第8話 午後実習⑤ 妖精登場
第8話 午後実習⑤ 妖精登場
「……主候補様。
契約を……引き継ぐために……まず……わたしに“名”を与えてください……
ずっと、その時を待っていました……」
妖精が僕の右手の上に降り立ち、
まっすぐに僕を見上げてくる。
「……名を与えるって……どういうこと?
僕の認識だと、名付けすることで……その迷宮術師と眷属の主従契約が結ばれるってことでいいかな?」
「はい、その認識で正しいです」
(そっか、契約してしまえば、時間のある時にでも色々尋ねることできるし……時間も押してるし、みんな待ってるだろうから、やっちゃうか!!)
「じゃあ、分かった。君の名前はねえ――」
その瞬間――
「……待て、翔太」
優斗兄さんが、霧の中で低く唸った。
「お前……その妖精と“目を合わせる”とか、危機感がなさすぎるぞ。
契約前の魔物系眷属は、視線を合わせるだけで“主認定”される場合がある。
不用意に距離を詰めるな。
最悪、脳に魔力が逆流して死ぬぞ」
「えっ……!? そ、そんな危険なの……?」
僕がビビって手を引っ込めようとすると――
妖精が慌てて僕の指をぎゅっと掴んだ。
「だ、大丈夫です主候補様!
わたしはそんな粗悪な眷属ではありません!
むしろ、主候補様の脳は……とても柔らかそうで……」
「柔らかそうって何!? 褒めてるの!? 怖いんだけど!?」
優斗兄さんは剣に手をかけたまま、さらに一歩前へ出る。
「――翔太。
その妖精、今ちょっと危ないこと言ったぞ。
脳を狙うタイプの眷属は、国家レベルで危険指定されてる。
もしお前に何かあったら……」
ギラリ、と目が光る。
「小恋路が泣くだろうが」
突然ふられた小恋路は戸惑いながらも、素直に答えた。
「えっ……あ、うん……泣くけど……」
(そこ!? 僕の命より小恋路の涙が優先!?)
優斗兄さんはさらに続ける。
「それに……妹に近づく男が“脳を吸われて死にました”なんて、
俺の評判に傷がつく」
「兄さんの評判!? そこ!? そこなの!?」
小恋路がジト目で兄を睨む。
「兄さん……翔太の心配より自分の評判の心配してない?」
「当然だ。妹の彼氏候補が死んだら、兄としての管理責任が問われる」
「管理って言った!? 今、管理って言ったよね!?」
僕がツッコむより早く、
小恋路がぷくっと頬を膨らませた。
「……翔太は、わたしが守るの。
兄さんは黙ってて」
「おい小恋路。
お前、さっきまで俺の後ろに隠れてただろうが」
「い、今は違うもん!
翔太に変な眷属がくっついてるから……
……なんか……ムカつく……」
(え、嫉妬!? 今の嫉妬!?)
妖精がぱちぱちと瞬きをして、小恋路を見つめた。
「……主候補様の……伴侶候補様……?」
「ば、伴侶!? 違うから!!」
小恋路の顔が真っ赤になる。
優斗兄さんは剣を抜きかけた。
「おい、妖精。
妹を勝手に“伴侶候補”扱いするな。
翔太が死んだら困るが、
妹が変な契約に巻き込まれたら、もっと困る」
「兄さん!! 翔太は死なないし、変な契約もしない!!」
「いや、今の状況は十分“変な契約”だろ」
(……確かに……)
妖精はそんな三人のやり取りを見て、小さく肩を震わせながら言った。
「……主候補様。
皆さまが騒いでおりますが……
そろそろ、わたしに“名”を与えてくださいませんか……」
(……あ、完全に焦れてる……)
小恋路と優斗兄さんの口論で、気づけばかなり時間を使ってしまっていた。
僕は深呼吸し、妖精を見つめた。
透明な羽。小さな身体。無邪気で、でもどこか寂しげな瞳。
(……よし。決めよう)
「――フェア。
君の名前は、フェアだ」
(本当は“タマ”にしたかったけど……あの顔は無理だ。
フェアで良かった。意味も中立的なイメージで綺麗だし)
妖精は一瞬だけ目を見開き、
次の瞬間、涙の跡を残したまま、ゆっくりと微笑んだ。
「……フェア……
はい……!
