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卵売りの迷宮術師 規格外ジョブで神々の盤上をひっくり返します  作者: 黒いきつね


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第39話 小恋路と愉快な仲間たち、敵ボス戦のテストプレイ出撃

 PDSに入っている『ダンジョンバスターズ』をクリックすると、宙に一つウインドウが投影され、画面上に文字がタイピングされていく。


『ダンジョンバスターズを起動しますか?』


 ――《YES》


 ボタンをクリックすると、さらに文字が打ち出された。


『ダンジョンオンラインを起動します……接続完了』


『プレイヤー名:朝倉 翔太のアバターをロードします……ロード完了』


『ダンジョンバスターズを起動します……起動確認しました』


『これより、ゲーム接続します』


『それでは、楽しいゲームライフを――』


 ダンジョンバスターズが起動し、正面のメインウインドウには、ゲームアバターを背後から見下ろす俯瞰視点の映像が映し出される。同時に、左右と上部にもウインドウが展開された。


 続けざまに、美穂アバター、ジェミホスからパーティ申請が届く。


『ジェミホスから《小恋路と愉快な仲間達》へのパーティ申請が届きました。

《YES》 or 《NO》』


 ――《YES》


「これで、いいの?」


「大丈夫よ。じゃあ、転移魔法いくね」


 美穂が魔法ボタンを押したのだろう。コントローラーのマイクから、美穂の声色そっくりの詠唱が流れてきた。


「迷える仲間の魂よ、天の導きに応じて我が側へ還れ。

――聖環召集ホーリー・サモンリング!」


 足元に魔法陣が浮かび上がり、効果が発動する。


 パーティ登録されたメンバーが強制転移し、ジェミホスの周囲へと呼び寄せられた。


 その中に、僕のアバターも含まれている。


 僕は、ソファで体育座りしてゲームをしている美穂の方へ顔を向け、軽口を挟んだ。


「とうとう中二の美穂も、立派な中二病患者だね。今度、新人研修で脱落したクラスメイトのお見舞いに病院行こうと思ってるけど、一緒に行く? なんなら診察代も奢ったげてもいいけど……」


「翔兄、これ、わたし言ってないし。いくら顔が同じアバターだからって、これジェミホスの声だから、勘違いしないでくれる」


「でも、このゲーム。中二病の発症リスクが結構高めだから、気を付けたほうがいいかもね」


 僕は、美穂に向けて、そんな軽口の忠告をした。


「確かに……何度も自分の声で呪文詠唱され続けたら、気付いたら無意識でやってたとか……それ、ガチで笑えないし。特に友達の前で披露しちゃったら、最悪だわ」


 と言う美穂の言い分のすぐ後に、僕の身体に憑依するフェアからの念話が、頭の中に差し込まれた。


(翔太様、美穂ちゃんクリソツのジェミホスがサーバントカード化したら、現実ダンジョンでもゲームでも滅茶苦茶目立って、ネットミーム化コース一直線ですよ~。今のうちに教えてあげなくていいんですか~?)


 僕の頭の中に、フェアさん監修のイメージ映像が届く。そこでは、美穂クリソツの上半身を持つ天人馬が、現実ダンジョンで無双していた。


 周りの上級探索者たちの必需品であるAIドローンには、ばっちり映像記録が残り、そのデータがネットに動画として拡散されていく様子まで、やけに生々しく映し出されていた。


(ああ、そういう話か。やっぱりね。ここにも妖精の罠が仕込まれてたよ。でも、今ここで水を差すのもなあ……。少なくとも今日は、僕は何も知らなかった線で行こっか。その方がこの場は平穏だしね)


 僕は自分のゲームアバターを操作して、みんなにフェア特製バフ卵を渡しつつ、頭の中でフェアとのやり取りを続けていた。


 フェアからは、僕の頭の中での会話に対する答えが念話を通して流れ込んできた。


(いいと思いますぅ。楽しみは後に取っておくものですし。美穂ちゃんには、チョロいと命取りってことを学んでもらいましょうね~)


 本質は、無邪気な悪戯好きの妖精なんだろうと、また一つフェアの性格が分かった気になったけど、付き合わされるこっちとしては溜まったもんじゃない。


 そこで、一つの疑問が頭に浮かんだ。


 せっかくなので、そのまま頭の中で直接、鬼畜精霊フェアに尋ねてみる。


(ねえフェアさん。一昨日さ、僕らが無双した御経塚の魔物進軍掃討戦、あの時もAIドローンとスマホなんかの映像、全部フェアに丸投げしてたけど、今のイメージと同じ目に遭うとか、ないよね?)


