↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/38

第24話 「まかせて」

 公都で角突き合わせる三勢力が揃って名指しした場所は、プシュケ工房。

 古くは錬金術師が集い、近年は薬品調合で知られる建物だ。増改築を繰り返した重厚な造形は、街中にありながら城塞のおもむきがある。


 現場では、まさに攻城戦さながらの光景が展開していた。

 建物に面した通りに、工房の庭に、裏路地にさえ、魔法が荒れ狂っている。火の矢が街路樹を燃やし、水のつぶてが壁を穿ち、風が吹き荒れて石畳を削った。

 

 バルコニーや窓から、刺青の線に覆われた者が幾人も顔を出している。

 わめくような詠唱の声があがるたび、超常の力が荒れ狂うのだ。

 隙をついて接近できないかと銃士たちがうかがっているが、手を出しかねていた。


「まったく、棟梁とうりょうも面倒な指示を出したもんだね」

 家屋の隙間に身をひそめつつ、クーンがぼやいた。

 そのそばに、ニースもいる。先輩の言葉に、少女もまったく同感だった。


「工房関係者は逮捕しろ。被験者は保護しろ。ハァ、素直に殲滅できないもんか」

 物騒な物言いに対して、ニースは工房の大扉を窺いつつ言った。

「クーン先輩。どうするにしたって、中へ踏み込まなきゃ」


「ニース、ご覧の通りよ。立てこもって大騒ぎ。何を考えていると思う?」

「残された被験者はどうでもいい、とか。騒ぎになると、関係者が逃げやすくなる」

「ふふん、きみも頭が回るときがあるじゃない」


 クーンがウィンクしてみせると、警笛を吹き鳴らして声を張り上げた。

「二番隊! 結番けつばんの二人一組で周囲の街区に散れ! この騒ぎだ。家にこもらずに、うろうろしてるやつは問答無用でしょっぴきな!」

 彼女の言葉に、そこかしこで工房を窺っていた気配がざざっと離れていった。


 うなずきながらも、ニースはぼそりと言った。

「三番隊だけで、大扉をどうにか突破なんだよね」

「また頑丈で重そうだこと」

「大砲か破城槌はじょうついでも持ってくるとか」

「どこから借りるんだい、そんなもの。騎士団か? 夜警団か?」

 クーンは、舌打ちしてみせた。


「かたや貴族派。かたや共和派。どっちにも借りは作りたくないさね。ボタンの掛け違いが起こったら、連中またぞろ内戦を始めることになるよ」

 先輩の指摘に、ニースは思わずうめいた。


 クーンが続けて言う。

「……あとは、城攻めの常套じょうとう手段しかないさね。内部から、開ける」


 ニースは目をこらして工房を見つめ、ややあって指で示した。

「――あそこからなら、もしかして」

 工房の屋根、にゅっと飛び出た煙突を指さす。ひと呼吸置いて、少女は言った。

「わたしの体格なら、入れる。たぶん」


「ばかを言っちゃだめだよ」

 クーンが握った拳で、ニースの肩を軽くこづいた。

「あんなとこ、きみぐらいしか入れない。一人で行かせられるか」

「やれる。見習いでも、銃士だもの」

 敢然と言い返した少女に、クーンは腕組みしてみせたが、

「……棟梁のやつ。この子に連装銃を持たせたあたり、予想してたね」

 組んだ腕をふくらませつつ、怒気をはらんだつぶやきが洩れる。


 彼女の腕に、そっと手を置いてニースは言った。

「だいじょうぶ。無茶はしない」


 クーンは眉をひそめたが――胴に巻いていた弾帯をニースに手渡した。

「十二発だよ。きみの手持ちと合わせて二十四発。無駄撃ちすんなよ。きみの速さに賭ける。注意をひきつけるから、その隙に開錠を頼んだ」


「まかせて、任務は忘れない」

 言いつつも、少女の顔色は少し血の気が引いて見える。

 クーンはふんと息をついて、ふところから手紙を取り出した。

「――お嬢様からだ。あんたの助けになるってさ」


 突き出されたそれを、きょとんとしながらニースは受け取った。

 結んだ麻糸を解き、紙を広げ、文字に目を通す。

 そして少女は、たまらず手紙をきゅっと抱きしめた。


(あの子、わざわざ、こんなことを……)

 胸の奥からあたたかいものがこみあげる。

 不器用なしもべをしたがえると、あるじが苦労してたまらぬ。

 そうぼやく様子が、目に浮かぶようだった。


「……え、なに。じーんとしちゃって。恋文? 恋文だったりする?」

 食い気味に聞いてくるクーンに、ニースはかぶりを振ってみせた。

「この内容、皆にも教えて。役に立つよ」


 ニースが見せた手紙を、クーンが覗き込み、納得してうなずく。

「なるほどね……しかし、あのお嬢様。励ましの一言ぐらい入れりゃいいのに」


 彼女の言葉に、ニースはふわっと笑んでみせた。

「でも、わたしが知ってる通りのスピネだよ――行ってくる」


 手紙を胸元にしまい込み、少女銃士は敬礼した。

 目の冴えるような、あざやかな所作。そうして、彼女は駆けだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。