第5話「訪れる使者と動き出す陰謀」
数日が経ち、リュカは牧場にもすっかり慣れた様子だった。
朝は鶏たちの後ろをちょこちょことついてまわり、昼間はミントと一緒に日向ぼっこ。夜はハルトの布団のそばで、きゅいきゅいと寝息を立てる。
「……完全に馴染んでるな」
ハルトがそうつぶやくと、シエルが肩の上でくすくすと笑った。
「この子、なんか“人懐っこすぎる”って思わない? 幻獣って本来、もっと警戒心強いはずだよ?」
「確かに……でも、悪いことじゃない」
そんな穏やかな時間が続くと思われた日の午後。
牧場の門前に、一台の小型飛行馬車が降り立った。乗っていたのは、品の良いローブを纏った中年の女性だった。
「こんにちは。この牧場の管理者様にお目通りをお願いしたいのですが」
ハルトは少し緊張しながら門を開けた。
「はい。僕が管理しています。ハルト・アマギです」
「私はマレーナ。王都中央魔術院よりまいりました。少し、お話したいことがありまして……」
その名を聞いたシエルが、ハルトの耳元でささやく。
「ハルト、気をつけて。中央魔術院っていうのは、魔力に関するあらゆる研究と管理を任された……いわば国家直属の監視機関だよ」
「監視……?」
応接用の屋外テーブルに案内すると、マレーナは温かい紅茶を一口飲んでから静かに話を切り出した。
「実は……数日前、この地域において高濃度の“古代魔力”の発生が観測されましてね。その起点が、この牧場の近く——正確には、あなたの家屋から発せられたものでした」
「古代魔力……って、リュカの……?」
マレーナは頷いた。
「あなたの牧場で、何か珍しい現象や生物が観測されていませんか?」
ハルトは迷った末、正直にリュカのことを話した。
するとマレーナは、少しだけ表情を和らげた。
「なるほど。幻獣“リュリュ”種の幼体ですか……あの種が自然界に現れること自体、数十年ぶりのことです。そして、その額の魔紋。おそらくこれは“封印解放の鍵”です」
「鍵?」
「はい。古代文明が封じた“魔道具庫”や“危険な知識”の扉を開けるために創られた存在。人為的に作られた幻獣かもしれません」
ハルトはリュカをそっと抱き寄せた。
「でも、今はただの小さくて優しい生き物です」
マレーナはしばし沈黙した後、ハルトの目を見て言った。
「中央魔術院は、近日中に“遺跡調査隊”を派遣する予定です。どうか、そのときは協力を……あなたにも、そしてこの幻獣にも危害を加えるつもりはありません」
彼女が帰った後、ハルトは深くため息をついた。
「なんだか、大きな波に巻き込まれてきたな……」
シエルがぽん、とハルトの肩を叩いた。
「でも、逃げられないでしょ? あんたはもう、この世界で命を預かる側になっちゃったんだから」
リュカが膝の上で「きゅい」と鳴いた。
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