 それに対する回答も、AI解答以上のスピードで頭の中に流れ込んできた。


(その辺もしっかり対処済みですぅ。御経塚のときも、黒田ちゃんの撮った映像をあえて見逃したくらいですかね~。どうやら、その映像がいろいろ歯止めになってるみたいですよ。まあ、うるさい蠅はペシッてしちゃいますし、翔太様に危害がないようにしてますから、ご安心くださいです~)


 フェアが憑依していることで、彼女自身がもつ並列思考スキルLv.MAXと高速思考 Lv.MAXを僕は使用できる。


 もちろん、このままじゃ魂への負担が半端ない。


 だから今の僕のレベルに合わせて使えるように、フェアが細心の調整をして、スキルを共有してくれている。


 憑依したての頃は全然無理だったけど、少しずつ、みんなとの会話にも参加できるようになってきた。


「あと、言ってくれたら、人馬兵も貸し出すから、欲しかったら言ってね」


 と、こんな感じで、みんなと自然に会話を挟みながら、このフェアとのやり取りをそのまま続けていく。


(桁数がヤバいDP借金まで背負わされて、「信用してくれ」って言われても、正直ツッコミどころしかないんだけど……)


(フェアさん、くれぐれも途中でバックレるとかしないでね。マジで)


 気づけば、フェアに頼らざるを得ない場面ばかりが積み上がっている。


 ここまで依存させておいて、最後に梯子を外されたら――次の瞬間、僕の人生はゲームオーバーだ。


(そんなに心配しなくても大丈夫ですぅ。ゲームオーバーになってもコンティニューすればいいだけですし~)


(はあ、フェアさんや、定期的に伸し掛かる精神負荷、少し緩めて貰うこと出来ませんか~)


(考えておきまーす)


 ちょうど、頭の中でフェアさんとこんなやり取りをしていると、僕の隣のソファに座る小恋路から声が掛かった。


「じゃあ、みんな揃ったようだし、卵もぐもぐタイムと武田君の風林火山バフもバッチリ。みんな準備いいよね?」


 結局、武田、小恋路の二人のアバターに木造騎士人馬を貸し出した。


 その木造騎士人馬と共に前衛を支えるのが二人の役目だ。


 美穂のジェミホスは、空中からの遠距離攻撃係となった。


 僕のアバターは、卵BOXに封印中の魔物軍勢投入と、後方での卵爆弾係だ。


 小恋路のコメントに引き継ぎ、次は武田が答える。


「おう、もういいだろ。行こうぜ。洞窟ダンジョンボス、俺にとっては因縁の相手のコピーだけどよ。今度こそ、アイツを倒してやるぜ」


 今回の三人パーティだと、まだ一度も撃破できていなかったようだ。


 ログには「白き流星の佐々木」と渾名で載っている佐々木コピーだが、その再生能力は桁外れらしい。


 腕を切ってもしばらくすれば生えてくるという、蜥蜴とかげもドン引きな仕様だ。


 ボス敵の技のレパートリーの中には、自分自身の劣化コピー体を大量に出現させる、嫌らしい特殊攻撃もあるらしい。


 しかもどうやら、パーティメンバーが増えるほど、強くなる仕様になっているようだ。

 

 とはいえ、蜥蜴以上の再生能力をもつボス敵にされ、佐々木本人の夢はさぞかし、悪夢チックに彩られることだろう。


(ご愁傷さまです)


 僕は佐々木に寄り添う軽口を心の中で言う。


 武田の次に回ってきたのは美穂だった。


「わたしのジェミホスちゃんの初陣ういじん、綺麗に決まらなかったから、今度こそリベンジしちゃうよ」


 美穂も自分の決意を表明していた。


 そして、最後にパーティ参加した僕が締めを飾るこの場の雰囲気だったから、勢いに任せて、それっぽい締めを口にしてみる。


「それじゃあ、ボス戦のテストプレイ開始だね。《小恋路と愉快な仲間たち》での、初のボス敵撃破、目指して頑張ろう……って締めでどうかな?」


「いいんじゃない。翔太らしいし」


「優兄みたいなリーダー気質じゃないから、翔兄はそれでいいよ」


「逆にオレオレな感じで来られたら引くし、それでいいんじゃね」

 

