表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/48

3話 蜂蜜の猪ステーキ 4

 一通りの行程を終えると、サーラは銅製のフライパンと木べらを手に取り、下ごしらえした食材一式を抱えて再び釜戸の前へと移動した。

 フライパンの底に油をひき、弱火にかける。

 じわりと熱が回り、油がわずかに跳ねる気配を見せた頃合いで、肉へ軽く塩を振り、そのまま静かに投入した。

 まずは側面から焼き付け、続いて両面へと順に火を通していく。

 辺りには「ジュウ、ジュウ」と肉が焼ける音が満ち、同時に香ばしい匂いが空気をじわりと塗り替えていった。

 やがて表面にしっかりと焼き色が付くと、サーラはフライパンに蓋をし、そのまま火から外して濡れ布巾の上へと置く。余熱で中心までじっくりと火を通すためだ。

 しばしの間を置いた後、再び強火にかけ、全体へほどよく焦げ目を走らせると、肉を皿へと移す。

 残った肉汁は捨てず、同じフライパンで野菜を炒める。旨味を吸ったそれらは、付け合わせとして肉の横に丁寧に添えられた。

 「いい匂いねぇ〜」

 どこかで誰かが、思わず漏らしたように呟く声がする。

 「できたのじゃ〜!」

 サーラ自身も、料理の乗った皿を誇らしげに掲げると、冷めないうちにと足早に隣の飲食スペースへ向かった。

 扉をくぐった瞬間、騒がしい声が一気に押し寄せてくる。ハンターたちはすでに顔を赤く染め、先ほどよりも明らかに出来上がっていた。

 その中から、一際大きな声が飛ぶ。

 「おぉい、サーラ!……こっちだ、こっち!」

 中央のテーブルでは親方が手を振り、彼女を呼び寄せていた。

 そこにはロンドを含む数人のハンターが並び、興味と期待に目を輝かせている。

 サーラは余裕の足取りでテーブルへ近づくと、

 「お待たせしましたよ!」

 と告げ、開いたスペースへ料理の皿をそっと置いた。

 途端に、覗き込むような視線が集中する。

 「おぉ、ステーキか。……こいつはいいな」

 「だが、これが旨い食い方なのか? いつもとそう変わらんようにも見えるがな。猪肉は焼きすぎると固くなる」

 「いや……なんだ、この肉。妙に艶があるぞ。表面が磨いたみてぇに光ってやがる」

 「……ごちゃごちゃ言ってねぇで、一口食えばわかるだろ」

 言い終わるより早く、親方がナイフとフォークを手に取り、肉を切り分ける。断面には、わずかに薄いピンク色が残っていた。

 火は十分に通っているはずだが、どこか瑞々しさを思わせる仕上がりだった。

 そして、親方が真っ先にそれを口へ運ぶ。

 続いて他のハンターたちも次々と肉を頬張り──

 「なんじゃこりゃ!! いつもより柔らけぇぞ。噛み切れる!」

 「……確かに、うめぇ!」

 「塩だけなのに、変な甘い香りがする……味も奥行きがあるな」

 「付け合わせも同じだ。肉の旨味が移ってやがる」

 「うちの娘の料理は最高だなぁ!!」

 驚き混じりの声が次々と上がり、誰もが目を見開く。飲み込む間も惜しむように、すぐさま皿へと手が伸びていった。

 瞬く間に皿の上の料理は減っていく。

 肉は歯切れよく崩れ、噛むたびに脂の甘みと素材の旨味が一気に広がる。塩のシンプルな味付けが、それをむしろ際立たせていた。

 付け合わせの野菜もまた、肉汁を吸って深みを増している。

 じゃがいもは皮が小気味よく弾け、ほくりと崩れてねっとりと舌に絡む。

 にんじんと玉ねぎは甘みを強めながら、ほどよい歯ごたえを残していた。

 ハンターたちは、噛むたびに満たされていく感覚に浸る。

 気づけば、皿はすでに空になっていた。

 そして親方は当然のように、空になった皿を突き返してくるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