入れた。
「い、いきなり……そんなことを言われても困るよ」
「そこをなんとかお願いします」
それでもアニタは諦めなかった。
真っ直ぐに親子を見据え、決して視線を逸らさない。
その瞳には、揺るぎない強い意志が宿っていた。
しばらく同じ問答が続く。
「……どうして、そういう話になるんだい?」
「……アンタ達が言いたいのは、その赤ん坊がリリャーの子供なんじゃないか、ってことだろう?」
アニタは静かに答える。
「……だったら、近くにいれば……あの娘が迎えに来るかもしれないと思ったんだよ」
「し、しかし……。……来ない可能性だってあるだろう」
「……あの娘は優しい。置き去りになんてするはずがない。……きっと、何か事情があるんだよ」
「……で、でもねぇ」
「なぁ……お願いだよ。……頼む」
「うぅむ……」
ロンドは断り続けるも、次第に気圧される。やがて唸りながら、隣にいるサーラへ視線を向けた。
「どうしようか……お父ちゃん?」
次第に二人は顔を見合わせ、しばらく考え込んだ。
そして――。
「……わかったよ」
最後には、ロンドが小さく呟いた。
「あ……ありがとう。……恩に着るよ」
とアニタは喜びのあまり席を立つと、前のめりになるほど身を乗り出し、親子の手を取って強く握りしめた。
ほぼ同時に、周囲の大人達からも深いため息が漏れる。
「……話がまとまったのなら、ワシらはもう何も言うまい。…」
それから村長が口を開く。
「…とりあえず、お主も村の一員として歓迎するぞい」
そう言い残すと、村長はそそくさと踵を返し、出入口へ向かっていく。
それを合図に、他の者達も各々帰り支度を始めた。
「……なら、俺の方でもハンター連中に声を掛けておくぜ。」
親方が去り際に声を掛ける。
「……もしかしたら、探し人の痕跡が山のどこかで見つかるかもしれねぇからな」
「……あたしも、村の女性陣には伝えておくわ」
続いてケリーもそう告げると、帰り支度を済ませ、その場を後にした。
アニタも席を立ち、出入口へ向き直る。
そして、離れていく村人達の背中へ向けて、静かに一礼した。
やがて顔を上げると、親子へと向き直る。
「とりあえず……僕らも帰ろうか」
「うん……お父ちゃん」
「……アニタさんも、付いてきてよ」
と、ロンドは声を掛けながら席を立ち、歩き出す。
すぐにサーラも荷物をまとめて後を追い、三人は横並びになって施設の扉を抜けた。
そのまま家路へ向かって歩き出す。
アニタも少し距離を置きながら、親子の後をゆっくりと付いていった。
※※※
空は深く濃い夜の闇に染まっていた。
辺りはすっかり暗闇に包まれ、肌にまとわりつくような静寂が広がっている。もはや外を歩く人影も、ほとんど見当たらない。
ようやくサーラとロンドは自宅に戻り、玄関を抜けるなり、居間へと向かった。
「た、ただいま~」
「ただいま」
「……お邪魔します」
少し遅れて入ってきたアニタは、入口の前で立ち止まり、室内をじっと見渡した。
その視線の先では、サーラが忙しなく動き回っていた。
彼女は簡単な掃除を済ませながら、買ってきた荷物を手際よく片付けている。
一方のロンドは、テーブル脇に置かれた揺りかごへ赤子を寝かせ、優しくあやしていた。
その時だった。
赤子が突然、大きな声で泣き始める。
居間の空気が一瞬で張り詰めた。
ロンドとアニタは、揃って慌てた様子になる。
「あぁ、どうしたんだい?!」
「えっ?!……えっと」
「お父ちゃん!!赤ちゃん、お腹が空いたみたい!」
しかし、サーラだけは冷静だった。
「急いでご飯を作るから、出来たら先に食べさせてあげて!」
そう言い残すと、すぐさま竈の方へ向かい、手早く調理の準備を始める。




