第3章「魔法の牧場と精霊のひみつ」 第1話「新しい命と、牧場の朝」
陽の光が牧場の草原を優しく照らし、朝露が宝石のように輝いていた。ハルトは早朝から牧場の見回りをしていた。鶏たちは元気に餌をついばみ、小さな魔法の石板で動く自動給餌器が規則正しく作動している。
「ふぅ……今日も順調だな」
肩にちょこんと乗っているのは、妖精のような姿をした精霊・シエル。淡い羽根を揺らしながら、にやにやと口元を緩めていた。
「ハルト、顔がゆるんでるよ。牧場バカが止まらないね」
「シエルが朝から毒舌なのも変わらないな」
「ふふっ、嬉しいでしょ?」
言葉とは裏腹に、シエルの表情はどこか柔らかかった。彼女もまた、この牧場の生活を気に入っているのだ。
その日、ハルトは新しい家畜を迎える準備をしていた。市場で出会った老いた商人が「珍しい品種の子ヤギが生まれた」と教えてくれたのだ。
「ただの子ヤギじゃないんだよ、坊や。そいつぁ、魔力を感知して“気分”によって色が変わるんだ」
興味を惹かれたハルトは、その子ヤギを引き取ることに決めた。
荷車が到着し、ふわふわした毛並みの白い子ヤギが降ろされる。まだおぼつかない足取りで、ハルトに近づいてきた。
「……なんて柔らかい目をしてるんだ」
子ヤギは、ハルトの手のひらに鼻先をすり寄せた。その瞬間、身体の毛がふわっと青緑色に変化した。
「うわっ……色が変わった!」
「ハルトの魔力に反応したんだよ」
シエルが説明する。どうやらこの子ヤギ、魔力に敏感な上、感情にも敏感らしい。名を「ミント」と名付けた。
「今日からよろしくな、ミント」
ミントは小さく鳴いた。牧場に新たな命が加わった瞬間だった。
その日の午後、ハルトはユリウスと魔道具の実験をしていた。試作したのは「魔力熱循環暖房装置」。小屋の中に均等な暖かさを維持する魔法装置で、冬に向けての準備だった。
「なかなかの安定だね。魔力の循環がよくなってる」
「でも、燃費が悪い。精霊石がすぐに消耗してしまうな」
「それは僕の研究課題さ。改良しておくよ」
2人の間にはすっかり信頼関係ができていた。
そんな時、シエルが突然、肩から飛び降りた。空中でくるりと回転しながら、ふわりと小動物の姿──リスのような姿に変身する。
「……変身、成功っと!」
「シエル! 今のって……」
「うん。あんたとの契約が強まったみたいで、新しい力を使えるようになったの」
どうやら、ハルトとの絆が深まることで、シエルの力も変化していくらしい。これから先、さらに変身先が増えていく予感がした。
「それにしても、見た目は可愛いのに口が悪いのは変わらないな」
「うっさい! ……って、やっぱりハルトのツッコミが落ち着くかも」
リスのシエルがハルトの腕に飛び乗り、頬をすり寄せる。その姿に、ユリウスも「こりゃ面白い」と笑った。
その夜、ハルトは納屋の屋根に寝転がって星を見上げていた。
「なぁ、シエル。お前はどうして俺のところに来てくれたんだ?」
「ふふ……それは、いつか話すよ。今はまだ、半分だけ秘密」
「そっか……」
星空は静かに瞬いていた。ハルトの胸には、あたたかいものが広がっていた。
精霊との絆、新しい命、そして確かに進んでいる牧場の未来──
こうして、ハルトの牧場は少しずつ、しかし確かに“魔法の牧場”として歩み始めていた。




