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第9話 午後実習⑥ ダンジョンカートと武器選び

 第9話 午後実習⑥ ダンジョンカートと武器選び


 薄い霧が立ち込める廃墟遺跡の広場に足を踏み入れた瞬間、

 僕と小恋路、優斗兄さんの三人は思わず足を止めた。


 広場の中央には、五台の奇妙な乗り物が並んでいる。

 見た目はどう見てもゴルフカートなのに、どこか“生きている”ような気配が漂っている。


「……これが、ダンジョンカート?」


 小恋路が目を丸くする。

 補助指導員の人が説明してくれた。


「凄いだろ。これ全部、迷宮素材で作られた魔道機器なんだぜ。壊れると黒い砂になって崩れちまうけど、迷宮構造物扱いだから、しばらくすると勝手に元に戻るんだ。すげえ便利なんだぜ」


 他にも、メッチャ説明してくれた。

 もう、車ディーラーの販売員にでもなれる軽快な口調だ。

 一括ニコニコ現金払いでその場で買いたいくらい、気に入った!!


(……お金ないけど)


 何でも、迷宮素材だけで人間が作った魔道機器は、石碑端末を操作して登録完了すると、同じものが迷宮構造物扱いになって、以降、石碑端末に記憶される個人魔物討伐ポイントを消費して購入できるらしい。


 そんな、目の前にあるダンジョンカート、最新の索敵機能は標準装備、魔力回復バッテリー機能搭載、階層内通信機能標準装備、緊急信号機能搭載、探索映像記録機能搭載、これもう最高すぎる。


(……マジで、ダンジョンカート、便利すぎない? ……探索映像記録機能搭載。

 ここまでそろってて、最高じゃないわけがない。)


 そのダンジョンカートの後部棚には、迷宮産の木製武器がずらりと収められていた。

 剣、長剣、小剣、細剣、杖、槍、メイス、棒、斧。


「先に行った三人は?」と尋ねると、補助指導員は肩をすくめた。


「普段見掛けねえ補助指導員と一緒に魔物討伐に向かったぜ。

 合流するつもりなら、早めに武器を選んじまいな」


 このとき、三人が先に行ってしまったのは、待たせ過ぎたし仕方ないかとも思う反面、「普段見掛けねえ補助指導員」という言い方には、どこか引っ掛かるものを覚えた。


 ◆◇◆◇◆◇


 なら、さっさと武器を選ぶことになったけど、本物の武器を目の前にすると、ちょっと腰が引けた。僕は武器棚の前で腕を組む。


(……どれが僕に合うんだ?)


(商人といえば旅 → 旅といえば徒歩 → 徒歩といえば疲労 → 疲労といえば補助棒……よし、木の棒で決まり)


 槍は長すぎるし、剣は扱えそうにない。

 棒なら日本武術にもあるし、ネット動画で構えを練習するのもアリだ。


「僕は……木の棒にするよ」


 実際に手に掴むと、メッチャ軽い。

 まあ、何故そうなのか、今は深く考えないことにする。


「木の棒か……お、意外と似合ってる」と小恋路が微笑む。


(……嬉しいこというねえ。あとで卵一個あげちゃお)


 小恋路は細剣を二本選び、軽く構えてみせた。

 その姿が妙にサマになっていて、思わず見惚れる。


「あれ、どこの映画女優ですか? あれ、小恋路さんでしたか、凄い演舞に感動しました。流石ですね。では、一言コメントお願いします」と調子に乗ってレポーターを演じてみれば。


「――今宵の虎徹はよく切れる」と木の細剣をペロリとなめる小恋路さん。


 で、「以上、現場からの中継でした」と占めて、即興コント終了。


 ふふふ、と笑い合う二人。何だかいい空気。


「はいはい、じゃあ次、翔太の番ね!」


 言われるがまま棒を構えてみたが――


「構えが全然なってないぞ。へっぴり腰すぎる」と優斗兄さんに即ダメ出しされた。


「仕方ないよ。翔太、運動うんちだから」と小恋路から援護の声が上がるが、全然援護になっていない。


「そら、ちゃうやろ」とにわか関西弁で突っこむ。


 すると、小恋路もにわか関西弁で「すいまへんなあ。あんた、小さい頃よう漏らしてたから、つい、口からでてもうたわ」と返してきた。


(うわっ、やられた。完敗だ)


「……くっ、殺せ」


「あはは、ゴメンゴメンって。冗談だって。それより、その木の棒さ、ひと昔前のアニメみたいに棒が伸びる様に出来たら、戦闘の幅広がるんじゃない? 何かスキルとかでどうにか出来ないのかな?」


(そんなの、簡単にできますよ! いまやってみましょうか?)


