第5話「噂の広がりと、新たな出会い」
日差しが少しずつ夏の色を帯び始めたころ、ハルトの牧場には次々と来客が訪れていた。家畜の相談はもちろん、魔道具の噂を聞きつけた人たちも集まり、牧場は少しずつ“村の不思議スポット”としての役割を帯び始めていた。
「ねえハルト、今日も来てるよ。あの、ほら……昨日は山羊の乳搾りについて聞いてきたおじいさん」
「ああ、昨日のあの方か。今度は何だろう」
来客は子どもから老人まで様々だったが、皆が口々に「ありがとう」「助かった」と言って帰っていく。
牧場が笑顔と安心の場になっていくことに、ハルトは静かに喜びを噛みしめていた。
そんなある日、市場からの帰り道、ハルトは見知らぬ青年とすれ違った。鋭い目つきに、真新しい革の外套。明らかに村人ではない風貌だった。
「……君が、ハルトさんだね?」
「そうですが……あなたは?」
「俺はユリウス。レメル街から派遣された……まあ、観察者みたいなものだよ。最近、村で話題の“動物の言葉がわかる男”に会いに来たんだ」
「……それは、少し大げさですね」
ハルトは苦笑いを浮かべた。
ユリウスは、街の魔道具商組合に属しており、最近牧場で使われ始めた“浄化の壺”に関心を抱いているという。だがそれ以上に、ハルトという人物そのものに興味を持っているようだった。
「正直に言うとね、僕は“異邦人”の存在をずっと追ってた。あんた、こっちの人間じゃないよね?」
「……!」
その言葉に、ハルトの背筋がぞくりとする。ユリウスの目は真っ直ぐにハルトを見つめていた。
「安心して。僕も同じさ。正確には、僕は“帰還者”だけどね。元の世界に一度戻って、再びこの世界に来た」
「……そんなことができるのか?」
「簡単じゃない。でも、確かにある。こっちの世界には“鍵”が存在していて、それを巡って争いが起きたこともある」
ユリウスは、ハルトにひとつの提案をする。
「協力しないか?この村、この世界の動物たちの未来のために、魔法と科学を融合させた“新しい飼育技術”を研究しよう」
「新しい……飼育技術?」
「魔道具だけじゃない。たとえば“自動温度調整厩舎”とか、“魔力波で病気を予兆する首輪”とか。君の知識と、僕の技術を合わせればできることは多い」
ハルトはしばらく考え込んだ。前世で叶えられなかったこと。後悔の数々。その全てが、今なら形にできるかもしれない──。
「……やってみましょう。僕も、この世界で命を守る道を作りたい」
その日から、ユリウスは牧場の一角にテントを張り、仮設の研究スペースを作ることになった。
シエルはじと目でその様子を見ながら、「イケメンだけど、信用していいのかねぇ……」と呟いていた。
ハルトは空を仰いだ。雲の切れ間から、ひとすじの光が降り注いでいた。
新しい仲間、新しい目標──
牧場の未来が、静かに、しかし確かに動き出していた。