 なんか散々な言われような気もするけど、まあこれくらいが僕にはちょうどいいのかもしれない。


 こうして、僕らの即席パーティ《小恋路と愉快な仲間たち》は、洞窟ダンジョンボスの待つ戦いの地へと歩み出した。




 ◆◇◆◇◆◇




 ここは、洞窟ダンジョン最奥へと続く洞窟通路。


 僕たちのアバター一行は、まっすぐその通路を進んでいく。


 石畳の通路の左右には、起伏の激しい硬い岩肌が続いていた。そこにはヒカリゴケがびっしりと繁殖しており、淡い虹色の光が連なる回廊のようなおもむきかもし出している。


「綺麗な場所だわ。本物だったらいいのに」


 小恋路は、ゲーム機の画面をうっとり眺めながら言ってる。


「そうだね。ただ、そういう神秘的な場所を、現実のダンジョンで見つけるのも、探索者の醍醐味だいごみの一つでしょ。小恋路なら、きっとすぐに見つけられるよ」


 僕はそう小恋路にアドバイスしたけど、実は、もっと簡単にその場所にいけてしまう。


(これが……実現する本人が望む望まないに関わらず)


(――だって僕って、迷宮術師だし)


 行こうと思えば、向こうのダンジョンとここの八神家に迷宮ポーターを作って、両方の魔法陣を開通させれば、すぐにでも行き来ができる。


 ……けど、一度それをやって見せたら、小恋路のことだ。きっと「アバターじゃなくて本人で行く」とか、目をキラキラさせて言い出しそうだから、今は黙っている。


 正直、美穂以上のアッシー君になる未来が頭をよぎって、ゲンナリした。


 ともあれ、この通路の先に待ち構えているのは、周囲を優美な石柱の列にぐるりと取り囲まれ、鍾乳石の天井に覆われた、神殿めいた円形の大空間だ。


 その天井からは、青く光る鍾乳ツララが無数に垂れ下がり、淡い輝きが「断罪の儀式場」と呼ばれる広々とした大空間を、儀式の舞台のように照らし出している。


 頑丈そうな石畳が隙間なく敷き詰められたその光景を一望したとき、ここが迷宮ボスとの闘争の場であることを、視界に入るすべてが無言で告げているように思えた。


 その舞台中央に、このダンジョンのボスが腕を組んで立ち、僕らを待ち構えていた。


 僕らがこの場に辿り着くと、ダンジョンボス――白き流星の佐々木は重い口を開く。


「よくぞここまで辿り着いた。歓迎しよう、愚劣な庶民共よ。我こそは――白き流星の佐々木。このダンジョン最後の守護者にして、終わりなき門番」


 白き流星の佐々木は淡々とセリフを話していく。

 そこに、武田が言葉を被せる。


「白き流星の佐々木さんよ。お前さんには関係ねえかもしれねえが、すまねえが、ボコらしてくれや。頼むわ」


 小恋路は、ポテチを頬張りながら、PDSに向けて手を合わせている。


「もうそのセリフ、何回も聞いてるからどうでもいいけどさ、ちゃんとレアドロップ出してよね? おねがいよ!」


 美穂は、二年生に代替わりする前の生徒会長の激変ぶりに、苦笑しつつも素直な感想を述べる。


「なんかさ、ゲームの中の佐々木先輩。悲壮感ありすぎじゃないかな。まあ、小恋路姉から佐々木先輩が入院してるって教えて貰ったし、普通に体調が悪いんだったら、しゃーないよね……」