 頭の中に直接声が響いた。


(フェア!? いや、今はやめて!! 大人しく見てていいから)


 僕の身体には、いまフェアが憑依している。

 自由にさせたら絶対ロクなことにならないので、新人研修が終わるまで大人しくしてもらっている。


 ◆◇◆◇◆◇


 ただ――


 憑依した瞬間、僕のステータスエラーが全部直ってしまった。

 原因はフェアの持つ【エラー復旧鍵Lv.MAX】によるところで間違いない。

 そして、直った瞬間、僕は固まった。


 ----------------------------------

 ■ステータス(憑依中につき能力加算・支援状態)

 ジョブ②:迷宮術師ダンジョンメイジ  Lv.1

 魔力総量:∞

 スキル:迷宮卵 Lv.1

(※その他、とんでもないので省略)

 ----------------------------------


(……これ、見たらダメなやつだ)


 化け物ステータスの総合調整をフェアがやってくれてるから、全く負担に感じないのが救いだけど、これが日常になったら、精神病むよ、確実に。


 何ごともほどほどに、ってよく言うけど、その言葉が今はやけに愛おしく思えた。

 力に溺れた人間の末路なんて、ろくなもんじゃない。そんな力、知らないままの方がきっと楽だ。


(僕は小市民……僕は英雄じゃない)


 そんな誓いを胸に、僕はそっとウインドウを閉じた。


(……全部、見なかったことにしよう)


(確か国家資格であったよね。

 ――危険物取扱者試験……今度受けなきゃいけないかも)


 ◆◇◆◇◆◇


 気を取り直して、僕はカートの方へ向き直る。


「これ……免許とか必要なんですか?」


 ハンドル部分をおそるおそるつつきながら、前から気になっていた疑問を口にする。


「迷宮内なら不要だ」と補助指導員。


 あっさり返ってきた答えに、胸の奥が一気に高鳴った。


「じゃあ、運転してみたいです! 出来ますか?」


 思わず一歩前に出てしまう。声が少しだけ上ずった。


「今日はそういうカリキュラム組んでないから駄目だ。まあ、日を改めるならやってないこともないが、まあ、新人研修が終わったら、帰りに受付嬢にでも聞いてみな」


「そうですか」


 肩を落としてしょんぼりしていると、横からくくっと笑い声がした。


「そんなに運転したいなら、俺の貸してやるよ」


 優斗兄さんが、いかにも頼れるお兄ちゃん、という顔で顎をしゃくる。


「えっ、ほんとに――」


 探索者カードを取り出し、

 優斗兄さんがウインドウを眺め、探索者コードを打ち込み操作すると――


 地面が脈打つように盛り上がり、白い砂が渦を巻いて形を成し、ダンジョンカートが姿を現した。


「うわぁ……!」


 思わず一歩下がって見上げる。さっきまで何もなかった場所に、ピカピカのマシンが鎮座している光景は、何度見てもテンションが上がる。


 カートに乗り込む前に、頭の片隅で「三人と合流しなきゃ」と小さな警報が鳴ったけれど、初運転の誘惑には勝てなかった。


 まずは優斗兄さんが運転し、僕が助手席で操作方法を見て学ぶ。

 ハンドルの切り方、アクセルとブレーキの感覚、魔力メーターの見方。隣でかみ砕いて説明してくれる声が、やけに頼もしい。


 ひと通り説明を聞いたあと、次は僕が運転してみた。


(楽しい。めっちゃ楽しい!!)


