表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卵売りの迷宮術師 規格外ジョブで神々の盤上をひっくり返します  作者: 黒いきつね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/44

第41話 フェアの洗脳実験と、ギルド激詰めフラグ 

 続くボス戦。


 地上の戦闘は、こちらが投入した大量のテイム魔物のおかげで、戦況はすでに圧倒的優勢へと傾いていた。


 今は武田がテイム魔物たちにあれこれ指示を出し、半ば遊びのように戦場をもてあそんでいるところだ。


「よし。次は風の陣だ」


 指揮の号令と同時に、テイム魔物の軍勢が一斉に動きを変える。


 これは、味方魔物に直接、命令のイメージを送り込む──武田アバターのスキル『指揮』が発動している証拠だ。


 岩ゴーレムは、巨大な両腕を交互にぎ払う攻撃へとシフトし、リザードドラゴンは、質量任せの尾を大きく左右に振りかぶる。


 攻撃のたびに、馬鹿げた衝撃をもろに受けた量産型クレイマン佐々木が高く宙を舞い、次の瞬間には黒い流砂となって消滅していく。


 木製人馬兵部隊は、陣形を組み直して突撃を繰り返す。


 ウッドガーゴイル部隊は、目標を定めた瞬間、空中からの急降下突撃を次々と叩き込んでいく。


 そして、小恋路本人はと言うと、小恋路アバターの両胸の膨らみをガッチリホールドした、魔力モバイルバッテリー翔太アバターがONになっている状況を踏まえて、魔法使いたい放題の恩恵をフル活用している。


「小さき雷よ、契約の印に従い集え。

 数を成して降り注げ。無数の標的の意識を白く焼き消せ。

 ――落雷連弾ライトニング・ストームショット!」


 ゲームコントローラーから、小恋路アバターの呪文詠唱音声が流れた直後に、雷魔法が炸裂した。


 ゲーム画面の向こうでは、次々と天井から雷の細い線が降り注ぐ。


 常に五本から七本ほどの雷が落ち、ドン、ドン、ドンという炸裂音が鳴り響く。


 その音は、コントローラーのスピーカーと、壁際のダンジョンWi-Fiルーター上のワイドウィンドウの両方から重なって届き、リビングルームの空気を震わせる。


 また、身体に直接響く強いコントローラー振動がゲームの臨場感を底上げしていた。


 そのゲーム画面に視点を合わせながら、僕は感じたことを口にする。


「うわー、凄い雷の嵐だね。これ初級魔法じゃないでしょ」


 すると、向かい合わせに座る小恋路が重心を預け、頭同士がコツンと当たる。

 そのあとで、僕の問いへの返事が返ってきた。


「うん。当たり。ようやく雷魔法スキルのレベルが上がって、中級魔法が使えるようになったわ。これで、経験値集めが捗るかもね」


「やったじゃん」


「うふふ。でもね、この魔法は本来、もう少し規模も攻撃力も小さい“集団麻痺付与”が主軸の魔法なの。翔太のバフ卵の影響で、一発で敵を刈り取れてるだけなんだよね。そういうわけで、翔太様様ってわけ!」


「じゃあ、経験値集めする時は、バフ卵と翔太アバターとの合体は必須ってことか。だったらさ、他の合体バリエーションも、もっと増やさないとね」


「やめてよね。モバイルバッテリー彼氏は、バッテリー機器らしくおとなしくしてること。あんまりエロいポーズ求めるようなら、馬の背でわたしと二人乗りしてる翔太のアバター、人馬からポイってふるい落としちゃうから」


「アイアイサー」


 フェアの口癖がついつい自然に自分の口から洩れてしまった。


 こうして人は、いつの間にか口癖まで侵食されていくのだろう、と。

 ちょっとした洗脳実験を体験している気分になった。


 そこへ水を差すのが、僕の身体の中に居座り続け、今も過重労働に苦しむフェア複製体たちにさまざまな指令を出しているフェア本体だった。


(心外ですぅ。フェアは翔太様の友達眷属ですから、そんなことしませんよ~)


(は~、そうだったらいいな~)