 武田、小恋路、美穂とそれぞれがコメントを話してるけど、白き流星の佐々木は、構わず、愚直に自分に与えられたセリフを感情をこめて言い連ねていく。


「それだけが我に与えられた使命。その使命を果たし続ければ、いつか開放されるという、僅かな可能性に賭けている。ゆえに、貴様ら侵入者は、刈り続けるための糧にすぎん」


 そんなセリフがゲームコントローラーに付属してあるサウンドスピーカーから流れてくる中で、僕は何気に頭に浮かんだことを口に出してみた。


「ちなみにさ、この中二ボイスだけど、録音して本人に聞かせたら、どうなると思う?」


 僕の言葉に武田が反応を示した。


「お、なんか面白そうだな。やってみっか。夏休み明けの楽しみ、増えそうだぜ」


 だが、小恋路が冷静な言葉を投げかけた。


「いや、止めときなさいって。今の世の中、そういう訴訟、増えてるってよく聞くし」


 小恋路の発言を受けて僕はそれに答える。


「そっか。裁判沙汰は嫌だな。っていうか、このゲーム出したら、訴えられるんじゃないの?」


 僕の疑問に、頭の中で幻視したフェアがクスクス笑いながら、答えてくれた。


(全国の石碑販売網に乗せたら、さすがにしませんよぉ。いまは武田ちゃんのトラウマ完全解消のステップを踏んでるだけですから~。これが上手く入ったら、上杉ちゃんとマリアちゃんにも同じ工程を踏んで貰おっかと考えてますけど~)


(そういうことね……ただ、今一つ気付いてしまった)


 ああ、これまでは念話だけだったのに、とうとう、頭の中にまでフェアが幻視しはじめた。着実に侵食されつつあると見るべきか。いままでやってこなかっただけと受け取るべきか。どっちだろ。


(前者でーす)

(ああ、そうですか。じゃあ、それ、やめてもらっていいですか? さすがに頭の中にまで侵入されると、プライバシーが侵害されまくりなんで)

(アイアイサー)


 さてと、これで一つ不安の種が消えた。


 それとは別にして、このリビング空間。


 ゲームの中の戦いだから、ピリピリした緊張感は、一切ない。


 みんなののほほんとした会話の様子を見れば、察して然るべきものだけど。


 それでも、愚直にセリフを述べる白き流星の佐々木が、なんだか不憫に思えてきた。


 ただ、それでも――テストプレイはテストプレイだ。


 新人探索者の僕の精神修行のためにも、ここは逃げる場所じゃないし、フェアがここまで段取りを整えてくれたんだから、真剣に遊ぼう。



「準備は良いか。良いのならば、始めよう――無限の戦いの儀式を」



 このセリフの合図とともに、ダンジョンWi-Fiルーター付近の宙に投影された巨大ワイドスクリーンには、ダンジョンボス――『白き流星の佐々木』のHPゲージが浮かび上がる。