 ハンドルを握った瞬間から、頬がゆるみっぱなしになる。

 僕がちょっとペダルを踏み込むだけで、カートが素直に前へ進んでくれる。この感覚は、自転車とも全然違う。


 初めての自動車運転は、テンション爆上がりだった。


「わたしも運転してみたい!」


 後部座席から身を乗り出した小恋路の目が、キラキラと輝いている。


 僕の袖をクイッと引っ張って、可愛くせがむ様子に、メロメロ、ドキュン!! とハートを撃ち抜かれた。

 もう、これだけで卵かけご飯、5杯はいけるかも。


 というわけで、座席変更。

 次は、小恋路が運転席、僕が助手席、優斗兄さんが後部座席。


 カートはゆっくりと遺跡の通路を進む。

 時間を忘れるくらい、三人でひたすら迷宮内を走り回った。

 本当は、忘れちゃいけないことがあったはずなのに。


「もう、最高ー、たっのしーい」


 小恋路がハンドルを握りながら、子どもみたいに声を上げる。


「風、気持ちいいし、いいね。この感じ」


 ダンジョンのひんやりした空気が、顔の横をすべっていく。

 遺跡の迷路をゆっくり走ってるだけなんだけど、アドベンチャーワールドに迷い込んだみたいで、スリル満点。爽快感がたまらない。


 と、そこへ後部座席から優斗兄さんが、呆れ果てた表情で口を開く。


「なあ……お前ら、何か忘れてないか?」


 優斗兄さんの呆れ声で、僕たちはハッと我に返った。


「あっ」「やばっ」


(そうそう……三人と合流するんだった!!)


(でも待てよ。今何時? ありゃりゃ、結構な時間、経ってるし)


 胸の奥が、さあっと冷える。

 これはもう、どこに行ったのか分からないんじゃ――と、嫌な予感が顔を出しかけた、そのとき。


(翔太様、三人の特徴をイメージしてくれたら、すぐ見つけられますよ)


 僕の頭の中に、フェアの念話が届いた。


 僕が三人の姿形を頭の中に思い浮かべると――


(はい、じゃあ、この集団かな?

 あれれ……翔太様、その三人、ちょっと危ない状況かもです。

 ……助けた方がいいですか?)


「えっ、どういう状況?」


 思わず声に出して問いかけた次の瞬間、

 頭の中に“俯瞰視点の映像”が、冷たい水を流し込まれたみたいに一気に流れ込んできた。


 ◆◇◆◇◆◇


 そこには――


 冒険者パーティ五人が、

 上杉・武田・マリアの三人を取り囲む光景が映っていた。


 倒れた武田。

 その前に立ちはだかる上杉。

 必死に光魔法で武田を看病するマリア。


 そして、ケラケラ笑う指導員。

 佐々木勝正と、その取り巻き三人。


(……何やってんだよ、元生徒会役員……!!)


 僕の表情の変化に気づいた小恋路が心配そうに覗き込む。


「翔太、どうしたの?」


「三人が……襲われてる」


 優斗兄さんの顔が険しくなる。


「急ぐぞ! 小恋路、席を変われ」


「うん、わかった」


 次の瞬間――

 僕の身体から、ふわりとフェアが抜け出した。

 と思いきや、そのまま僕の左腕にがっちりとしがみ付く。

 いやこれ、メッチャ愛らしい。そしてちょっとふくれっ面になる小恋路。


「……翔太様~。三人を助けたいなら、わたし、ぱぱっと片づけちゃいますけど、いいですかぁ?」


「ま、待て。できるのか?」と優斗兄さん。


「はい、簡単ですよ~。じゃあ、三人以外は消しちゃいますね」


 フェアはにこっと笑った。

 その笑顔が、逆に背筋を冷やした。


「ちょっと待った!! ステイステイ!!」


(やばすぎる。この子、無邪気な顔してメッチャ危ない……!!)


 -----------------------------------------

 迷宮術師ダンジョンメイジ 

 ダンジョンに直接干渉できる職業。


 迷宮卵

 ダンジョンそのものを生み出す卵。プライベートダンジョン・一般ダンジョン・ダンジョン核と合成してダンジョン乗っ取りにも利用可能。レベルが上がれば、意思をもつ。属性に寄せた色の卵になる。怒ったりすると卵の殻に血管が浮き出る。最初から目が一個、口が一個ついている。



 応援よろしくお願いします!


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「この後一体どうなるのっ……!?」


 と思ったら


 下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。

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