第4章「封印の森と遺跡の扉」第1話「調査隊の到着と揺れる心」
数日後の朝。牧場の空気が一段と冷たく張りつめていた。空は曇り、遠くから羽ばたく音が近づいてくる。ハルトは鶏舎の前で作業をしていた手を止め、空を見上げた。
「来たか……」
雲の間から現れたのは、複数の飛行馬車だった。銀と青の装飾がなされ、中央魔術院の紋章がはためいている。馬車は牧場のはずれに着陸し、制服姿の魔術師たちが次々と降り立った。
その中心にいたのは、先日も訪れたマレーナだった。
「おはようございます、ハルト・アマギさん。調査隊が本日より活動を開始いたします。牧場にはなるべく影響を与えないよう努めますので、ご協力をお願いいたします」
「……わかりました」
ハルトは複雑な面持ちでうなずいた。
魔術師たちはすぐに遺跡のある丘へ向かった。そこには、地面に巨大な魔法陣の刻まれた封印扉があり、先日の微細な魔力反応の震源地でもあった。
「この扉、完全に古代式ですね。しかも、何層にも重なった封印……」
副官らしき青年がそうつぶやいた。
その横で、マレーナがリュカをちらりと見た。
「ハルトさん。この子を一度、封印扉の前に連れてきていただけますか?」
「……何か影響が?」
「何もなければ、それがいちばんです。ただ……何かが起きる可能性も否定できません」
ハルトはリュカをそっと抱き上げた。
「一緒に来てくれるか、リュカ」
「きゅい」
扉の前に立つと、リュカの額が淡く光りはじめた。
その光が封印に触れた瞬間、魔法陣がぼんやりと浮かび上がり、風が一気に強く吹きつけた。
「反応した……!」
「扉が……開くか……?」
だが、扉は完全に開くことはなかった。代わりに、扉の表面に刻まれた文様の一部が読み取れるほどに浮かび上がった。
マレーナは目を細めた。
「“選ばれし継承者よ、記憶と意思の鍵を持ちし者とともに門を開け”……これは、おそらくあなたのことです、ハルト・アマギさん」
「僕が……?」
マレーナは静かにうなずいた。
「“記憶と意思の鍵”……それはこの幻獣であり、あなたと共にあることで完全な鍵となる。遺跡の解放には、あなた自身の意思が必要だということでしょう」
ハルトはリュカを抱いたまま、扉を見つめた。
(僕が選ばれた……? この世界に来たのは、偶然じゃなかったのか)
胸の中に、静かに波紋が広がっていった。




