第2話「遺跡に潜むもの」
翌朝。牧場の空が赤く染まり、森の奥から冷たい風が吹きつける。ハルトは早朝からリュカとともに遺跡の丘へ向かった。
中央魔術院の調査隊はすでに現地に到着し、遺跡の周囲に結界を張っていた。マレーナが軽く一礼して出迎える。
「おはようございます。今日からいよいよ、扉の内部に踏み込みます。ご同行いただけますか?」
ハルトは一瞬、ためらった。
(僕が行って、何ができるんだろう……でも)
リュカがきゅい、と励ますように鳴いた。
「……わかりました。行きます」
結界の中に入ると、扉は昨日とは違って、うっすらと魔力が脈打っていた。リュカを近づけると再び額の紋章が光り、扉がごごご、と音を立てて開きはじめた。
その奥には、石造りの階段が続いていた。
「これは……地下遺跡か」
マレーナが慎重に先導する。
内部は想像以上に広く、壁には古代語で何かが記されていた。隊の魔術師たちは慎重に翻訳を始める。
「“ここは命をつかさどる知識の箱”……」
ハルトはその言葉に心が引っかかった。
(命……知識の箱……?)
一行は深く潜っていく。途中、朽ちた扉や崩れかけた柱が続く中、一つだけ異様に保存状態のよい部屋にたどりついた。
その扉は透明な水晶でできており、触れると不思議な温かさを感じる。
「この先……何かいます」
シエルがハルトの肩で低くささやいた。リュカも警戒したように毛を逆立てている。
扉を開けると、中には宙に浮かぶ球体の装置があり、その中心に小さな白い生物が浮かんでいた。
「……こ、これは……」
マレーナが息をのむ。
「生体保存……いや、これは“記憶の継承体”。古代人が死後の知識を未来に託すための媒体です」
その瞬間、球体がかすかに光り、ハルトにだけ語りかける声が響いた。
『ようこそ、継承者よ。お前に託そう、この星の“命の記録”を——』
目の前に、膨大な映像と記憶の奔流が流れこんできた。
植物の育成技術、動物との意思疎通、環境を回復する魔法、そして、命を穏やかに繋ぐ術。
その全てが、ハルトの中にゆっくりと溶けていく。
(これは……牧場で、動物たちと生きるための……“夢”の答えだ)
しかし、映像の終わりに現れたのは、世界が崩れ、獣と化した人間たちが叫ぶ未来だった。
『選べ、継承者よ。この知識を使い、命を守るか、それとも——』
「ハルト!」
シエルの声で我に返った。マレーナが心配そうにハルトを見つめている。
「……大丈夫、です。ちょっと……情報が多すぎただけで」
マレーナは静かにうなずいた。
「あなたは……やはり、特別な存在です。ハルト・アマギ。私たちは、今後の行動を慎重に考えなければならない」
遺跡を後にしたその夜、ハルトは牧場のベンチに腰かけ、満天の星を見上げた。
「命の知識……動物も、人も、すべてが優しく生きられる世界……」
リュカがひざの上に飛び乗り、きゅいと甘える。
シエルもそっと寄り添い、星を見上げた。
「いよいよ、本格的に巻き込まれてきたね。でも、あんたならできる。あたし、信じてるよ」
ハルトは静かにうなずいた。