 同様に、PDSゲーム機の正面ウインドウにもHPゲージが表示された。


 さあ、僕たちのボス戦テストプレイが始まった。



 ◆◇◆◇◆◇



 第一声は小恋路だった。


「始まったよ。みんな。作戦通りにお願いね」


 白き流星の佐々木は、僕らの動きを予測していたのか、いきなりこの場から消えた。


「ああ、また消えた。でも、これの対処方法はわたしにお任せ」


 美穂は、一番雄大なペガサスの翼を羽ばたかせながら、ジェミホスを空中を駆けさせると、大天使の上半身の背中の四枚の羽根を大きく広げ、無数の羽根を無軌道に投射した。 


 その無数の白い羽は自動追尾できるようで、透明佐々木を追いかける軌道を描く。


 しかし、すぐさま、敵の六枚の羽根からも無数の白い羽が放たれた。


 両者の無数の羽根は、空中で激しくぶつかり合う。


 接触した羽根同士は小さな爆発を起こして、宙に散っていく。


 あっという間に始まった激しい空中戦に呆気にとられた僕は、アバターを操作してなかったことに気付く。


「翔太、そのまま動かないで」


 ゲーム中、気がつくとお互い背中合わせだった僕ら、小恋路は後ろから僕に声をかけてきた。


 直後、小恋路アバターの乗った騎士人馬兵が通り過ぎようとした、まさにその時、彼女の手が差し出される。


 自然にその手をとると、華麗な小恋路アバターの手さばきにより、僕のアバターが綺麗に着地し、騎士人馬兵の背に跨っていた。


 その僕のアバターがいた場所には、ドッカーーン、という衝撃音を一緒に地面が吹っ飛び、勢いよく土煙が舞った。


 衝撃後の地面は、天井から落ちてきた鍾乳ツララが深々と突き刺さっていた。


「わお、危なかった」


「うん、同じ場所にずっと居ると、あんな感じでツララが落ちてくるの。覚えといて」


「ははは、これ、ゲームで良かったわ」


 現実だったら、当たりどころが悪ければ普通に死んでた。


 僕たち二人のアバターを乗せて駆ける木製騎士人馬兵だが、その周りで黒い渦が幾つか出現しだした。


「あ、これ、魔物召喚門(モンスターゲート)だよね」


 僕の声が切っ掛けだったのか。


 黒い渦から、次々に泥人間が這い出てくる。


 ウインドウログ画面を見ると「量産型クレイマン佐々木が出現した」というログがズラ―ッと積み上げられていく。


 試しに、卵売りの商人(リトルエッグセラー)のサブスキルから、『手裏剣卵』を何個か生成して投げてみたら、刺さりはするけど、ダメージは入って無さそうだ。


 そこへ、小恋路アバターが木製騎士人馬兵の背に跨りながら、呪文詠唱を繰り出す。


「瞬け雷よ、一筋の光となりて貫け。

 ――雷閃射ライトニング・ショット!」


 小恋路アバターは敵に向けて指先を掲げると、そこから細い電光を打ち出し、心臓部分を貫く。忽ち、量産型クレイマン佐々木の一体は、黒い流砂の山となって崩れ落ちた。


「うわ、スゴッ、一撃じゃん」


「まあね。狙うのは心臓付近の核よ。それ以外はダメージ無効ね」


 リビングルームで声を掛け合いながら、ゲームの中では、小恋路アバターが継続して無双していた。


「集え、雷の精霊。撃ち抜け、雷弾。我が前の敵を滅せよ――雷球砲弾(プラズマショット)


 小恋路アバターは、何度も切れ目なく呪文詠唱をし続け、初弾が早いけど射程が短い雷の弾丸と、射程距離が長く攻撃力が高めの雷球を使い分けている。


 そして、次から次へと追い縋ってくる量産型クレイマン佐々木を一撃の元に葬り去っていた。


「……面倒だね。その弱点」


「ホントよね。これまた泥沼戦に突入パターンだわ。まあ、無限経験値集めになるから良いけど疲れるのよね、これ」


「じゃあ、翔太アバターの超高性能、魔力モバイルバッテリー機能、ONにしとくから、魔法で適当に数減らす感じだったら、いけそう?」


「うん、それなら問題なしね。さすがはわたし専用モバイルバッテリー彼氏君。ちゃっかり後ろから、わたしのアバターの胸をガッチリ掴んでるのは、流石よね」


 小恋路自身にはする勇気がないヘタレな僕だけど、ゲームの中だったらなぜか普通に出来てしまった。小恋路本人にも、頼んだら少し揉ませてくれるものだろうか?


 今度、罰ゲームで僕が勝ったら、頼んでみようかと一瞬思ったけど、やっぱヘタレな僕だから、無理そうだ。


 リビングルームのソファで僕と背中合わせの小恋路は、ゲームコントローラーを手にしたまま僕のほうに体重をかけてきた。


 小恋路の髪から漂う甘い匂いが、僕の嗅覚を刺激する。


(ふう、良い匂い)


 いまは、この感覚だけでも、僕は十分満足だから、まだいいや。


「えへへ。それほどでも。じゃあ、小恋路のほうはこれでいいとして、新之助は、どう? 援護要る?」


 向かいのソファの武田に声を掛けると、すぐに返事が飛んできた。


「おう、頼むわ。こいつら超うぜえ、囲まれたら身動きとれなくなるからな」


「じゃあ、この前みたいに、ウッドガーゴイル五十体と木製人馬兵五十体召喚するから、後は新之助が指揮とって」


(フェアさん、ちょっとだけ力、貸して貰えるかな)

(アイアイサー)


 この前のモンスターハウスみたいに、普段は専用の魔物収納卵に封印してある、こちらの軍勢を一斉に投入してみた。


 空中に一斉に無数の卵が出現すると、眩しい光を伴って次々に孵化していく。


 次の瞬間には、ウッドガーゴイルの群れが空を舞い、木製人馬兵の軍勢が「断罪の儀式場」に舞い降りた。


「って、そういや、この前の翔太、マイク越しに魔物に命令してたもんな。なんかよ、指揮官になれるって、面白そうじゃねえか。任せとけ。やってやらあ」


「あ、そうだ。使いどころが無かった御経塚の《《あの魔物》》も投入してもいいかな?」


「なんだよ。あの魔物って……」


「……竜トカゲ」


 この場の空気が一瞬、止まったような気がした。


 ちなみに正確な名前は、リザードドラゴン。


 その見た目は全長十メートル超えのトカゲの化け物。


 この魔物は、御経塚、魔物進軍掃討戦で最初に狩った魔物だ。


 拘束され身動きの取れない竜トカゲの首を、黒田さんが刈り取る前に、遠くから石を投げて一撃を与えた。そしたら、卵生成スキルに魔物登録されたのは、つい一昨日のことだった。