 ともあれ、有象無象の量産型クレイマン佐々木たちが、まるでゴミのように処理されていく様子がゲーム画面に映し出される。


 砕け、舞い、黒い流砂となって消えるだけの敵。


 ここまで来ると、もはや戦場というより掃き掃除だ。


「ねえ、ちい兄、わたしのほうも少しは援護してよ」


 翔兄呼びからチート兄をモジった、ちい兄呼びに変わった美穂から援護要請が飛び込んでくる。


「いいけど、ちょっと待って」


 ゲームアバター視点からジェミホスに視線を向けると、僕のアバター周りの状況が把握しづらくなる。


 そう考えた僕は、ソファから視線を外し、壁際の宙に投影されたワイドウィンドウに目を向けた。


 すると、これまでは上空からの神視点だった映像が、空中戦を続ける天人馬ジェミホスの視点へと切り替わる。


「うわ、スゴッ。思ったことをすぐに汲んで画面が切り替わるなんて、超未来ゲームみたい……」


 そんな驚きの独り言に、逐一、反応してくれるのが、僕の身体を住居とした引き籠り妖精フェアさんだった。


(えへへ、どうですかぁ? すごいでしょ~。これ、ダンジョンWi-Fiルーターがプレイヤーの思考を感知する仕組みですね~)


 ワイドウィンドウの画面へと視線を移すと、そこには、宙を駆ける天人馬ジェミホスとボス敵・白き流星の佐々木の空中攻防戦が、実写映画並みの迫力ある映像として映し出されていた。


 互いに天使羽根爆矢ホーミングエンジェルフェザーをばらまき続ける空中戦は、いまだ衰えていないようだ。


 白き流星の佐々木は、羽根矢に被弾すると、一瞬だけホログラムのような透明化が停止する。それでも、ワイドウィンドウ上部に映るボス敵HPは、一割も減っていなかった。


 六枚の翼を羽ばたかせ、物凄い速さで宙を飛び回っているうちに、HPはあっさり回復してしまう。


 その後は、十秒も経たずに透明化が直り、また隠れられる状況が続いていた。


 一方のジェミホスも被弾しているが、大天使の『再生』スキルがあるので、こちらもまだまだ問題はなさそう。


 しかし、互いに攻撃の決め手になる技がないせいで、完全に千日手状態だ。


「それじゃあ、ボス敵捕まえるから、あとヨロシクってことでいい?」


「え、ちい兄。できるの?」


「多分できると思うけど、まあ、みてなって。じゃあいくよ、玉ちゃん、召喚!!」


 僕はプライベートダンジョン用に生成した『迷宮卵』、玉ちゃん十一号を召喚した。


「翔太ちゃまの眷属卵、玉ちゃん参上でちゅ!!」


 地上を駆ける人馬兵の背に跨る僕のアバターの横に召喚したのは、アバターの拳二つ分ほどの大きさの緑色の卵だった。


「えっ、卵がしゃべった」


「美穂ちゃん、俺とおんなじ感想だったな」


 というのは、昨日一足先に体験した武田だった。


「そうね。でも驚く要素はまだあるのよ。この卵、百面相のスキルも持ってて、結構、芸達者なのよ。今度お願いしてみたら」


 小恋路が武田に向かって玉ちゃん情報を打ち明けた。まあ、今更か。ゲームスキルは自分自身のスキルを元にしてるんだし。


「翔太の卵生成スキルは、もう何でもアリだな」


 武田は、またもや呆れ果てた顔をして、投げやりな答えを返す。


「そういうこと!!」


 小恋路は、短く同意を示した。


 そんな玉ちゃん十一号は、目ん玉一つと口一つのキモカワな見た目で、迷宮術師のマスコットキャラという立ち位置をまだ維持していた。


 僕は、迷宮術師の端末機能をも兼ね備える玉ちゃん十一号に、ボス敵の最も厄介な能力を剥ぎ取る命令を下す。


(じゃあ、玉ちゃん、ボス敵の翼、封印しちゃって)


 僕の身体に憑依してるフェアさん由来のスキル『念話通信』を使ってみた。

 これで、僕が何をしたのか、美穂には見分けがつかないと思う。


 これまでは、素早く空中を駆け巡り、地上からは攻撃できなかったボス敵。

 だったら、まずは地上に落としてしまえという、極めて単純な戦術を行使すればいいだけのこと。


 玉ちゃん十一号からの短い念話が頭の中に流れ込む。


(アイアイサーでちゅ!!)