わたし……フェアです……!」
光の糸が胸の奥に吸い込まれ、心臓が一度だけ強く脈打った。
僕とフェアの間に“魔力の糸”が繋がった。
『妖精王女フェアを眷属に加えました』
頭の中に直接アナウンス音が響き、胸の奥がじんわりと温かくなる。
フェアは僕の前にふわりと浮かび、深く頭を下げた。
「……これで……わたしは……フェアは、主様の眷属として忠誠を――」
(あ、“主候補様”から“主様”に変わった……契約が成立したからか)
「待って」
僕は慌てて手を振った。
「いきなり“忠誠”とかじゃなくて……
まずは“友達”からでいいよ」
フェアはぱちぱちと瞬きをし、
小さく首を傾げた。
「……とも……だち……?」
「うん。対等で、一緒にいて……頼ったり、頼られたりして……そういう関係のことだよ」
フェアは、理解できない言葉を聞いた子どものように、
小さく首を傾げた。
「……“眷属”ではなく……“友達”……?」
「そう。僕は、君を……ただの眷属としてじゃなくて……友達として見たいんだ」
フェアは胸に手を当て、震える声で言った。
「……フェア……その言葉……初めて聞きました……」
「“友達”……それは……千年無休の労働者と、永劫奉仕の眷属階級、どっちが偉いですか……もしかして、主様の副官的地位……上位の……完全下僕忠誠形態……ですか……?」
その言葉を口にだしてると、何だか様子が可笑しくなり始め、遂にはフェアの全身から汗が出て震えだす。
「違う違う違う!」
僕は全力で否定した。
「忠誠とかじゃなくて! ブラック労働者でもなくって、もっと……こう……柔らかくて、自由気ままな関係!」
「えーっと……自由ってなんですか?」
愕然とした。だけど、冷静に考えると十分納得できる。
何せ、これまで生きてきた世界が全く違うから。
小恋路が苦笑しながら言う。
「フェアちゃん……
友達っていうのはね、“命令”じゃなくて“気持ち”で繋がる関係なんだよ」
フェアは、ぽたりと涙を落とした。
「……そんな……関係……わたし……一度も……」
優斗兄さんは腕を組み、
ため息をつきながらも言った。
「……まあ、こいつの“友達になりたい”ってのは本気だ。
命令よりは安全だろう」
フェアは、震える声で僕に尋ねた。
「……では……わたしは……ファアは、主様の“友達”になっても……いいのですか……?」
僕は迷わず頷いた。
「もちろんだよ。
これからよろしく……フェア。 僕のことは翔太と呼んでね」
その瞬間、僕とフェアの間にあった、結ばれた魔力の糸は、強くて硬い魔力の絆としてお互いの心を絡め合うように、成長を続けていった。
「はい、翔太様」
(”様”はつくのね。ま、おいおい変えてけばいいか)
胸の奥がじんわり熱くなった。
ああ、僕は今、新しい友達の“心”と“僕の心”を通わせたんだ。
これが、眷属との絆か。
これ、案外、悪くないね、と思った。
だけど、この後、直ぐに訂正したい気分に駆られることになった。
(もしかしなくとも、これ、モノの見事に、外見詐欺にひっかかったかもしれない)
先代の迷宮術師の策略に嵌ったといっても過言じゃなかった。
簡単にその策略に嵌った自分に頭を抱える。
見事、僕と眷属契約を結ぶことに成功した妖精は、満面の笑みを浮かべていた。
◆◇◆◇◆◇
※佐々木 勝正視点
息を切らす声とともに、スピーカー越しに『紅蓮の炎』の斥候の報告が淡々と続いていた。
最後に、その内容をまとめて、『紅蓮の炎』のリーダー、紅蓮寺炎真が俺に告げる。
「――以上が、朝倉 翔太と、その眷属妖精の現時点での分析です」
本来なら、午前に続いて午後もパワーレベリングの予定だった。だが俺たちは、「『紅蓮の炎』と合流し、A級探索者パーティとパワーレベリングする」とギルドに報告し、すでに承諾を取ってある。
俺はスマホを握る手に、ぎゅっと力を込めた。
(庶民のくせに、俺の前に立つ?
