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3話 蜂蜜の猪ステーキ 5

 「サーラ、こいつは旨かったぜ。……こんな味は滅多にねぇ。あと一皿、いや二皿は食いたい。もう少し作ってくれ」

 「あいあいさ~!」

 サーラも笑顔で皿を受け取り、控え室へ戻ろうと踵を返した。

 その時、不意に背中へ視線が突き刺さる。

 「ん?」

 気になって振り返ると、――

 離れたテーブルに見慣れない若い女性ハンターが一人で座っていた。酒のジョッキを片手に少しずつ口をつけながら、こちらを訝しげな目で眺めている。

 「あぁ、あの人はね。……僕らが森で苦戦してた時に助けてくれた人だよ」

 ロンドが気付き、補足する。

 「凄い腕利きで、一撃で猪に止めを刺したんだ」

 「腰抜かしたロンドさんとは大違いだったよな」

 「あの人が……でも、女の人なんだ」

 と話を聞きながら、サーラは改めて女性を見つめた。

 赤い短髪に軽装の鎧。腰には使い込まれたメイスを提げていた。その佇まいは年齢に似合わぬ歴戦の傭兵を思わせる。

 その直後だった。

 「なぁ、……そこのアンタ」

 凛とした声が店内に響く。

 「ほぇ……あたし?」

 「さっきの料理。……こっちにも頂戴よ」

 「え?」

 あまりに唐突な申し出に、サーラは目を丸くする。

 だが間髪入れず、親方やロンド達が口を開いた。

 「おぉ、だったらサーラよ。彼女にも作ってやってくれ」

 「さっき礼をしようとしたんだが断られちまってな。だから気が引けてたんだよ」

 「わかった」

 すぐにサーラは返事をし、急いで控え室へ向かった。

 しばらく待つと、出来立ての料理を運んできた。

 二つのテーブルへ順番に配膳し、反応を窺った。

 先程と同じく、親方達は一斉に料理へ飛びつく。

 一方、女性は静かに皿を見つめていた。

 やや遅れてフォークとナイフを手に取り、乱暴な手つきで肉を切る。

 一口、口へ運ぶ。

 ゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ瞬間――

 「アンタ!!」

 鋭い声が店内に響いた。

 女性は立ち上がると、鋭い眼光をサーラへ向け、その肩を勢いよく掴む。

 店内は一瞬で騒然となった。

 組合の従業員達は、思わず息を呑む。

 ハンター達も慌てて席を立つ。

 「さ、サーラちゃん!?」

 「おい、なんだ!? どうした、姉ちゃん!?」

 親方やロンドの慌てた声が飛ぶ。

 だがサーラだけは、不思議なほど落ち着いていた。

 相手から敵意をまるで感じなかったからだ。

 「アンタ……」

 やがて女性は瞳に涙を滲ませ、意を決したように口を開く。

 「…あたしの友達のこと、知ってるのかい!?この肉料理の味は間違いなく、あいつが作ってくれたのと全く同じなんだよ!!」

 「え? ……知らない」

 とサーラは否定し、きょとんとしたまま固まる。

 「……は?」

 女性も同じように呆けた表情で動きを止めた。

 「え?」

 「へ?」

 周囲からも困惑の声があちこちで漏れる。

 先程まで張り詰めていた空気は嘘のように霧散し、組合の食堂は妙な静けさに包まれていた。

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