 元々、ゲームの形を取っているが、この洞窟型プライベートダンジョンは『迷宮卵』玉ちゃん三号が『迷宮核』となって、完全支配下にあるダンジョンだ。


 迷宮卵同士は思念リンクで結びついているから、玉ちゃん十一号を通じて玉ちゃん三号に命令すれば、しっかり仕事を果たしてくれる。


 今回は、敵ボスの翼を使えなくして、あとは、みんなでボコって終了って感じでいこう。


 さっそく、翼を封印され、空中移動手段を失った白き流星の佐々木は、空中から地上に真っ逆さま。


 続いて、ドッカーンという大きな衝撃音が、スピーカーとコントローラーの振動となってリビングルームを揺さぶる。


「え、何したの?」


「ひ・み・つ。あともう一つだけ、援護しとくよ」


 探索者にとっては、『ジョブ』『スキル』『魔法』は生命線なのは当然のこと。


 ましてや、サイコ妖精フェアと言う特大難問を抱えていて、それを父さん母さんにもまだ秘密にしてるから、美穂にも言えることと言えないことの区別をしておく必要がある。


 僕のアバターの側に卵BOXの黒い穴を出現させ、そこから一つの卵を取り出した。


 この卵は、さっきクエスト報酬で貰ったばかりのレアアイテムが内包された卵。


「――卵開放」


 そう口にすると、ゲームの中の卵が魔素粒子化し、一本の錫杖のかたちを形作っていく。瞬く間に、宙に浮かんだ錫杖を、僕のアバターがキャッチする。


 錫杖の名前は、『昆布こんぶ錫杖しゃくじょう』――正式名称:大日昆布如来だいにちこんぶにょらいの錫杖というレア武器だ。


 錫杖を振るたびに心地よい音色が響き渡る。


 シャリン、シャリン、シャリン、シャリン


 破邪の音色を重ねるほどに、地面から胞子が芽吹き、ウニュウニュと伸び上がって昆布が生えてくる。


「ねえ、翔太。これ人馬兵たちの機動力も低下するんだけど……」


「ああ、ごめん。この戦場だけどさ。錫杖の特殊攻撃――昆布締め攻撃の対象にしたら、討伐するの簡単かなと思って。初めての戦闘使用だし、少しだけ使い勝手を試させてよ」


 小恋路からの苦情が入ったけど、言い訳を並べて続行する。


「いいけど。立ち止まってたら、天井からのツララ攻撃来るから、その対処もヨロシクね」


「了解」


 そして、フェア憑依時に使える共有スキル『念話通信』を通じて玉ちゃん十一号に追加オーダーをお願いする。


(天井から鍾乳ツララが落ちないように、ギミック機能停止しといて)

(アイアイサーでちゅ)


 ダンジョン内の現状変化は、迷宮術師の得意分野だし、そもそもこのダンジョンは僕の支配下だから、何でもやりたい放題だけど、やり過ぎには注意したほうがいい。


 みんなの僕を見る目が変わらないくらいのところで抑えておくのを、理想ラインにしよう。


 ここ二日のゲームテストプレイを通して、武田のトラウマは解消したから、次は苦手意識が芽生えないうちに、佐々木対策を完了させられれば、今日のミッションは終了で問題ない。