ふざけるな。支配する側は俺だ)
さっきまで自分が怒鳴り散らしていた声を思い出し、奥歯がきしむ。
『まずは、どうかご冷静に、佐々木坊ちゃん。
うちの斥候担当からの報告では、朝倉 翔太という少年は“ただの庶民と断じきれない存在”です。
上に立つお立場の方こそ、感情ではなく情報に基づいて判断していただきたい。
いまこちらは、その判断材料を集め終えたところです。
一度、深呼吸をなさってからお考えいただけますか』
炎真の柔らかい説教じみた声が、耳の奥に残っている。
(……分かっている。
ここであいつを利用して、八神家とのパイプを作るのが“最善の一手”だってことくらい、俺にも分かっている)
俺は、息を吐き出した。
成績はずっと上位。スポーツもそれなりにできる。
庶民が恋愛だの娯楽だのに時間を溶かしているあいだ、“支配する側”の人間として、我慢と忍耐を強いられてきた。
(なのに俺は、三男だってだけで、家では“役に立たない”扱いだ)
祖父の顔が、脳裏に浮かぶ。
佐々木製薬の会長。俺に唯一手を差し伸べた「お爺様」。
『八神家と繋がりを持て。勝正、お前は八神の娘と仲良くしておけ』
それだけが、自分に与えられた、家の中での“役目”だった。
(八神家の娘は、俺の“役目”だ。
庶民風情に奪われてたまるか)
スマホの画面に、昼間の光景がよみがえる。
一般コースの安物研修。
制服のジャケットをだらしなく着た庶民のガキが、八神 小恋路と並んで歩き、こちらを笑った瞬間。
喉がまた焼けるように熱くなる。
初ダンジョンで得たジョブ。《支配騎士》。
《支配剣術》。《支配の魔眼》。
取り巻きの高飛車女、氷川 麗香に“魔眼”を試したときの感覚を、俺は忘れていない。
目を合わせた瞬間、あれほど口うるさかった女が、何の疑いもなく俺の言葉を飲み込んだ。
(やっぱりそうだ。支配する側に立つのは、最初から俺のはずだった)
その「はず」だった世界を、あの庶民が乱している。
炎真の報告が頭の中で再生される。
庶民のガキが、ジョブスロット二つ持ち。
迷宮核の欠片由来の眷属妖精。
魔神級の威圧と念話。
“主候補様を害する者は処理する”。
(ジョブ名もレベルも、スキルも魔力量も、全部エラー?
そんなもの、一度も“与えられた”ことなんてない)
スマホを握る指先に、じわ、と力がこもった。
(……何で、俺がこんな立場を甘んじなければいけない)
論理では分かっている。
あの庶民を利用するのが最善。八神家とのパイプを作れば、お爺様にも家にも顔向けできる。
だが感情が、まるで追いつかない。
(庶民のくせに。
一般コースの安物研修しか受けられないくせに。
俺を笑い者にしたくせに)
『ただの庶民じゃない』
炎真はそう報告してきた。
俺は、そこに勝手な尾ひれをつける。
(――ただの庶民ではないが、しょせんは庶民。
“支配される側”だってことには、変わりない)
だったら、話は簡単だ。
(庶民のガキ一人と、その取り巻き。
その程度の“異物”は、盤上から取り除けばいい)
人生というボードゲームで、役に立たない駒や、盤面を乱す駒は切り捨てる。
それが、これまで佐々木家がしてきたことだ。
(敵に回せば、最悪クラス。
だからこそ、まだ芽のうちに潰す)
俺はスマホを取り出し、連絡先を一つ選んだ。
「……例の指導員に繋げ」
ワンタップで通話がつながる。
『はい、佐々木様。計画はどうされますか?』
「続行だ。上杉・武田・京極を指定ポイントへ誘導しろ。
“新人同士の模擬戦”でも何でもいい。瀕死一歩手前まで、徹底的にやれ。そいつら三人は人質の道具をして使う」
『了解しました』
通話が切れた瞬間、俺の口元がわずかに歪んだ。
(最初に痛めつけ、意識を失った三人の身柄を抑える。
あとは“紅蓮の炎”を駒として使えばいい)
霧の漂う遺跡廃墟の椅子に腰を下ろし、俺はもう一度、思考の海に潜った。
(庶民の身柄さえ押さえてしまえば、妖精も大きくは動けまい。
そこで俺が《支配》を通せば勝ち。通らなくても、“異常な庶民”を処理した実績だけは残る)
(庶民一人相手に、わざわざAランクパーティをぶつけるのはやり過ぎかもしれない。
だが、迷宮核由来の妖精が絡む“例外ケース”なら、家もギルドも文句は言わない)
それはきっと、形に残る“実績”になる。
(お爺様。
俺は、八神家と繋がりを持とうとしている。
異常な庶民を処理して、この盤面を整えるつもりだ)
そう言い訳しながら、胸の奥で別の声が笑った。
(違う。
本当はただ――気に入らないだけだ)
庶民のくせに。
一般コースしか受けられないくせに。
俺を笑い者にしたくせに。