 この竜トカゲ、ゲームだったら、解き放ってもいいかなと思って提案してみた。


 そしたら、武田は「へッ」という感じの呆然とした顔を晒し、ソファに座る僕のほうをガンミしてる。


 背中を合わせ合う小恋路からは「はー」というため息の音が伝わってきた。


「マジかよ。翔太、お前の卵生成スキル。マジ、パねえわ。いいぜ、やってくれ」


 武田からの了承を得られたと思いきや、そこに小恋路が話を被せてきた。


「それなら翔太、昨日さ、このゲームで岩ゴーレムも討伐してたでしょ。あれも登録してあるんだったら、もうこの際だし、一緒にだしちゃえば」


 こう投げやりな提案をしてきた。


「マジかよ。それやったら、怪獣大戦争はじまるぜ」


 武田は、もう信じられない表情を隠そうともしない。


「何々、どういうこと?」


 一人、探索者じゃない美穂だけが、話が通じていなかった。


「面白そうだし、そうしよっか。じゃあ、蹂躙タイムいってみようか」


 そんな言葉を投げかけた僕はフェアサポートのもと、新たな魔物を投入してみた。


 距離を取って、ひと際大きな卵が宙に二十個出現した次の瞬間には、光の放流を伴って一斉に孵化しだす。


 煌めく魔素粒子が途絶えて、この場に現れたのは。


 全長十メートル超の巨大リザードドラゴン――五匹。


 全長六メートルくらいの岩ゴーレム――十五匹。


 リザードドラゴンはその場にドシンと降り立つと、いきなり量産型クレイマン佐々木をむしゃむしゃと食べ始めた。


 長い尻尾を左右に振るだけで、その馬鹿げた衝撃で、背後の敵らが一斉に弾けた。


 後に残るのは、黒い流砂が飛び散る爪痕だった。


 岩ゴーレムはしゃがみ込むと、もぐらたたきゲームのように、量産型クレイマン佐々木をぶちゅっと叩き潰していく。


 一番びっくりしたのは、岩ゴーレムの大きな可能性だった。


 しつこく大きな岩の手で払い続けたら、蝋燭の火がフッと消える様に、魔物召喚門(モンスターゲート)の空間異常が収まるとは、まさか、思いもしなかったことだ。


 でも、それが現実に目の前でおこってしまった。


(フェアさん。これどういうこと?)

(ああ、これですね。魔物召喚門(モンスターゲート)を閉じるには、空間属性が必要ですから~、岩ゴーレムに空間属性付けときました、駄目だったですか~)


(いや~、駄目じゃないけどさ~)


 僕の考えじゃ、召喚しても一匹二匹の規模観だったのに、フェアさんとは、またも価値観のづれが生じてた。いや、これは確信犯の気がするな。


 とはいえ――。


(これ、やっぱ、やりすぎかも……)


 どんどん数が増えている量産型クレイマン佐々木がまるで、相手になってない。


 武田はソファに寝転がり、感激のポーズを繰り出していた。


「うおーー、すげーー、これ現実のダンジョンでやったら、翔太、お前一躍ヒーローじゃね」


 武田の燥ぎぶりに対し、僕はため息をつきながら、自分の主張をしてみた。


「それ嫌だし。僕、もともとヒーローってガラじゃないって。目立つ予定も今のところ考えてないし、やっぱ、平穏が一番だよ。そう思わない?」


 武田は、アバター操作をしながら、小さく呟く。


「……そりゃあ、モッタイねえな」


 そこへ、お気楽な口調の小恋路が、武田を諭す。

 

「その分、わたしたちに活躍の機会を回してくれると思えば、いいんじゃない?」


 武田は、小恋路の方に顔を向けると、大きく口を開く。


「お、そういう考えもあるな。まあ、そうだな。ここは一つ、翔太にオンブにダッコしとくか」


 そして、この場の空気の中で、一人当惑する美穂は、首を左右に振りつつ、誰に向けてでもなく、自分の思いを口にしていた。


「なんかさ、うちの翔兄、いつのまにかチート兄さん――『ちい兄』になってたんだけど……これ、マジでヤバくない?」


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