 シャリン、シャリン、シャリン、シャリン


 ボス敵の対戦フロアからは昆布があちこちで生え、次々に現れる量産型クレイマン佐々木に昆布締め攻撃が効力を発揮していく。


 ボス敵である白き流星の佐々木も、昆布巻きからの昆布締め攻撃の拘束に逆らえなかったようだ。


 なにやら「庶民に負けて堪るか」とか「佐々木製薬は永遠に不滅だ」などと訳の分からん文句をがなり立てているようだが、聞くだけ時間の無駄だ。


「これくらいでいいっしょ。新之助、小恋路、美穂、あとは任せた、やっちゃって」


 そう言葉を掛けたとき――


 白き流星の佐々木の両目が烈しく赤く光った。



 ◆◇◆◇◆◇



 目が合った。


「愚か者が。庶民ごときに、俺が屈するとでも思ったか」


 白き流星の佐々木の声がスピーカー越しに届くと、高い周波数の耳鳴りが始まる。


 一瞬、心臓を鷲掴みされるような感覚を覚える。


 ズキンと、一瞬、頭痛程度の痛みが走る。


 ヤバッ――


 一瞬のことだったので、油断した。


『白き流星の佐々木の支配眼をレジストしました』


 頭の中をアナウンスが駆け巡る。


 普通に耐性レジスト出来たことにホッと息を飲む。


 これは、精神耐性系スキルの抵抗力が高く、フェアさんの特訓成果が出たと考えたほうが自然だと思う。


「いったー! なにこれっ、頭ガンガンする」


 背後の小恋路から声が届くが、無事のようだ。


「小恋路、大丈夫?」


「痛かったー。もうさ、ゲームがリアルに影響するとか、聞いてないんですけど……」


 ゲームの世界では、盤面が引っ繰り返ったように、武田アバターとジェミホスが無差別に攻撃を始めてる。


 白き流星の佐々木の赤い目を目にしたテイム魔物も、敵味方の区別なく暴れ出す。


 中には僕のアバターを攻撃しようと動き出しているテイム魔物もいた。


 アバター二人を背に乗せて駆けていた人馬兵が突然、両前足を持ち上げ、暴れ出す。宙に投げ出されたのは、小恋路と僕のアバターだ。


 小恋路のアバターは空中で僕のアバターをお嫁さんダッコにして抱え、地面に着地する。


 味方だと思っていたテイム魔物が、ここに来てまさかの命令無視。いや、これは操られている。白き流星の佐々木の魔眼がこの場を混乱の渦に書き換えた。


 後方から人馬兵が僕らのアバターに突撃をかまそうと石畳を蹴る音を響かせ、どんどん距離を詰めてくる。


 それを阻むため、ゲームの中の玉ちゃん十一号が、ぐんぐんと大きくなると、舌を十本長く伸ばし、牽制行動をとり始める。


 突き刺す赤き光は、僕と小恋路以外のゲームアバターとゲームプレイヤー双方に影響を与えたと分かったのは、この直後だった。


 赤い光が駆け巡った後、無口だった二人が不自然な体勢のまま、ソファから立ち上がる。


 次の瞬間には、新之助、美穂、この二人が一斉に僕のほうに振り返る。


「え、どうしたの?」


 と口を動かしている間に、八神家のリビングルームは、一気に緊迫感に包まれた。


 ゲーム世界の理論がいつの間にかリアル世界に入り込んでいるとか、普通ならあり得ないことが現実に起こった。


「佐々木様に逆らう庶民は排除しなきゃね。それこそが正義よ」


 視線が定まっていない美穂は、ゲーム機を鈍器のように振り回し、小恋路に襲い掛かる。


「ふふふ、油断しすぎよ。最後は佐々木様の勝ちね」


 そう美穂は勝ち誇るが、小恋路のステータス値のほうが確実に上をいく。

 直ぐに両手を取り押さえられた美穂は、簡単にソファに沈められる。


「何してんの、美穂ちゃん。馬鹿なことは止めて」 


 小恋路が馬乗りになった体勢から、両腕を必死に振りほどこうと暴れる美穂。


「いやー、佐々木様、助けてー」


 たった数秒、二人の取っ組み合いを呆然と眺めていたら、次は僕のほうにも騒動の芽が襲い掛かってきた。


「翔太、悪いけどよ。死んでくれ」


 まず、一気に詰め寄った武田に柔術の技を極められ、簡単に組み伏せられた。

 目をギラギラさせた武田が、そのまま勢いよく拳を振り上げる。


 僕はその拳を右手でガッチリ掴む。

 四つのジョブを持つ僕のステータス値なら、正直、武田相手に恐怖はほとんど感じない。


 ただ、どう諫めたものか、武田の扱いに困る。


「ああ、もう、武田君も逝っちゃってたか。翔太、わたし、美穂ちゃんを取り押さえてるから、無理。自分で対処して」


 小恋路は、しっかり美穂をホールドして落ち着くのを待っている様子だ。


 武田は、もう一方の拳を叩きこもうと構えをとった。

 

