3話 蜂蜜の猪ステーキ 3
親方も怪訝そうに首を傾げた。
「そんなのがあるのか……?」
「うん」
サーラは頷く。
「いいな。一仕事終えたあとに、酒を飲みながら肉を頬張るなんてよ。……食ってみたいぜ」
親方はその光景を思い浮かべたのか、上の空のまま笑みを浮かべると、
「頼むぜ!」
と勢いよく言った。
「あいあいさー!! 買い物が終わったら、ハンター組合の集会所で、みんなの分も作ってあげるわ!」
サーラは胸を張って宣言すると、くるりと踵を返し、荷馬車へ戻って買い物を再開する。
久しぶりのご馳走に、彼女はすっかり張り切っていた。
※※※
やがて昼を少し過ぎた頃。
ハンター組合支部の飲食スペースでは、仕事を終えた村のハンターたちが続々と集まり、酒盛りに興じていた。
席に着くなり豪快に笑い合う者。
酒とつまみを楽しむ者。
頬を赤く染めて管を巻く者。
支部の女性スタッフにちょっかいを出し、軽くあしらわれている者までいる。
その賑わいを入口から眺めた村長は、
「やれやれ……仕方ないのぉ」
と苦笑しながら呟き、そのまま受付奥の扉を開け、従業員用の控え室へ入っていった。
部屋へ入ると、すぐ脇には簡素な調理場がある。
四つ並んだ釜戸と水場だけの造りだが、村の一般家庭よりは一回り大きい。
その近くには質素な作業用テーブルが置かれ、女性スタッフや村の婦人たちが集まって、料理の支度を進めていた。
調理道具がずらりと並び、野菜が山のように積まれている。
さらに年長の女性が猪肉を手際よく切り分け、一人ひとりへ配っていた。
肉は鮮やかな赤色を保ち、解体も血抜きも丁寧だ。無駄なく使えるよう、下処理まで行き届いている。
「あいよ、サーラちゃんの分だよ」
「はい!はーい!」
サーラは真っ先に肉を受け取ると、部屋中を忙しなく動き回り、調理の準備を始める。
誰よりも手際がよく、その動きは目にも留まらないほど軽快だった。
その作業台のそばには、大きな籠が椅子の上に置かれている。
籠の中では、赤子が眠っていた。
それに村長は気づくと、静かに籠の隣へ椅子を運び、腰を下ろす。
すぐにサーラも気づいた。
「あら、村長さん」
「……邪魔するわい。ワシのことは気にせんでな」
村長はぶっきらぼうに鼻を鳴らし、そっぽを向く。
だが横目では、赤子の寝顔をちらちらと見守っていた。
サーラは少し不思議そうな顔をしたものの、気を取り直して調理へ戻る。
まず肉と材料を水場へ運び、釜戸の鍋にたっぷりと水を張って火へ掛ける。
湯が沸く間に、猪肉を分厚く切り分け、筋へ丁寧に包丁を入れて下ごしらえを済ませた。
続いて買い物籠から、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんを取り出す。
どれも先ほど買ったばかりで、まだ土の香りが残る新鮮な野菜だ。
必要な分だけ水場で丁寧に洗い、泥や汚れを落としていく。
肉は軽く洗ったあと、一度熱湯へくぐらせる。
余分な脂を落とし、臭みも丁寧に抜いていくためだ。
しばらくして肉を引き上げると、
「えぇと、これじゃ。さっき商人さんがお詫びに安くしてくれたやつ」
買い物籠から小さな瓶を取り出した。
中身は蜂蜜だった。
匙で少量をすくい、切り分けた肉へ薄く塗り広げていく。
その様子を見た婦人たちは、一斉に目を丸くする。
対照的に村長は、
「ほぅ……」
と感心したように小さく漏らした。
「よし。あとは少し置いておくだけ」
サーラは周囲の反応など気にも留めず、再び作業台へ戻る。
野菜をまな板へ並べ、一口大に切り分けていく。
ただし、じゃがいもだけは皮付きのまま、同じ大きさに切りそろえていった。




