4話 野菜のポトフ 1
先程の騒ぎが収まる頃には、日は大きく傾き始めていた。
組合支部内の人々も、すでに平静を取り戻し、帰路につく者達の姿もちらほらと見え始めている。
そんな彼らは決まって、出入口から外へ出る際に、一度だけ振り返る。
視線の先――施設の奥に設けられた飲食スペースへと、必ず目を向けてから去っていくのだった。
そこでは一つのテーブルを中心に、親方やロンド達が取り囲んでいた。
さらに村長やケリーも集まってきている。
全員が訝しげな表情を浮かべながら、正面に座る人物を見つめていた。
テーブルの向かい側。
そこには一人の女性ハンターが、静かに腰を下ろしている。
その正面にはサーラが向かい合うように座っていた。
腕の中では赤子が、サーラの長い癖っ毛を小さな手で掴み、楽しそうに弄んでいる。
その微笑ましい光景を眺めた女性は、僅かに口元を緩めた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「さっきは、すまなかったね。……つい興奮してしまって、我を忘れてたの。……決して悪気があった訳じゃないわ」
「おまえさん、一体なんなんじゃ?」
村長が代表するように問い掛けた。
「私は、アニタ。……見ての通り、根無し草のハンターよ。……この村へは、少し野暮用があって来たの」
「……さっきまでのお主の反応からして、人探しか?」
「えぇ。私の友達を探しているの。……名前は、リリャー。……私と同い年で、気弱そうな性格をした子よ。長い茶色の髪に青い目、小柄な女の子。……どこかで見なかったかしら?」
「……いいや、残念ながらな」
村長は首を横に振った。
「この村は、人の出入りなんぞ商人程度じゃからな。……余所者が来れば、たちまち噂になるわい」
「そう……」
「その娘は、一体どうしたというんじゃ?」
「………………」
問い掛けに対し、アニタは一瞬だけ苦い表情を浮かべた。
言葉を探すように沈黙した後、やがてぽつり、ぽつりと自身の身の上を語り始める。
「……詳しい理由は、私にも解らない。……順を追って説明すると、私達が出会ったのは半年と少し前のことよ」
「…ふむ」
と村長は呟く。
その場にいた者達も、耳を傾けだした。
「この村より南にある【ネオマルフィア】という港町で出会ってね。そこで意気投合して、一緒に暮らすようになったの」
「【マルフィア】?」
サーラも小さく呟く。
「そうだよ、嬢ちゃん。……聞いたことくらいはあるでしょ。この辺り一帯を治める領主が住む街よ」
とアニタが補足する。
「えっと……?」
しかし、サーラは困惑した表情を浮かべた。
ただ、街の名前だけは妙に聞き覚えがある気がしたのだ。
「とりあえず、話を戻すよ」
すぐにアニタは気に留めることなく話を続ける。
彼女の話によれば、当時のリリャーは身重の身体で、出産を間近に控えた状態で日々を過ごしていたという。
ただし、子供の父親は一緒には暮らしていなかった。
相手側の事情により、出産を迎えるまでは別々に生活していたらしい。
そんなリリャーの状況を知ったアニタは、放っておくことができなかった。
彼女の家へ転がり込み、寝食を共にしながら、料理以外の家事を手伝ったという。
二人で過ごした時間は、決して悪いものではなかった。
むしろアニタにとって、それはかけがえのない日々だった。
だからこそ――。
共に暮らし始めてから約一ヶ月後。
起きた出来事を、彼女は今でも忘れることができない。
リリャーが産気づいたのだ。
急いで医者のもとへ運ばれ、無事に子供を産んだ……はずだった。
その間、アニタはハンターとしての仕事で街を離れていた。
しばらくして【ネオマルフィア】へ戻ってきた彼女を待っていたのは、信じられない知らせだった。
慌てて医者のもとへ向かったアニタだったが、既にリリャーの姿はなかった。
急いで自宅へ戻っても、状況は同じだった。
家具も、生活用品も、何一つ持ち出された形跡はない。
ただ、人だけが忽然と消えていた。
「て言う訳よ。…」
と、アニタはそこで話を締めくくった。