 武田も美穂、二人ともおかしい。顔つきまで変わってる。


(これ、完全にやられてるパターンだ) 


 頭の中はパニックで、これからどうすればいいか、それが頭に浮かんでこない。


 風景が、妙にゆっくり流れていく。


 武田の拳が僕の顔の寸前まで届きそうな瞬間――


 武田と美穂は、マネキン人形のように身体の動きが固まった。



 ◆◇◆◇◆◇



「はあ……訳わかめ。っていうか小恋路、怪我はない?」


 彫像のように関節もカチカチの武田と横にどかすと、何とか起き上がる。


「わたしは大丈夫よ。翔太の方こそ、危なかったんじゃないの。普通に本気出せば、今の武田君なら力ずくで対処できるのに、やらないんじゃ、宝の持ち腐れだよ」


 僕は状況判断が追いつかず、真っ白になりかけた頭を鞭打ちながら、小恋路とやり取りを続ける。


「無理だって。小恋路だって、マリアに手を上げられないでしょ。それと同じ」


 小恋路は、馬乗りだった美穂から退くと、その横のソファに座る。


「まあ、そうだけどさあ。今日は見事にやられたわ」


 ご機嫌だった小恋路は、すっかりふくれっ面になっている。

 そして僕の胸の中心に視線を合わせると、自分の鬱憤をそのままぶちまけた。


「はあ、どうせこんな手間暇かかること、考えて実行に移したの、フェアちゃんしかいないでしょ。そろそろさ、どういうことか説明してほしいんだけど……」


 それが合図だったのか、僕の心臓付近から、サイコ妖精フェアが飛び出してきた。


「翔太様、小恋路ちゃん、いけませんね~、油断しすぎですよぉ。この佐々木ちゃんコピー体ですけど~、本人と同じで『支配眼』を持ってますから、ここぞというときに洗脳してきますからね。気を付けてくださいです~」


「え、『支配眼』ってなにそれ?」


 僕がそう問うと、小恋路からは思い出したかのような反応が返ってきた。


「ああ、そうだったわね、そういえば、マリアから電話でそういう話を聞いてたわ。でも、ゲームだと思って油断してた。そっか、サイコチックなフェアちゃんなら、こうなることも想定しとけってことね。うん、勉強になった。でも、他にも言うことあるでしょ」


 小恋路は、フェアに反省を促したいようだけど、今度はフェアの方が、わかってない様子で、首を傾げていた。


 とはいえ、僕にとっては初耳だった。


 ただ、その物騒な名称のスキルこそが、この状況を引き起こしたのだと、ようやく理解が追いつくが、これは台本ありきだったのかと思うと、胸の奥でじわじわと何かが煮え立つ。


 そこへフェアから黒い思念感情が流れ込み、僕はそれをその身に受け入れた。


 その感情には、あえて油断させていたことを今さら打ち明けるような色が混じっていた。


 そこから分かった情報は――


 ボス敵、白き流星の佐々木のもつ『支配眼』のレベルは十五。


 まだ僕らほどレベルの高くない武田も、フェアの術中にまんまと引っかかった。


 佐々木本人の『支配眼』レベルはまだ三だというが、新人研修の件で魔人に目をつけられたそうで、いまから対策を講じるのは、どう考えても理にかなっている。


 他にも、重要な点が残っている。


 今回は偶々《たまたま》僕と小恋路は精神耐性があったから良かったものの、探索者ではない美穂にとっては、これから大きな課題になる話だ。


 そんなダンジョン内の駒になった佐々木コピー体だけど――


 普段は、完全に玉ちゃん三号の支配下にあるから、『支配眼』の使用行使権も掌握済みらしいから、一応の安心材料になる。


 つまるところ、今回は僕に警告を与え、いつなんどきも油断は禁物と、危険をコントロールできるゲームを通して伝えたかったようだ。


「今回は、フェアがみんなの魂に精神障壁を施してありますので、最悪のケースは避けるよう対策済みですけど~、これ、ゲームだけじゃなくって~、プレイヤー本人にも効果及ぼしますからね。次からはしっかり対策するようにしてくださいね~」