(あんなものが、“主候補様”であるはずがない)
視界の端で、『支配の魔眼』のステータスが、静かに光っていた。
(最善の一手は、もう打った。
あとは、駒が盤上に揃うのを待つだけだ)
ふと視界が揺れ、俺の瞳がわずかに赤く光った。
ほんの一瞬、視界の端が歪んだ。
魔眼が、勝手に“獲物”を探しているようだった。
だが俺は、その異常を異常だとは思わなかった。
“支配する側”なら当然の反応だと、どこかで決めつけていた。
そして――『支配の魔眼』
その本当の恐ろしさを知るのは、まだ先のことだった。
-----------設定メモ--------------
■ステータス
名前:フェア(1612歳)
種族:妖精王侯貴族
属性:【妖精】【風】【水】【花】【草】【樹】【光】【闇】【神聖】
【命】【霊】【幻】【魅】【死】【時】
ジョブ①:妖精王女 Lv.254
ジョブ②:ワーカーホリックの申し子 Lv.365
ジョブ③:第4迷宮神・第一近衛軍団・副団長 Lv.521
ジョブ④:翔太の眷属Lv.1
生命力:367800
魔力総量:880000
基礎体力:62000
基礎魔力:99000
筋力:45000
器用:54500
敏捷:120000
運:1550
SP:(parameter):50000 SP:(job):5000 SP:(skill):5000
スキル:憑依 Lv.MAX/複製体 Lv.MAX/複製体 Lv.MAX/不眠不休 Lv.MAX/複製体制御 Lv.MAX/複製体制御 Lv.MAX/精神超越 Lv.MAX/魂魄再生 Lv.MAX/真幻影体 Lv.MAX/並列思考 Lv.MAX/高速思考 Lv.MAX/瞬間転移 Lv.MAX/次元収納 Lv.MAX/迷宮言語 Lv.MAX/心話通信 Lv.MAX/神速回避 Lv.MAX/神速飛行 Lv.MAX/妖精眼 Lv.MAX/瞬間再生 Lv.MAX/瞬間魔術発動 Lv.MAX/魔術詠唱破棄 Lv.MAX/自動生命力回復 Lv.MAX/自動魔力回復 Lv.MAX/アバター化 Lv.MAX/擬態 Lv.MAX/完全隠蔽 Lv.MAX/完全偽装 Lv.MAX/看破遮断 Lv.MAX/瞬間魔術発動 Lv.MAX/スキル一時覚醒 Lv.MAX/スキル融合 Lv.MAX/魔術範囲強化 Lv.MAX/気配遮断 Lv.MAX/感知妨害 Lv.MAX/神速飛行 Lv.MAX/希薄化 Lv.MAX/透明化 Lv.84/幻影体 Lv.MAX/連携 Lv.MAX/妖精の蜜 Lv.65/料理 Lv.55/統率 Lv.MAX/指揮 Lv.MAX/身体覚醒 Lv.MAX/魔力覚醒 Lv.MAX/真限界突破 Lv.MAX/士気高揚 Lv.90/直感 Lv.MAX/高速念動 Lv.MAX/念話 Lv.MAX/真結界 Lv.MAX/聴覚強化 Lv.MAX/看破 Lv.MAX/手加減 Lv.MAX/真操糸 Lv.MAX/魔糸生成 Lv.MAX/物理障壁 Lv.MAX/魔力障壁 Lv.MAX/精神障壁 Lv.MAX/魔術障壁 Lv.MAX/スキル遮断 Lv.MAX/魔力放出 Lv.92/魔力操作 Lv.MAX/魔力操作 Lv.MAX/魔力感知 Lv.MAX/魔力吸収 Lv.MAX/生命吸収 Lv.MAX/生命感知 Lv.97/威圧 Lv.MAX/状態異常無効 Lv.MAX/妖精軍進軍 Lv.66 眷属召喚 Lv.66/妖精の友 Lv.MAX/聖鱗粉 Lv.MAX/昆虫支配 Lv.MAX/魅了鱗粉 Lv.MAX/死の鱗粉 Lv.MAX/解毒鱗粉 Lv.MAX/栽培 Lv.MAX/気流操作 Lv.MAX/強奪防御 Lv.MAX/同スキル複数所持 Lv.63/取得SP10倍/ジョブ取得経験値10倍/ジョブLv限界突破 Ⅴ/スキルLv限界突破 Ⅴ/迷宮言語プログラム Lv.MAX/エラー復旧鍵 Lv.MAX
魔術:妖精魔術 Lv.MAX/風魔術 Lv.92/水魔術 Lv.94/花魔術 Lv.90/草魔術 Lv.91/樹木魔術 Lv.90/光闇魔術 Lv.85/死霊魔術 Lv.91/聖命魔術 Lv.94/神聖魔術 Lv.82/治療魔術 Lv.97/幻影魔術 Lv.92/魅了魔術 Lv.97/浄化魔術 Lv.96/召喚魔術 Lv.98/刻印魔術 Lv.88/生活魔術 Lv.MAX/契約魔術 Lv.92/補助魔術 Lv.90/合成魔術 Lv.91/次元魔術 Lv.71/天空魔術 Lv.MAX
応援よろしくお願いします!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