 こちとら探索者になって二日目のド新人に対策といわれても、何も思いつくわけがない、というわけで恥ずかしがらずに尋ねてみた。


「でも、どうやって対策すればいいの?」


 僕のその言葉を待っていたように、ニコッと笑みを浮かべると、胸を張って答えを返す。


「えへへ~です。もう、対策、終わっちゃいました~。ご安心くださいですぅ。フェア特製の『精神耐性もりもりバフ卵』と、『洗脳解除もりもり回復卵』を卵BOXにそれぞれ五百個ほど作り置きしておきましたので、佐々木対策にお役立てくださいです~」


 寄生妖精フェアさんが、一番僕のスキルを使いこなせる。

 これはもう、僕の中では当たり前の光景になりつつある。


「ああ、そういうこと。さすフェア。ありがとさんね。何か色々助かったよ。

 ……でもね、これさ、いろいろやり過ぎじゃね」

「そうよ。やり過ぎよ。楽しいムードが台無しよ」


 小恋路が横から賛同し、フェアを厳しく睨んでいる。


 ただ、そうは言っても、フェアさんがいるからと油断していたのは確かなこと。


 ゲームウインドウを見れば、フェア複製体が一人、現場を掌握しょうあくしていた。


 僕と小恋路のアバターを除けば、この場で動けているのは、玉ちゃん十一号くらい。


 あとは、他の二人どころか、この場にいる全員が、ことごとく石化していた。

 唯一、石化耐性のある岩ゴーレムはこの場から回収卵に内包され離脱し、魔物転移門(モンスターゲート)は全て消滅済みだった。

 

(……圧倒的すぎる)


 ただ、今回みたいに、たまたまフェアが何とかしてくれるとは限らない。


 もしかしたら、今がゲームで言うところのチュートリアルで、それが終わったら、フェアが敵側に回るとか、あり得そうで笑えない。


 その当たり前を、ちゃんと自分の肝に銘じておかないといけない。


「じゃあ、テストプレイ再開しますね。あとヨロシクです~」


「あー、フェアちゃん、逃げないでよ。ちゃんと説明してよ!!」


「ドッキリ大成功デース」


 フェアはそう話を締めくくると、僕の心臓部分にスルリと入り込み憑依した。


 暴風雨に見舞われた後の八神家のリビングには、その直後に黒い穴――卵BOXが現れ、そこから卵が四つ飛び出した。


 卵が時間を止めている武田と美穂に触れた瞬間、殻が崩れて魔素粒子が体内に染み込み、白い霧状の粒子が立ちのぼる。


 次の瞬間、止まっていた時間が動き出したかのように、武田と美穂は息を吹き返した。


 ◆◇◆◇◆◇



 まず目覚めた二人は、理解の範疇はんちゅうをこえた戸惑とまどいの表情を浮かべている。


「おい、これどういうこった。俺、こぶし振り下ろそうとしてたよな。これ、翔太を相手にしたってことか……なんだか、わけわかんねえ」

「え、何が起こったの? なんでわたし寝てるの? っていうかこれも全部、ゲームの仕様?」


 フェアに関することを省き、二人に事情を説明すると、更に深い困惑こんわくの表情を浮かべた。


「これ、本当に販売する気あるの? ゲームプレイヤーを洗脳するゲーム機なんて、絶対あり得ないと思うけど。っていうか、わたし小恋路姉におそい掛かったんだよね。ごめんなさい、小恋路姉……」


 美穂の謝罪しゃざいに戸惑う小恋路。


「いいから。別に気にしないで。わたしも気にしてないから」


 美穂に向けて答える声は、無理くり明るく勤めてる印象を受けた。


 武田は、いきどった表情をもはや隠そうともしなかった。


「マジかよ、また佐々木の手のひらで踊ったわけか。翔太にもまた世話駆けて、すまねえ。てーか、ああ、畜生ちくしょう! 悔しいぜ!!」


「……とりあえず、一回、休憩いれよっか」


「そうだな……頼む」


 折角の楽しかった雰囲気が、ちょっとピリピリした感じになってしまった。

 美穂は、少し涙目になりながら小恋路に「ごめんなさい」を連発している。

 武田は両腕で頭を抱え、物思いにふけっている。


「新之助、あんまり落ち込む必要ないって。失敗を含めての修行だし」


 武田の肩をポンと叩き、声を掛ければ、


「わかってる。……ちょっと時間をくれ」


 押し殺したような武田の声が返ってきた。


 気持ちはわかる。


 今はしばらくそっとしておこう。



 ◆◇◆◇◆◇



 一度、ここの空気を変えようと、僕はダンジョンWi-Fiルーターの電源を切って、テレビをつけた。

 

 すると、テレビ正面に浮かぶワイドウインドウはほどけるように溶けて消えて、代わりにテレビ画面から映像が映る。


 今の時間帯は、ちょうど夕方のニュースが流れている。


『探索者ギルド、魚津うおず支店の中継現場からお伝えします。本日昼二時過ぎに、二十一日の新人研修から行方不明だった中学生三人が救出されました。救出されたのは……』


 引きり生活を満喫してても、世界はしっかり動いてるのを実感できる。


 ただ、よく見ればこのニュース……僕ら、バリバリの関係者じゃないのという疑問が立ち始めた。


 テレビ画面の現場映像の次に差し込まれた行方不明者三名の写真は、どこかで見た覚えのあるものだった。


(うん? あれ? どゆこと? この写真、見覚えありまくり何ですけど……)


 三人の写真は、見間違えようがない、新人研修でバッタリ合った佐々木 勝正(ささき かつまさ)の取り巻きたちだった。


 新人研修時に、武田、上杉、マリアの三人を襲撃しゅうげきしたときの首謀者一味で、フェアが襲撃鎮圧しゅうげきちんあつしたときに、捕縛洗脳卵ほばくせんのうたまごに内包させて、その数時間後に開放したはずだったのに。


(……訳わかめ)


 その僕の頭の中に浮かぶ疑問に、サイコ妖精フェアさんから種明かしの念話が送られてきた。


(本当はサプライズでゲーム景品にしようと思ってたんですけど~、翔太様達、全然ゲーム進めなかったから、要らなくなったんで、ダンジョンにポイしときました~、一応、この数日間の記憶は削除済さくじょずみですから、問題ないと思いますけど~)


(いやいや、問題ありまくりですけど……)


 この念話は小恋路にも共有されたようで、その表情が呆れ果てたものにかわる。

 そんな小恋路は、テレビ画面をみて、ため息をつきながら、小声で呟く。


「……フェアちゃん、暗躍あんやくしすぎでしょ」


 あ、いま、首謀者しゅぼうしゃの名前をだしたら、ハブられてる武田が反応するでしょ、と思ったところで、やっぱりそうなった。


「なあ、もうそろそろ、いいんじゃねえか。どうやって襲撃事件が片付いたのか、俺にも教えてくれよ。誰にもいわねえし。約束するから頼む」


 事件のその後の進展に興味津々《きょうみしんしん》の武田は、この機会に襲撃事件の真相を聞きだそうと、小恋路に話を振っていた。


 なんだかいろいろ面倒な感じになってきたなと思ったら、それ繋がりでふと思い出す。


 慌ててスマホを覗いてみたら、ギルドGメンの黒田さんから、今日だけでメールが数回届いていた。


(あ、ヤバッ……これ明日の探索者ギルドでの呼び出し、激詰め、確定だわ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コメントや評価、レビューよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